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“アロンアルフア”の東亞合成が歯科に?──止血・保護材『アロンキュア デンタル』の正体

著:Dentwave /

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「アロンアルフアの会社が、止血材?」その意外な挑戦から始まった

「あのアロンアルフアの会社が、歯科の止血材をつくったらしい」。
そう聞いたとき、驚いた歯科医師も多いのではないだろうか。
東亞合成といえば、瞬間接着剤「アロンアルフア」で知られる老舗化学メーカー。だが今回、歯科用止血・保護材として新たに誕生した「アロンキュア デンタル」に使われているのは、アロンアルフアとはまったく異なる“接着の新技術”だった。
“止血できない”という日常の悩みに、まったく新しいアプローチで応える──。
その背景にあるのは、臨床の困りごとに真正面から向き合おうとする姿勢と、接着技術に長年取り組んできた企業としての誇りである。
今回、アロンキュア デンタルを製造する東亞合成の製品開発チーム(中村様、昆野様、柏屋様)を訪ね、開発背景から製品のこだわり、そして今後の可能性について話を聞いた。

参入のきっかけは「技術」だった。東亞合成が歯科に向かった理由

「我々が出会ったのは、“濡れた生体組織に強力に接着する”という、まさに口腔内に適した技術でした」(中村氏)
アロンキュア デンタルの起点は、ある大学教授が開発した素材技術*との出会いだった。素材には、東亞合成が得意とするポリアクリル酸が使われており、その高い親和性から事業化に興味を持ったという。
*本製品はWispecs®(https://www.wispecs.com/)の技術を使用しています。
「特定の用途ありきではなく、純粋に“技術”から始まったプロジェクトでした」(中村氏)
湿潤環境に強く接着するというこの特性は、口腔内の止血材として応用できるのではないか──。そう考え、同社にとって初めての歯科領域への挑戦が始まった。
「実は、弊社は1965年に医療用アロンアルフアA「三共」という製品を一般用製品に先駆け製造・販売してきました。しかし、その製品の販売は基本的に他社に委ねており、我々自身が医療業界で積極的に開発を行うことは控えてきたのが正直なところです。近年、社内で“アクリルを中心とした化学素材技術を活かし、医療業界に貢献すべきではないか”という議論が活発になり、今回の止血材技術をきっかけに本格的な医療業界参入を進めています」(中村氏)
「これは、メガトレンドに即して”高付加価値製品を創出する”という方向性と合致しています」(昆野氏)

アロンキュアの技術とは?──「圧迫しない止血」を可能にした仕組み

アロンキュア デンタルに使われているのは、化学反応を伴わず、水分を介して生体組織にやさしく接着する素材。スポンジ状の本体が濡れた組織と接触すると、水を吸収して軟化し、粘着性を持ったのち、水素結合によって密着するというメカニズムだ。
「“アロン”という名前から瞬間接着剤のようなものを想像されがちですが、アロンアルフアとは全く異なる技術です」(中村氏)

アロンアルフアは、液体が空気中の水分と反応して固まる「重合反応」によって接着するが、アロンキュアは一切の化学反応を伴わない物理的吸着による接着。この違いを正しく伝えることは、同社としても重視している点である。
「従来の止血材は、生物由来のものや血液凝固を促進するものが主流でした。これに対し、我々が目指したのは、“接着”を使った簡便な止血という、新しいアプローチです」(中村氏)

アロンキュア デンタルの特長は、「生体組織への優れた接着性による止血・保護」であり、合成高分子を主とした製品であるという点だ。
製品の接着は約1〜2秒。わずかに押し当てるだけで十分に接着するため、止血処置が非常にシンプルになる。
「抜歯窩に触れていない面は逆に水を多めに付けることで接着力を弱め、患部以外への貼り付き防止になります。『接着させる面』と『接着を避けたい面』を意識して使っていただくと、扱いやすくなります」(柏屋氏)

