第67回:Siloraneモノマーをベースとする画期的コンポジットレジン

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2005年のDental Materials 1号に、従来のコンポジットレジン(CRと略)とはまったく異なる、画期的なSiloraneモノマーをベースとするレジン(SRと略)が発表されていたが、その製品が我が国ではまだ上市されていないこともあり、本コラムで取り上げるのをこれまで見送ってきた。しかし、海外の多くの国では2007年頃に上市され、それに関する論文が近年急増しているので紹介することにした。SRは、3M ESPEから地域により異なる名称で販売されているが同じものである: Filtek Silorane (欧州、南アフリカ、豪州、トルコなど)、Filtek LS(北米)、Filtek P90(南米、インド、香港、韓国、フィリピンなど)。この製品の謳い文句は:収縮が1%以下の初めてのCR、低収縮で重合ストレスの低減、すぐれた辺縁適合性、専用のセルフエッチ接着材ですぐれた接着強さなどである。それらを検証する様々なデータが報告されつつあるが、評価はまだ定まっていない現状にある。 このSRがなぜ画期的であるのかを先ず説明しよう。それは、従来のCRとくらべ、モノマーの種類と重合様式がまったく異なることである(下図参照)。モノマーは、二重結合を有するメタクリレートから、エポキシ基を有するオキシランになり、それに伴って重合様式がラジカル付加重合からカチオン開環重合となっている。従来型CRではラジカル重合開始剤から生成したラジカルの仲介によりモノマー同士が次々と結合してポリマーができる。ところがSRでは、カチオン重合開始剤から生成したカチオンの仲介によりエポキシ環が開環しながらポリマーができる。付加重合にくらべ開環重合では重合収縮が少なくなることはよく知られており、"低重合収縮"というのは理にかなっている。 SRモノマーの構造としていずれの学術文献でも図中の(A)しか記されていないが、多くの場合Siloranesと複数形になっているのが気になり調べてみると、MSDSには図中の(B)も記載されている。じつはA、B以外にも構造不明のシラン化合物が多数共存している。 メーカーの材料安全データシート(MSDS)や技術資料、学術文献をもとに2ステップ接着材とSRからなるシステムの中味を記すと次のようになる。(以下、カッコ内の%はおもにMSDSの記載) レジン ・フィラー:76%;エポキシ基を有するシランで処理した石英73%(MSDSでは60-70%)とフッ化イッテルビウム(5-15%、造影材)・Siloranes:23%;(図中でA、Bとしてある物質が各5-15%、その他モノマー合成時の副生物と考えられる4種類の混合物が各5%以下)・重合開始剤:0.9%;カンファーキノン、4-イソプロピル-4'-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(カチオン重合特有のヨードニウム塩)、ジメチルアミノ安息香酸エチル(これらの比率: 2.1:0.85:0.05)(ヨードニウム塩を除き、従来型CRでの光重合開始系と共通) アドヒーシブ プライマーBisGMA(15-25%)、HEMA(15-25%)、メタクリロイルオキシヘキシルリン酸エステル混合物(5-15%)、エタノール(10-15%)、水(10-15%)、シラン処理シリカ(8-12%)、ヘキサンジオールジメタクリレート(5-10%)、ジメチルアミノエチルメタクリレートおよびアクリル酸/イタコン酸共重合体(各5%以下)、フォスフィンオキシドおよびカンファーキノン(各3%以下)、ジメチルアミノ安息香酸エチルおよびメタノール(各1%以下) アドヒーシブ ボンドジメタクリレート(70-80%)、シラン処理シリカ(5-10%)、TEGDMA(5-10%)、メタクリロイルオキシヘキシルリン酸エステル混合物(5%以下)、カンファーキノン(3%以下)、ヘキサンジオールジメタクリレート(3%以下) さて、謳い文句にあるSRの収縮率であるが、測定法により異なる様々な数値が報告されている。メーカー値は0.94〜0.99%であるが、大体1.1〜1.4%の範囲にある。いずれの報告でもSRは従来型CRと比較して明らかに低収縮率となっている。従来型CRでの収縮を減らす努力はおもにフィラーの改良、増量により行われてきたが、重合による体積収縮率は大体1.7〜4%程度となっている。レジンモノマーを変えてもその最低値以下にすることはほとんど達成できていない。SRのフィラー含量は76質量%(53体積l%)でマイクロハイブリッドCRレベルであるにもかかわらず、低収縮なのはやはりSRモノマーの効果である。 重合ストレスの低減については、従来型CRよりもSRがすぐれているとは必ずしもされていない。重合ストレスは体積収縮、レジンの弾性率、重合率などの影響を受けるため、低収縮がそのまま反映されるわけではなさそうである。辺縁適合性についても様々なでデータがあるが、SRは従来型CRとくらべて同等あるいはやや良好の傾向となっている。5級窩洞について微小漏洩を調べた結果では、SRはセルフエッチングプライマー/従来型CRとほぼ同じであるが、トータルエッチング/従来型CRにくらべると劣っていた。歯質への接着強さは従来型CRとほぼ同等のようであるが、1級窩洞にバルク充填すると窩底部象牙質への接着強さが従来型CRより低下、あるいはSRと接着材界面での破壊が多いという報告もある。 相反する結果も含めかなり出されているin vitroのデータを大まかにまとめると、収縮率を除き、SRは従来型CRとくらべて同等ないしはややすぐれている点もあるということになろうか。問題は臨床評価であるが、それについて二つの論文がようやく本年発表されている。一つは、英国の開業歯科医グループが64人の患者を対象に1・2級窩洞に100修復行い約2年観察して臨床的評価を行っている。多くの項目において良好とされたが、辺縁着色、辺縁適合での評価はやや低下していた。著者らは、初期の臨床成績としてはSRは満足できるとまとめている。二つめはデンマークでの評価である。72人の2級窩洞に158修復行い約1年後に辺縁適合性を調べている。SRと収縮率2.6%の従来型CRを同時に比較したところ、従来型CRのほうが成績良好であり、SRの低収縮性は臨床では必ずしも有利には反映されなかったとしている。 終わりに筆者のコメントを少し。近年の従来型CRはおもにフィラーを進化させることで改良が進んできたが、SRでの時代逆行的ともいえる石英フィラー(サイズ:0.05〜50μm、0.1〜2μmが多い)の利用は臨床的に受け入れがたくなる可能性が考えられる。接着システムは、SR専用としているが、プライマーは、調べてみると、同社のアドパー イージー ボンド セルフエッチ アドヒーシブと同じである。ボンドだけがSR向けに開発されたようであるが、接着試験で接着材とSR界面での破壊が多いという報告が示唆しているように、ボンドとSRとのなじみはあまりよさそうになく、さらなる改良を要するように思われる。いわゆるドラッグラグが約4年であるとすると、近いうちに我が国でもSRが遅ればせながらお目見えする可能性があるが、我が国の臨床家からどのような評価を受けるのか大変興味深い。 (2011年8月31日)
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