1Dセミナー 「GPが知っておくべき、顎関節症の対応」

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1Dセミナー「GPが知っておくべき、顎関節症の対応」
1Dセミナー 「GPが知っておくべき、顎関節症の対応」
 3月2日の夜8時より東京医科歯科大学の顎関節治療部診療科長である西山暁先生によるオンラインセミナーが開催された。

セミナーのタイトルは「GPが知っておくべき顎関節症の対応 一般歯科でできる顎関節症対応マニュアル」である。先着100名の限定公開であり、歯科医師と歯科衛生士対象のセミナーである。

セミナー後は質問コーナーだったが、終了予定時刻の夜10時を超えるほど多くの参加者から顎関節症に関する質問が寄せられた。西山先生は質問に対して一つ一つ丁寧に回答して下さった。
1Dセミナー「GPが知っておくべき、顎関節症の対応」
本セミナーでは顎関節症の基礎的な内容から、顎関節症の鑑別診断、Tooth contacting habit (TCH)の対応方法に至るまで広く扱っており、日常臨床に早速役立つ勘所を沢山知ることができる内容であった。

2013年の日本顎関節学会において、顎関節症は「顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害あるいは顎運動異常を主要症候とする障害の包括的診断名」と定義されている。

学生の頃に顎関節症がI型からⅤ型の「症型分類」を暗記した覚えがある方は多いだろう。日本顎関節学会では2013年より顎関節症は「病態分類」されている。
  • ・咀嚼筋痛障害(Ⅰ型)
  • ・顎関節痛障害(Ⅱ型)
  • ・顎関節円盤障害(Ⅲ型)*復位 or 非復位
  • ・変形性顎関節症(Ⅳ型)


本記事でセミナーの全容を記述することは難しいため、本セミナーの後半で取り扱われたTCHの鑑別診断・対応方法を紹介する。
読者の日常臨床のお役に立てれば、幸いである。
1Dセミナー「GPが知っておくべき、顎関節症の対応」
TCHの鑑別診断の手順と対応方法
TCHは上下の歯を接触させたままの行為を繰り返す習慣性の行動パターンを指す。TCHを有する患者は安静空隙が消失していることがある。また、歯を接触させる癖が継続すると咬合力が次第に増すこともあり、TCHに早く気づけることが重要である。

TCHの鑑別方法は上記画像のフローに従って、行う。詳しい手順は下記の通りである。

①安静空隙を維持することを不快に感じるか?
一般的には上下の歯が離れている状態を不快には感じない。1日の歯の接触時間は18分程度であるため、上下の歯を接触させると多くの方が不快に感じる。上下の歯を離した状態を不快に感じれば、「1次性のTCH」と診断する。

②上下の歯を接触させると不快に感じるか?
次に上下の歯を接触させて不快に感じるかを診査する。日常生活で上下の歯を接触させていなければ、上下の歯の接触を不快に感じるだろう。上下の歯の接触を不快に感じれば、「TCH (-)」と診断されることになる。

③TCH質問票で「よくある」「いつもある」に該当する質問がある
日常生活のどんな場面で歯の接触があるのかを質問票にてチェックする。「全くない」「ほとんどない」「ときどきある」「よくある」「いつもある」の5項目の選択肢の内、「よくある」「いつもある」に該当すると、「2次性のTCH」と診断する。


TCH鑑別診断でTCH (+) と診断の場合、下記4stepで対応する。

①動機付け
1日の歯の接触時間を患者に教え、患者に側頭筋や咬筋を触って軽く咬んでもらった時に筋肉に力が入っていることを認識させる。

②意識化訓練
時計のアラームやパソコンの画面に貼り付けたポストイットなどによるリマインダーで歯の接触を行っていることを患者自身に認識させる。

③競合反応訓練
意識化訓練で咬んでいたことに患者自身が気づいた後、肩を上げて鼻から深く息を吸ってもらい、肩を下げて口から息を吐くように深呼吸するよう指導する。深呼吸することで歯がきちんと離れることを認識させる目的で行う。

④強化
意識化訓練と競合反応訓練を繰り返すことにより、患者自身が歯の接触に早く気づくような行動パターンを作る。

臨床におけるTCHの鑑別診断や対応方法の一部を紹介したが、より詳しく知りたい方は西山先生の顎関節症のセミナー受講をお勧めする。
1Dセミナー「GPが知っておくべき、顎関節症の対応」
TCHをやめることを患者に意識するよう指導することは良くないことか?
 セミナー後の質問コーナーで、「TCHを意識的にやめるよう患者に指導するのは良くないか」を質問した。

上記の質問理由は、以前歯科系の雑誌でTCHを意識的に気をつけるよう患者に指導することは良くないと読んだことがあるためだ。

西山先生の回答は以下の通りだった。

「背筋の曲がった人が意識的に背筋を伸ばそうとすると違う箇所にガタが来ます。TCHも同様です。時計のアラームやパソコンに貼ったポストイットといったリマインダーを活用して咬んでいるかいないかを確認する方が好ましいです。患者には他力本願が良いと伝えてます。」

上記で紹介済みのTCH鑑別診断でTCH有無を見抜き、4stepの対応方法でTCHを有する患者に上手く向き合いたい所存である。
顎関節症についてより深く知るための良書も紹介
「GPが知っておくべき顎関節症の対応 一般歯科でできる顎関節症対応マニュアル」の内容の一部を今回紹介したが、顎関節をもっと深く知りたい場合、関連書籍の購入もお勧めする。

自身が最も推薦したいのは、東京医科歯科大学教授の依田哲也先生が著者である「新編 チャートでわかる顎関節症の診断と治療」である。顎関節症診断のフローから、各病態に対しての対応方法も詳しく述べられており、自身の日常臨床でも非常に役立っている。

本セミナーでも述べられていた咀嚼筋腱・腱膜過形成症の鑑別方法(開口障害が認められ、下顎頭の前方・側方運動は問題なく行える)なども紹介されている。セミナーに参加して顎関節に対する知識を深めるのも良いが、ぜひ本書を一読していただきたい。

1Dでは今回のように、日常臨床で役に立つテーマで沢山のセミナーが定期的に開催されている(現在はオンラインがメインとなっている)。色々な分野のセミナーが開催されているので、興味のある方はぜひ参加を検討してもらいたい。
古川 雄亮(ふるかわ ゆうすけ)
日本矯正歯科学会 所属

東北大学歯学部卒業後、九州大学大学院歯学府博士課程歯科矯正学分野および博士課程リーディングプログラム九州大学決断科学大学院プログラム修了。歯科医師(歯学博士)。バングラデシュやカンボジアにおいて国際歯科研究に従事。イエテボリー大学歯学部 "Oscillation course" 修了。2018年より、ボリビアのコチャバンバで外来・訪問歯科診療に携わり、7月から株式会社メディカルネットに所属。主に、DentwaveやDentalTribuneなどのポータルサイトにおける記事製作に携わり、2019年7月よりメディカルネットの顧問。離島歯科医療に従事後、本島で歯科臨床に従事している。

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