第53回:う蝕が減るとどうなる?

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6月はむし歯予防デー・歯の衛生週間の月である。3年前の第16回コラムで、2010年には12歳のう蝕罹患率50%、DMF歯数1.4歯になるであろうという予測を記した。今春公表された文部科学省学校保健統計調査報告によれば、2009年の両数値は、3年間でそれぞれ6.8%、0.31減少して49.7%、1.40歯となっており、予測より1年早い。この12歳のDMFT値に代表されるように、児童・生徒のう蝕は確実に減っているが、それは今後の歯科治療の動向にどのような影響を及ぼすであろうか。その動向を示唆する、米国での調査結果が最近の米国歯科医師会雑誌141巻4号391-9頁(2010)に掲載されている。 米国では1960年代以降に生まれた人はう蝕が減っていると論文に記されているが、まず、日米の12歳DMFTの推移を見てみよう。米国での79-80、86-87、88-91年の数値2.6、1.8、1.4は、それぞれ我が国の2000、05、09年の値と同じであり、我が国のDMFTはいずれの時期においても約20年の遅れがある。しかし、DMFTの低下傾向はほぼ同じである。米国の例を見るとDMFTが1.4以下になるとその低下は大きく鈍化しており、今後の我が国のDMFTも同じ様な経過をたどるものと予想される。 12歳DMFTの年次推移   1960〜65年生まれの人は1972〜77年に12歳であるが、その頃DMFTはどのくらいであっただろうか?その数値は見当たらなかったため、図中に示した米国の 12-17歳および12歳のデータを利用して12歳DMFTを推測してみると約3.5となった。これは我が国での95〜96年頃の数値に相当し、その頃から我が国でも数値が急激に低下し始めている。これも約20年遅れである。こうした遅れはフッ素配合歯磨剤の普及の遅れが最大の原因である。フッ素配合歯磨剤の導入は、米国1960年代、我が国80年代である。その市場占有率は2001年頃やっと約80%を越えたが、この動向とDMFTの推移はほぼ連動しており、占有率が50%に達した95〜96年頃からDMFTの低下が目立っている(付図参照)。 JADAの論文は、米国歯科保険大手のDelta Dental保険会社へのミシガン州での1992〜2007年の保険請求データをもとにしたものである。治療した患者総数は92年の125万人から07年の184万人に増加している。年間一人当たりの各処置数の変化と年齢との関係が5年ごとのグラフとして1つの図にまとめられ、それが9図ある。 修復処置は、92年に1.1修復/人・年(以後この単位は省略)であったが、07年までにはすべての年齢で0.9以下に低下、40歳くらいでは0.8以下となる。アマルガム修復は年々減り07年では各年齢層とも92年の半分以下、コンポジットレジン修復は青年期〜40歳までは92年の2倍、92年から2002年で大幅に増加しているが、それに見合うようにアマルガム修復は大幅に減少している。CR修復は50歳以下での変化が大きく、それ以上の年齢層では0.4〜0.5修復で年次変化は少ない。 すべてのタイプのクラウン処置数は、55〜60歳までは増加して0.3でピークとなり、その後は年代の差はなく少しずつ減少して85歳を過ぎると0.2以下となる。15年間での差があるのは20〜55歳、40歳前後では0.1程度減っている。 抜歯の全体の変化のパターンはほとんど同じであり、12歳と18歳にピークがある。大人の抜歯は15年間あまり大きな違いはなく、40〜70歳は約0.15でわずかずつ増加傾向、それを過ぎると増加傾向が強まる。15年間を比較すると、40歳以上ではやや減少傾向にある。これは、大人での歯の保存が増えた傾向を示している。歯内治療は15年間で減る傾向にある。10歳台半ばから50歳台まではゆるやかに増え、それ以降ではわずかに減る傾向にある。治療数は最大でも0.07程度で抜歯よりも少ない。35歳以上では抜歯、歯内治療ともに減る傾向にある。 補綴処置は、歯の喪失の減少傾向とともに低下傾向にある。ポンティック数は、ピーク時で比較すると92年の0.04が07年には約半分となっている。部分義歯は大幅に減少し、70歳以下では15年間でほぼ半減し、ポンティック以下となった。補綴処置で増加したのはインプラントである(このような記述はあるが、インプラントは保険でカバーされていないため、具体的数字は記されていない)。保険でカバーされないインプラントであるが、インプラント上のクラウンはカバーされる。しかし、インプラントが増えたとしても、ポンティックや部分義歯の減少は説明がつかない。インプラントがピークとなる年齢(60〜75歳)でもインプラント関連のクラウンは0.01以下、ポンティックや部分義歯の減少以下となっている。全部床義歯も減少し、より高齢者層にシフトしている(データは示されていない)。無歯顎になる人はますます減っているが、1910〜30年生まれの多くの人は、若い時期に無歯顎とされてしまっている。 1960年代以降生まれの人はう蝕が減っており、それらの人ではそれ以前生まれの人にくらべ、子供として修復物が少なく小さい。そのような変化の影響がその世代が大人になって現れつつある。 1960年代半ば生まれの人は、07年には大体40歳になっている。彼らは15年早く生まれた人にくらべ、子供時代に大きな修復を受けていることは少ない。したがって、07年での彼らは、1950年代初め生まれで92年での同年齢の人にくらべ、クラウンは少なく、大きな修復も必要なくなっている。 米国では一人当たりの修復および補綴処置のニーズは減っており、この傾向は1960年代以降生まれの人が年をとるまで続く。修復処置ニーズと歯質喪失の減少の結果として大人でのより複雑な修復処置は減り、歯の喪失の減少により補綴処置のニーズも減り続けるであろう。従来の修復処置で忙しい平均的な歯科医にとっては患者を増やすしか道はないであろうという。この点については、今春米国では医療保険制度改革法が成立し、国民皆保険制度の実現に向けて動き出しており、現在約5千万人といわれる無保険者の公的保険診療を考えると、単価は低下しつつ患者は増えるという事態が待っていそうである。 本論文に示されているような治療動向の変化は、我が国の臨床現場ではどう実感されているだろうか?う蝕の減少が米国より20年ほど遅れていることを考慮すると、実感されるのは15〜20年先のことであろうか?ただし、保険制度の違いやインプラントの普及の程度により、状況がかなり異なってくる可能性はある。 追記:本論文には歯周治療の話が出てこない。これについては、処置数が多いだけでなく15年の間に治療コードや定義の変更があって解析がむずかしく、将来機会を見て報告したいと記してある。 フッ素配合歯磨剤の市場占有率の年次推移   (2010年6月26日)
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