歯界展望~今月の立ち読み記事~【Vol.131 No.1 2018-1 】歯内療法からみた支台築造・歯冠修復 Part 1

 
医歯薬出版

コロナルリーケージという概念

 根管充填が不十分であると根尖から組織液などの漏洩が起こり,それが根管治療の失敗の一因であると以前は考えられていた(アピカルリーケージ).この失敗の原因は,根管内が十分に拡大清掃できていなかったことにより,根管充填が不十分になったのではないか,と考えることもできる.
 根管治療を成功に導くのは,十二分な根管の拡大清掃と緊密な根管充填であると考えられている.もちろん,今でもこれは間違いのない事実である.しかし,十二分な根管の拡大清掃が行われ,緊密に根管充填されたにもかかわらず,数年してまた再発してくることがある.深い歯周ポケットからの再感染や歯根破折からの再感染など,さまざまなことが原因として考えられる(図1)が,その他の要因として,歯冠側からの漏洩(コロナルリーケージ)という概念が1980 年代から注目されている.
 根管充填した歯の歯冠側に細菌懸濁液を設置し,根尖に細菌がどのぐらいで到達するかを調べた研究(図2)では,30 日前後で根尖に細菌が検出されている1 ~ 3).最近の論文では,これらの漏洩試験自体の方法を疑問視するものも出ており4, 5),根管治療後の失敗症例を調べた研究では,根管全体に細菌が存在する症例があまりなく6),長期間口腔内に開放されていたような抜去歯の切片でも,根管内にそれほどの細菌が認められていない7)ことから,コロナルリーケージが根管治療の失敗の最大要因ではないのではないか,という意見もみられる.しかし,最大要因ではないとしても,コロナルリーケージが根管治療の失敗の一因ではないというわけではない.根管充填した歯でも封鎖性は完全ではないことから,根管充填後も歯冠側からの感染には気をつけなければならないと考えられている.
コロナルリーケージが起こるパターンとして,
  • 1)根管充填後の仮封が適切に行われていない
  • 2)根管充填後,来院が途絶えるなどの理由で,最終補綴まで期間があいてしまう
  • 3)不適合な補綴装置から二次齲蝕が生じる
  • 4)歯質や補綴装置が破損する
などが考えられる.

図1 根管治療後に炎症が再発する理由
A.深い歯周ポケットからの再感染
B.歯根破折などからの再感染
C.不良補綴装置や二次齲蝕からの再感染


図2 コロナルリーケージの研究モデル
 根管充填した抜去歯の歯冠側に細菌懸濁液を置き,根管充填した抜去歯の根尖から細菌が検出される期間を調べている


図3 補綴装置の適合が甘いと,歯冠側からの漏洩(コロナルリーケージ)が起こる可能性がある
7の根管治療後,補綴装置の適合が悪く,再発が懸念される

 不適合な補綴装置からの再感染が原因で根尖病変が再発しているのではないか(図3)と考え,「補綴装置の質」と「根管治療の質」に着目し,根尖病変の治癒について調べた研究がある8).その結果,補綴装置の質が悪く歯冠側からの漏洩が起きてしまうと,根尖部の治癒率は91.4%から44.1%まで下がり,根管充填が適切に行われていても成功率が落ちてしまうという結果になった(表1).しかしこの結果は,「根管治療の質」よりも「補綴装置の質」のほうが根尖病変の治癒に影響する,と読むこともできる.歯内療法の分野ではこの論文が物議を醸し,その後も次々と同様の論文が発表され9 ~ 16),異なる結果も発表されている(表2)16).それらの研究をまとめたメタアナリシスの論文が2011 年に発表され17),メタアナリシスの結果は,どちらが重要ということではなく,「補綴装置の質も根管治療の質も良質であるべきである」という結論に落ちついている(図4).根管治療が適切に行われなければ根尖には炎症が再発し,根管充填後の補綴が適切に行われなければ,やはり,歯冠側からの漏洩が生じるので,どちらも重要である, という結果である.

