第97回:ノンクラスプデンチャーについて考える

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パーシャルデンチャーにおいて、熱可塑性樹脂を利用した義歯が個別輸入した開業歯科医を中心に注目を集めてきたが、2008年の厚生労働省の認可もあり、その利用が広がりを見せているようである。この義歯は本来ノンメタルクラスプデンチャーであるがノンクラスプデンチャー(NCDと略記)と呼ばれているものである。審美性にすぐれ、薄くできて違和感が少ない、装着感がよい、痛みが少ない、破折しにくい、金属アレルギーの心配がない、従来のアクリルレジン床とは異なり、残留モノマーによる為害性が少ない、などがおもな特徴とされている。しかしその一方、補綴の観点からは懸念も表明されている。日本補綴歯科学会は2007年にNCDに関する見解を発表している。「部分床義歯の安定には支持、把持、維持の3要素が不可欠であり、これらは支台装置および義歯床によって確保される。これらの中で最も重要なものは支持であるが、NCDはこの“支持”に関し、外見上の理由から金属製のレストを含む支台装置を省き、支持のほとんどを義歯床に依存しており、これが大きな問題である。NCDは外観の回復については有効であるとしても、適応を誤ると顎堤の異常吸収、支台歯の移動という重大な障害を起こす可能性があり、その適応については今後のさらなる科学的な検証が必要である。」というのがおよその内容である。 そして最近、日本補綴歯科学会は同学会の英文誌Journal of Prosthodontic Research 2014年1号3-10頁に25人連名で「熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の臨床応用―第1部:ノンメタルクラスプデンチャーの定義と適応」と題するNCDに関する詳細な見解を発表している。それは次のような内容で構成されている:適応/禁忌と使用要注意症例(部分無歯顎歯列のタイプと咬合関係、解剖学的因子、口腔衛生状態)/利点(審美性、使用感、金属アレルギー)/欠点(変色と樹脂の劣化、研磨の困難さ、樹脂クラスプの破折、維持力の調整とリペアの困難さ、維持パーツと歯周状態の設計、保険無適用)/推奨。内容は次のように要約される。NCDを金属フレームのない柔構造なものと金属フレームのある剛構造なものに分類した。現在の補綴の原則に従えば、柔構造のNCDは、金属アレルギー患者のような場合を除き、確実なデンチャーとしては推奨できない。剛構造のNCDは、審美的な理由により患者が金属を嫌うような場合には推奨できる。NCDも金属クラスプを用いる通常の部分床義歯と同様の設計原則に従うべきである。 こうした臨床的なことは筆者の理解が及ぶところではないが、NCDでは様々な熱可塑性樹脂が利用されおり、材料面からNCDを考えてみたい。NCDの材料には、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリプロピレンがあるが、それらの性質は多様であり、適切なものを選択することが望ましい。これらの中では、ポリアミドが歴史的に長く実績も多い。柔らかく、壊れにくく、装着感がよいが、着色しやすい、調整や修理がしにくいとされている。ポリアミドはアミド結合でつながったポリマーであり、ナイロンと呼ばれることが多く、種類も多い。衣類などで一般的に馴染みのあるのは、ナイロン6(ポリアミド6、PA6)やナイロン66(PA66)であるが、NCDでは、バルプラスト、スマイルデンチャーなどでスーパーポリアミドと呼ばれているナイロン12(PA12)、ルシトーンFRS、ナチュラルデンチャー、ピタッチくんなどでのPA PACM 12、フレキサイトでのナイロンアロイなどが利用されている。PA12は炭素数12のラウリルラクタムの重合で得られ、低融点、低吸水性、ポリアミドの中では最も低密度という特徴がある。PA PACM 12は、p-ビス(アミノシクロヘキシル)メタン(PACM)という環状構造を持つジアミンと炭素数12の1,10-デカンジカルボン酸からのポリアミド(商品名:トロガミドCX7323)であり、とくに透明性に特徴がある。ポリエステル系のエステショットはポリエチレンテレフタレートであり、基本的にPETボトルなどに使われているものと同じであり、ポリアミドのような多様さはない。やや硬く、着色しにくく、やや調整や修理しやすい。ポリカーボネートはレイニング、ジェットカーボなどで利用され、NCDの中で最も硬く、表面が傷つきにくく、着色しにくく、修理しやすい。ウェルデンツに使われているポリプロピレンは、日常的に最もよく利用されている樹脂の一つであるが、NCD素材としては最も新しく、柔らかく、軽い。 こうした材料に関する情報は極めて少ないが、以下に二つの論文の概要を紹介する。まず、日本歯科理工学会の英文誌Dental Material Journal29巻4号(2010)の報告。