連載コラム【Contemporary Periodontics】第1回 歯周病の新分類

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Contemporary Periodontics

はじめに
 2007年に超高齢社会となった我が国では、2017年の人口統計で高齢者人口の割合が28.4%となり、2025年には75歳以上の後期高齢者が2,000万人を超えると予想され、世界でも有数の長寿国となっている。また「平成28年歯科疾患実態調査」によると、80歳以上で20歯以上歯が残っている者の割合は51.2%である一方で、4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合は高齢になるにつれ増加し50歳以上で約半数を超えている。つまり、これまで以上に歯周病の予防と治療が不可欠となっている。本シリーズでは歯周病の原因、診断・治療に必要な最新の情報を整理し、今後の歯周治療に役立てられるように紹介し、近年増加してきているインプラント周囲炎の診断法や対処法についても言及していく。これらの情報により、良好な歯周治療が行われ、口腔の健康のみならず全身の健康維持・増進の一助となることを祈念している。
第1回 歯周病の新分類
1.歯周病の新分類とは
 2018年6月にアメリカ歯周病学会(AAP)・ヨーロッパ歯周病連盟(EFP)より新たな歯周病分類が公表された1。大きな特徴としては、1)歯周組織の健康に関する定義「健常者と歯肉炎/歯周炎患者の明確化」、2)歯周炎の分類、3)インプラント周囲疾患と病態の分類、が挙げられる。

 これまで健康な歯周組織の定義は曖昧であったが、発赤・腫脹といった症状、アタッチメントロス、Bleeding on probing(BOP)、エックス線写真での骨吸収がないこととされ、臨床的には口腔内全体のBOPは10%未満であること、プロービング値(PPD)は3mm以下と定義された。これにより歯肉炎の診断がより明確になったと言える。一方で、歯周炎由来で骨吸収を起こした歯周組織における健康の定義はPPD≦4mmかつBOP(-)とされ、前述の健康な歯周組織の定義とは区別された2。つまり、歯周炎由来でアタッチメントロスを起こした治療後の患者のPPDは4mmまで許容されるとするものの、BOP(-)の状態を維持して進行の抑制を図る必要があるといえる。

 次に、歯周炎に関して、これまで1999年に発表された歯周病分類では、歯周炎は「慢性歯周炎」・「侵襲性歯周炎」の大きく2つに分類されてきた3。さらに、歯周炎の重症度に関してはPPD、アタッチメントロスの値やエックス線写真によって軽度、中等度、重度と判定し、歯周病罹患部位が全体の30%を超える場合は広汎型、超えない場合は限局型とし、診断としては「広汎型中等度慢性歯周炎」などのように表現されていた。また、侵襲性歯周炎は、「全身的に健康で、急速な歯周組織破壊、家族内集積を認めることを特徴とする歯周炎」と定義され、慢性歯周炎とは区別されてきた。一方で、新分類では、これらの「慢性歯周炎」・「侵襲性歯周炎」が1つの「歯周炎」としてまとめられ、疾患の重症度やマネージメントの複雑性に基づいた「ステージ」の分類と、病歴に基づいた進行速度や全身状態を含む今後の進行のリスクファクターに対する評価による「グレード」の分類の違いで表現されることになった4(図1:歯周病新分類/日本歯周病学会編集)。診断名としては、「広汎型歯周炎ステージⅢグレードB」という表現を用いる5。なお、本邦においては、日本歯周病学会より、これまでのデータを活かすため当面の間、慢性・侵襲性の表記を残すこととしており、「広汎型慢性歯周炎ステージⅢグレードB」という表現を用いる。

図1: 歯周病新分類(日本歯周病学会編集)


 では、臨床的にはどのように新分類をすれば活用すればよいか。(図2:臨床写真) 1999年の歯周病分類では慢性か侵襲性かの区別、重症度の判定が主体となっており、特に慢性歯周炎においては宿主の感受性が見落とされる可能性があった。一方、新分類ではグレードで採用されている長期経過や喫煙・糖尿病の修復因子による病気の進行速度の判定が行われるようになり、より患者側のリスク因子を考慮した臨床診断が可能になったと考えられる。

図2: 症例
49歳男性。前歯で物が噛めないことを主訴に来院。既往歴として高血圧症。隣接面におけるクリニカルアタッチメントロス≧5mm、残存歯の30%以上が歯周炎に罹患していることから広汎型歯周炎ステージIV、骨吸収率/年齢、修飾因子としての喫煙からグレードCと診断され、診断名は広汎型慢性歯周炎ステージⅣグレードCとなる。


 またインプラント周囲病変の診断が新たに追加され、健康・周囲粘膜炎・周囲炎・硬組織/軟組織欠損の4つのカテゴリーに分類された。大きな着目点として、リスクファクターが明確にされ、角化粘膜とベースライン時の評価の必要性が示唆された6

 このほかにも、歯肉退縮の分類があり、用語について「Biologic Width」は「Supracrestal attached tissues」、歯肉の「Biotype」は「Phenotype」へと修正が行われるなど、歯周病学は新しい時代に突入したと言っても過言ではない。歯周病新分類/インプラント周囲疾患分類において、今回述べたような世界標準の病名の定義・診断基準が新たに策定されたことで、今後、臨床および研究の分野における大きな成果が期待される。
参考文献
1.Caton et al, A new classification scheme for periodontal and peri-implantdiseases and conditions – Introduction and key changesfrom the 1999 classification. J Periodontol. 2018 Jun;89(Suppl 1):S1-S8.
2.Chapple et al, Periodontal health and gingival diseases and conditions on an intact and a reduced periodontium. J Clin Periodontol. 2018;45(Suppl 20):S68–S77.
3.Armitage GC, Development of a classification system for periodontal diseases and conditions. Ann Periodontol. 1999;4(1):1-6.
4.Papapanau et al, Periodontitis: Consensus report of workgroup 2 of the 2017 World Workshop on the Classification of Periodontal and Peri-Implant Diseases and Conditions. J Periodontol. 2018;89(Suppl 1):S173-S182.
5.日本歯周病学. 歯周病の新分類への対応. http://www.perio.jp/file/news/info_191220.pdf
6.Berglundh et al, Peri‐implant diseases and conditions. J Clin Periodontol. 2018;45(Suppl 20):S286–S291.

(略 歴)
和泉 雄一(いずみ ゆういち)
1983年 東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了 歯学博士
1987年 ジュネーブ大学医学部歯学科 講師(~1989年 9月)
1999年 鹿児島大学歯学部 教授(歯科保存学講座2)
2007年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 教授(歯周病学分野)
2015年 日本歯周病学会理事長
2019年 総合南東北病院オーラルケア・ペリオセンター長
2021年 福島県立医科大学 特任教授

デンタル文京白山、東京医科歯科大学 臨床准教授 秋月 達也 先生
東京医科歯科大学 歯周病学分野 非常勤講師 井川 貴博 先生

(主な所属学会)
日本歯周病学会(名誉会員、歯周病専門医・指導医)、日本歯科保存学会(名誉会員、歯科保存治療専門医・指導医)、WCOI Japan 理事、口腔病学会名誉会員、ITI Fellow、American Academy of Periodontology (International Member、Editorial Advisory Board)、Asian Pacific Society of Periodontology (Councillor)

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