表1「根管治療の質」と「補綴装置の質」と「根尖のX 線透過像」との関係・その1(文献8)より改変)
表2「根管治療の質」と「補綴装置の質」と「根尖のX 線透過像」との関係・その2(文献16)より改変)


図4「根尖部X 線透過像」の有無に対して,「補綴装置の質」と「根管治療の質」が与える影響・メタアナリシス(文献17)より)

 このコロナルリーケージスタディの結果から,「根管充填をしたから大丈夫と思わず,築造時や築造後の仮封でも,根管内を再感染させないように注意する必要がある」ということができる.支台築造時にラバーダムを装着した歯の成功率は93.3%,ラバーダムを装着しないと73.6%という報告18)があることから,直接法で支台築造を行うのであればラバーダムを装着し,口腔内常在菌の再感染を防ぐような配慮が必要である.間接法で支台築造するのであれば,仮封にも気を遣うべきであり,必要に応じてポスト形成した根管内には水酸化カルシウムなどの根管貼薬剤を入れておくのも良い考えである.

支台築造時に根管充填材はどのぐらい残すべきか?

 ポストの装着されている歯とされていない歯では,ポスト装着歯のほうが根尖にX線透過像が認められ,根尖に残っている根管充填材が3mm 以下になると,X 線透過像が有意に認められるという報告がある19).ポスト形成により根管充填材の封鎖性が落ちるという報告は他にもある20).いったん硬化したシーラーに機械的な切削力が加われば,封鎖性が落ちるのは想像に難くない.ポスト形成自体が根管充填に悪影響を及ぼすと考えられるが,健全歯質がなく,補綴するためのコアを維持するためには,ポスト形成を行わないわけにはいかない.
 それでは,ポストの下には何mm の根管充填材があればいいのだろうか?(図5) ガッタパーチャとシーラーで側方加圧根管充填を行いポスト形成をした場合,4mm 根管充填材を残した群と8mm 残した群では,根尖からポストまでの距離があるほど漏洩が減り,8mm あれば根尖の封鎖には影響はなかった,という報告がある21).Saunders らの総説では,「最低5mm の根管充填材が根尖の封鎖に必要」という根拠論文の一つとしてこの論文を引用しており22),他の論文でも3 ~ 5mm の根管充填材が根尖封鎖に必要と考えられている23).一方,Metzger らは根管充填材を3mm,5mm,7mm,9mm 残しコロナルリーケージを調べた結果,残っている根管充填材の長さが短いほど漏洩する傾向があり,7mm 以下ではコントロール群(ポスト形成をしない群)より漏洩していたと報告している24).また,Abramovitz らは根管充填材を3mm 残した群と6mm 残した群でコロナルリーケージを調べた結果,統計学的な有意差はなかったが,3mm 残した群ではばらつきが大きくなる傾向があったと報告しており20), Mozini らは根管充填材を4mm 残した群と6mm 残した群で,E. faecalis のコロナルリーケージに差は認められなかったが,2mm しか残さなかった群では有意な差が認められたと報告している3)
 ポストはコアを維持するためのものであり,歯質を強化しないことも考え合わせると,不必要に長いポストは必要ないのではないだろうか(図6).ポスト形成は根尖の封鎖にマイナスに働くという事実を考えると,何mm 残せば大丈夫,ということはなく,根管充填材はなるべく多く残したほうがよいと考えられる.


図5 ポスト下に根管充填材は何mm 必要か?

図6 ここまで長いポストが必要だろうか?

参考文献はこちら
※原則として著者の所属は雑誌掲載当時のものです。
<掲載号はこちら>
歯界展望 131巻1号 歯内療法と修復治療のインターフェース ~
「根管治療-支台築造-歯冠修復」の境界域を意識したアプローチ~/医歯薬出版株式会社 (ishiyaku.co.jp)
https://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=021311


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