「処置者の濡れた手袋や器具にも付着してしまう可能性があるため、乾いた手袋やピンセットで扱うことが重要です。また、アロンアルフアのように“ちょんと置く”だけではうまく接着しないケースがあり、わずかな圧力をかけて初期の粘着性を生み出す必要があります」(中村氏)
さらに、製品は口腔内で自然に溶解して体内へ排泄されるため除去処置が不要。小児や高齢者など、セルフケアが難しい患者にも優しい製品となっている。
「止血は数分で完了し、一定期間保護された後、自然に消失するというメカニズムです。従来の除去が必要な止血材と比べて、患者さんにとって非常に大きな負担軽減に繋がります」(中村氏)

現場の声から生まれた設計。「1院に1個」の常備品を目指して

アロンキュアは、研究開発と同時に現場の声を徹底的に取り入れた製品設計が行われた。
開業医を中心に、口腔外科やインプラントなど外科系の歯科医師にも広くヒアリング。抜歯や裂開、ちょっとした出血など、「大げさな止血材ではかえって扱いづらい」という日常のリアルな課題に着目した。
「従来の止血材は、縫合や圧迫が前提でした。アロンキュアは、“縫わなくていい”、“外さなくていい”ということで、患者さんの負担軽減にもつながります」(中村氏)
使用者からのフィードバックをもとに、使用上の注意やコツも整備された。
ピンセットや手袋は乾いた状態で扱う、軽く圧をかけて粘着性を引き出す、裏面は多めの水で濡らすとくっつかない──。

現在では、セミナーや動画、資料を通じて、こうしたプロトコルの啓発活動も並行して進めている。
また、製品導入から約1年で、すでに500〜600の歯科医院で導入実績があるという。
「展示会などで先生方に実際に触れていただくと、その接着力の強さに大変驚かれます。まずは“こんなに強く接着する歯科材料があるんだ”ということを多くの先生方に知っていただきたいです」(中村氏)

“そのときの1個”として、すべてのクリニックに届けたい

アロンキュアの開発チームがめざすのは、「特別な手術用」ではなく、「日常的に、必要なときにすぐ使える」止血材である。
「外科やインプラントだけでなく、“とりあえず1個あると安心”と思える製品になってほしい」(昆野氏)
実際、製品は小型サイズの個包装で、ピンセットと水だけですぐに使える。チェアサイドでの簡便性は、開業歯科医にとっても導入のハードルを大きく下げている。
「“一家に一本”のアロンアルフアのように、“歯科に一つ”のアロンキュアへ。そんな存在になれたらと思っています」(昆野氏)
今後は、使用マニュアルや臨床事例の共有、セミナー展開を通じてさらなる普及を進めていくという。
アロンキュアは、“出血が止まらない”“抜歯後に困った”といった日常のピンチに期待できる、“頼れる1枚”として、全国の歯科医院に届けられようとしている。

編集後記

今回の取材では、アロンキュア デンタルという製品の背後にある“技術力”と“臨床現場へのまなざし”に触れることができました。
開発者たちは、日々の診療において「もう少しこうだったら」と感じるような小さな不便や葛藤を、真正面から受け止めていました。そして、その解決策として選んだのが、“接着”というまったく新しい止血アプローチでした。さらに、止血・保護材としての機能はもとより、その他の副次的な効果やエビデンスについても研究・開発を進められているとのことでした(参考論文はこちら)。
歯科医療の現場では、毎日のように小さな止血処置が行われています。それは決して目立つものではありませんが、患者さんの安全・快適さに直結する大切な行為です。だからこそ、より確実に、よりシンプルにできる方法が求められているのではないでしょうか。
本記事をご覧いただいた先生方にとって、アロンキュア デンタルが「これなら導入してもいいかもしれない」「現場で役立つかもしれない」と感じていただけるきっかけになれば幸いです。
私たちも、日々多忙な診療を支える先生方の一助となる情報発信を、これからも続けてまいります。

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Dentwave

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