歯界展望~今月の立ち読み記事~【Vol.131 No.3 2018-3 】論理的に考えるスマイルデザイン

 
医歯薬出版

論理的に考える スマイルデザイン

スマイルとは非言語的なコミュニケーションツールの中でも最も表現力の強いものの一つであり,そこにはちょっとした気恥ずかしさから最高の喜びまで,実にたくさんの感情が込められている.
そのような自然なスマイルを生み出すことは審美領域の補綴治療においては常に要求されるものであるにもかかわらず,残念ながらどの患者にでも当てはまる便利な方程式のようなものは存在しない.また,審美という結果は歯科医師の力量やエゴに左右されてはならないし,文化的な背景や,「生理的に」受け入れられるという感覚も尊重しなければならない.
したがって,主観的な面の占める割合が大きいという印象の強い審美治療ではあるが,本当に高いレベルの審美的な治療結果であればあるほど,そこには綿密な情報収集や治療計画,さまざまな基本的原則と意思決定のプロセスが含まれている.よって,患者自身がもつ外見の理想像から長年にわたって培われた尊厳や若かりし頃の面影の再現まで,非常に多岐にわたる患者の要望や心情を形にし, 彼ら彼女らに本来価する美しさを提供するための指標について知っておくことが, われわれ歯科医師にとっては重要になる.本稿ではそれらについて補綴専門医の立場から述べてみたい.

顔面の分析
 審美歯科とは決して歯だけが白くきれいになれば良いのではなく,顔面との調和が必須である.口腔内と顔面の関係性を評価するためには何らかの基準が必要であり,その第一歩として,まずは水平的および垂直的な基準線を考慮しながら診査を行っていく.
この水平的な基準線の代表例として,瞳孔間線およびスマイル時と安静時の両口角を結んだ口角線がある(図1).この2本の線は患者を正面から観察した際に,共に地面に対し平行であることが理想的ではあるが,そうではない例も往々にして見られ(図2),さらには2本の線は平行であっても地面を基準にすると共に斜めに傾斜している場合もあり(図3),結果として顔面全体が斜めに歪んだ印象に見えることになる.そのような場合に他に基準となりうる水平線として,両眉の頂点を結んだ線,鼻翼下部の線などが,前述した線に加えて上顎前歯部の切縁の位置,前方咬合平面,辺縁歯肉の評価・決定において重要な基準となりうる.
しかし,これらの基準線は必ずしもすべての患者において適用できるものではなく,もしいずれも使えない場合には,自然な姿勢を保った患者の正面から観察し,最も自然な仮想の線を基準に分析をしていく必要がある.
垂直的な基準線について最も一般的に用いられているものは正中線で,これは正面を向いた患者の眉間の中央から,地面に向かって下ろした仮想の線である(図1).この線によって顔面は左右に分けられるが,実際に顔面が左右対称であることはほとんどなく,審美性に対する影響もよほどの状況でない限り差し支えないため,歯列との関連性を見出すうえで顔面の正中線の重要度は高くはないと言える.したがって,顔面と歯列との関係性を評価, 構築するうえでは上口唇の中央を顔面の正中と考えて歯列との位置関係を診査していくほうが現実的かもしれない(図4).
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理想的には,“ 正中線” は前述したさまざまな水平基準線と垂直に交わるはずであり,この2組の線が垂直に近いほど顔面の全体的な調和がとれているとも言えるが(図1),現実にはそうなることのほうが少ない.また,審美的なコンポジション(=構成)を考えるうえでの視覚の原則である「多様性の中の統一性」(後述)を考える際,上顎両側中切歯など正中線に近いものほど左右対称であることが望ましいが,逆に正中線から多少離れている場合は,厳密な対称性は審美的な結果に影響を与えにくい.したがって,多少の非対称性や不規則性は最終的な審美結果にはなんら影響はなく,むしろ顔面全体として見ると幾何学的に完璧な状態よりも自然な美しさをもたらすことができる.

視覚の原則について

1.Contrast 対比
 われわれの目は,そのとき見ている対象において視覚的なコントラスト(=対比)が存在することによってのみ,物事を識別し「見る」ことができる.つまり,コントラストの量が増加すると(上がると)視認性は高くなり,コントラストが下がると視認性は低くなる.自然界の多くの動物にこの現象の例を見ることができ,たとえばカメレオンは体色のコントラストを下げて周囲と同化することにより外敵から自分を守り,逆に興奮したり威嚇したりする場合にはコントラストを上げてさまざまな色に変化する(図5).
つまり,私たちが「見る」ことが可能なのは,構造物を表現する色,線,表面性状にコントラストが認められ,なおかつそのコントラストを表現するために十分な光量がある場合に限られる.
このように色,線,表面性状におけるコントラストによって視認される物体間の関係性はComposition(構成)と定義される.

参考文献はこちら
※原則として著者の所属は雑誌掲載当時のものです。
<掲載号はこちら>
歯界展望 139巻3号 論理的に考えるスマイルデザイン/医歯薬出版株式会社 (ishiyaku.co.jp)
https://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=021313


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