ポリアミドのバルプラスト(VAL)、ルシトーンFRS(LTF)およびフレキサイトsupreme(FLS)、ポリカーボネートのレイニング(REI)とジェットカーボレジン(JCR)、ポリエステルのエステショット(EST)および比較材料としてのPMMAのアクロン(AC)のいくつかの性質を比較するとおよそ次のようになる。材料間にかなりの違いがある。曲げ弾性率は、VAL<<FLS、LTF<REI、EST、AC、JCRの順に大きくなり、VALとくらべた倍率は、FLS 1.9、LTF 2.0、REI 3.3、EST 3.4、AC 3.5、JCR 3.7倍。ACとくらべ、ポリアミドは柔らかく(とくにVAL)、ポリエステル、ポリカーボネートはほぼ同等である。吸水は、REI、JCR<EST<VAL、FLS<<AC<<LTFの順。REI、JCRとの比較倍率は、EST 2.2、FLS 3、VAL 3.8、AC 6.7、LTF 9倍。ACとくらべ、ポリエステル、PA12系ポリアミドは少なく、PACM構造を含むポリアミドは多い。コーヒー液浸漬時の着色は、REI、JCR<LTF、EST、AC<FLS、VALの順。REI、JCRとくらべた倍率は、EST 2、AC 2.5、LTF 2.7、FLS 3.8、VAL 4.5倍。;カレー液浸漬時の着色は、REI、JCR<AC<LTF<<FLS、EST<VALの順、REIとくらべ、AC 3.6、LTF 5.2、EST 8.6、FLS 8.8、VAL 9.7倍。ACとくらべ、ポリカーボネートは少なく、ポリアミドは大体多く(とくにVAL)、ポリエステルは浸漬液の種類にもよるが同等以上。 以上のようなデータのみに基づき材料を選択するのはかなり難しい。次に紹介するのは同じDent Mater Jの32巻3号(2013)に掲載された「熱可塑性樹脂クラスプの厚さおよびアンダーカットが維持力に及ぼす影響」である。アンダーカット0.25/ 0.50/ 0.75 mm、維持腕の厚さ0.5/1.0/1.5/2 mmのクラスプを作製し、それをステンレス製の型にはめ込み、37℃水中で1万回までの繰り返しクラスプ装着/脱着試験を行った。その結果、①初期維持力はREIはEST、VALにくらべ大きかった。VALの維持力はアンダーカットの増加にしたがい大きくなった。②装着/脱着試験において、ESTクラスプはいずれのアンダーカットでも2,000回以下でほぼすべて破折、REIでは0.75 mmアンダーカットで3,000~6,000回(厚みによる)で破折、VALでは10,000回まで破折しなかった。③VALの多くのクラスプが一定の維持力を維持した。④1万回の繰り返し試験の前後でクラスプとステンレス型のギャップの測定を行ったところ、VALではその変化はなくクラスプ適合精度は維持されたが、REIでは維持されなかった(ESTは破折で測定できず)。これらのことから、維持腕の厚み1 mmの場合、アンダーカットがESTとREIでは0.25 mm、VALでは0.5 mm以上が維持力と耐久性の観点から長期使用に有効であろうという。この動的負荷試験から、材料としては、VALが最もすぐれ、 REIは適切な設計により利用可能であるが、ESTは不適当のように考えられる。なお、付け加えておくと、REIのようなポリカーボネート(PC)に関しては口腔内での劣化という側面も考慮する必要がある。患者から回収したPC製矯正用ブラケットや37℃水中に保存したPC製義歯床を分析すると、装着あるいは保存の期間が延びるにつれてPCが加水分解を起こして分子量・強度が低下すること、そうした分解・劣化の過程でビスフェノールA(BPA)が生成、放出されることが知られている[J Med Dent Sci 51(1) 1-6(2004)]。BPAはコンポジットレジンやシーラントで問題視されたが、その口腔内への溶出は極微量であったが、それに比してPCからの溶出は多く、BPAに拒否反応のある患者にはPC製NCDは勧められない。 2009年の歯科審美22巻1号に「スーパーポリアミド製義歯の患者満足度調査」が報告されている。過去30か月間にスマイルデンチャー(2004年から臨床導入)を装着した患者114名のアンケート調査である。使用状況は、常時装着している80%、状況に応じて適宜使用20%。満足している点は、目立たない80%、ピッタリしている73%、小さくて軽い61%、何でも噛める50%、食べかすが入らない48%など。不満に感じている点は、食べかすが入る25%、ガタガタする・出し入れがしにくいなどの装着感の悪さ、咀嚼・発音機能に関する指摘が若干。審美的な不満はなし。友人に推奨できるかについては、できる80%、できない6%、無回答14%。こうしてみると、ここで装着されたすべてのNCDが補綴学会の見解に沿うようなものであったとは思われないが、患者にはかなり好評のようであり、今後ともNCDの流れを抑えることはむずかしいように思われる。できるだけ部分床義歯の設計原則に従い、支持、把持を十分に考慮し、さらに適切なメインテナンスを行うことにより、NCDの適応を広げていくことが望まれる。

(2014年3月7日)

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