第65回:根管の化学的清掃

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6月9〜10日に浦安市・東京ベイ舞浜ホテル・クラブリゾートで開かれた日本歯科保存学会春季学術大会(第134回)に出かけ、山田邦晶先生のテーブルクリニック“歯の保存の為に「今」感染根管処置の「再治療」を振り返り「化学的清掃」を見直す”を拝聴した。これは、歯科医ではない筆者にとって、根管治療の臨床の一端を知るよい機会であった。ペースト(ジェル)タイプのEDTA・ファイリーズ,18%EDTA溶液、20%クエン酸、3%次亜塩素酸ナトリウム(以下NaOCl)を用いた根管の化学的清掃のお話であった。いろいろと工夫をされ、よりよい治療を目指されていることはよく理解できたのであるが、釈然としないところがあった。そこで、この件について、今大会でのこれに関連する一般発表、海外の学術論文、メーカー情報をもとに少しまとめ、考えてみた。 グライド、RCプレップ、ファイリ−ズ、ファイルケアEDTA、試作EDTA24%ジェルを根管に入れ、NiTiローターリーファイルで根管形成してスメア層の除去を検討したポスター発表があった。いずれのEDTA製剤でも、根管上・中央部にくらべ根尖部ではスメア層が残存したという結果である。ここで用いたペーストタイプのEDTA製剤の詳細が不明であったため調べてみると、およそ次のようであった。 15%EDTA・2ナトリウム塩/10%過酸化尿素が主成分でNaOCl併用 ・RCプレップ (水溶性、セチルアルコール添加) ・グライド (水溶性、ポリエチレングリコール添加) ・ファイルケア (水にわずか溶ける、pH 2.7-3.2、添加物不記載) 19%EDTA・4ナトリウム塩が主成分でNaOCl併用 ・ファイリーズ (水溶性、pH10-11、添加物不記載) EDTAの種類・濃度、過酸化尿素(Urea peroxide、UPOと略)の有無、水への溶解性、pH、添加物などに違いがある。RCプレップは従来グリコール添加とされてきたようであるが、2005年8月付けMSDSには上記の水不溶性のアルコールが記載されている。グライドの添加物は、日本では上記のとおりであるが、カナダの文書ではプロピレングリコールとなっている。EDTAのスメア層除去効果があるのは2Na塩でpH 7.5とされている。このことからすると、少なくとも2製品はこれからはずれている(他製品のpHは不記載)。また、水溶性でないと効果を期待するのはむずかしい。こうしてみると、ファイルケア、ファイリーズに多くを望むのは無理ということになるが、実際にはあまり違いが生じないらしい。 そもそもペーストタイプのEDTAはNaOCl併用による根管拡大形成補助材であり、スメア層の除去までは想定していないようである。このことは、ファイリーズでの説明からもうかがえる。その添付文書には"根管上部の拡大形成にのみ使用"し、それに引き続き3%NaOClを根管内に注入してファイリーズ中の成分と反応させ、発泡作用で根管内の清掃、消毒を行うと記載されている。さらに、英文の説明書には、根中央部では"NaOClを満たしてからファイリーズを入れて形成、吸引する。これをファイル交換ごとに繰り返す"、根尖側では"NaOClで形成後にEDTA18%で処理する"との記載があり、根尖側ではファイリーズは効果がないことを示唆している。このことおよび上で紹介した発表結果からもわかるように、ペーストタイプでは根尖側の清掃は難しい。さらに付け加えると、EDTAペーストとNaOClでの洗浄ではスメア層を完全に除去するのは困難という報告が多数あり、ペーストではなくEDTA水溶液のほうが効果的とされている。市販の水溶液タイプのEDTAは、ウルトラデントのものが18%EDTA・4Na塩であるのを除き、ほとんどがEDTA・2Na塩であり、その濃度は、スメアクリーンの3%を例外として、15〜17%、国内外の一部製品には陽イオン界面活性剤のセトリミド(臭化セチルトリメチルアンモニウム)が添加されている。セトリミド添加については、文献的には、プラス効果があるということにはなっていない。 ペーストタイプのEDTA製剤は、NaOClと反応して生ずるガスの発泡作用により切削片等を根管内から押し上げ清掃するという考え方に基づいており、スメア層の除去はあまり想定されていないといってよい。一方、その発泡による物理的な清掃効果であるが、それは"臨床的な伝説"であるらしく、NaOClとの混合による発泡は確かであるとしても、その清掃効果が検証されたことはないと、2006年のJournal of Endodonticsの根管洗浄剤に関するZehnderのレビューに記されている。発泡による清掃効果を期待して、過酸化物無配合を謳っているファイリーズは別として、海外製品では過酸化尿素(Urea peroxide、以下UPO)を添加しているものがかなり多いが(なお、EDTAのみとNaOClでも発泡する)、発泡のみならず、潤滑さらには漂白の効果まで謳っているものがあり、疑問を感じざるを得ない。UPOとNaOClの混合により発泡するが、そのことはNaOClの殺菌力の急激な低下に通じており、何のためのNaOClなのかという気がする。UPOは歯のホームブリーチングに使われてはいるが、作用時間を考えればその効果のほどは容易に察することができよう。 根尖部では、EDTAのペーストのみならず水溶液でもスメア除去効果は限定的であり、それは超音波チップを利用してもあまり変わらないとされているが、今大会の発表でも追認されていた。5%過酸化水素/3%NaOClで交互洗浄後、3%のEDTAあるいはNaOClを根管内に満たし、3分間放置あるいは超音波チップを用いて洗浄(PUI)した。その結果、根管上・中部では超音波の効果が認められたが、根尖付近ではスメア層はほとんど除去できなかった。こうした結果をもとに、根尖付近ではPUIによる洗浄液の撹拌が効率的に行われていないことが示唆されたとし、今後、超音波装置の出力、洗浄液の濃度、洗浄時間等の検討が必要という考察が加えられている。要するに、必要十分量の洗浄液が供給されないためとしているようであるが、考察のような検討を今後重ねたとしても、EDTAの脱灰力は強くない(NaOClにはない)ため、期待するような結果を望むのは無理のように筆者には思われる。なお、本研究では、依然としてというべきか、根管はNaOClと過酸化水素で交互洗浄しているが、NaOClとUPOでの発泡とその効果のことが連想されてしまう。 根管形成、清掃時のNa0ClやEDTAの使用目的は何であろうか?前者では殺菌と組織溶解、後者ではスメア層除去が主目的であるとすれば、3〜10%のNaOCl水溶液、中性の15〜17%EDTA水溶液をそれぞれ単独で使用するのが理にかなっていると思う。少なくとも根管形成時にはNaOCl溶液を満たして器械的および化学的清掃を続け、形成終了後にスメア層除去のためEDTA溶液で清掃するのが好ましいように思われる。拝聴したテーブルクリニックでは、スポンサーの製品を用いての清掃の話をされたが、それが最良の清掃剤の選択であるようには筆者には思えないのである。多分、山田先生はファイルによる器械的清掃がきわめて巧みなため、EDTA製剤は何でもよいのではないかと推測している。 (2011年6月28日)
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