第46回:東京デンタルショー2009

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11月7〜8日、東京デンタルショー2009が東京ビッグサイトで開催された。一巡りして材料面を中心に眺めてきたが、最も目を引いたのは、“操作性が大幅にアップ!”を謳ったスーパーボンドのほぼ30年ぶりのリニューアルである。“スーパーボンドは混和法では使いにくい”というのが大方のユーザーの声であったと思われるが、混和法専用のポリマー粉末の導入によりその解消が図られた。これにより、冷却することなく室温でも余裕を持って操作でき、さらに余剰セメントの除去も容易になったという。展示およびパンフレットを見るかぎり、かなり大幅に改良されたようであったが、実際はどうであろうかと思い、スーパーボンドに精通した歯科医に発売されたばかりの新製品を早速試してもらい、コメントを聞かせてもらった。一言でいえば、かなりよく改良され使いやすくなっているということであったが、コメントの一部も紹介しておこう。メーカー指示の粉液比1:1ではサラサラすぎて使いにくく、粉は1.2〜1.4の範囲で多めにし、また夏と冬では粉の量を調節したほうがよさそう。余剰セメントの除去は合着後2分半〜3分くらいが目安、3分くらい経てば隣接面にフロスを通しても、補綴物が浮き上がることはない。もう一つ重要な点として、合着する場合にまず歯面に混和物を塗布してから補綴物に塗布して合着することが大切だという(このことは説明書には書かれていないという)。 もう一つ、成分的に一気にリニューアルが進んだ接着材を紹介しておこう。“劣化に強い新規モノマー”、“新しい低揮発溶媒”を謳った接着材・クシーノV(デンツプライ)である。ビスアクリルアミド、アクリル酸、リン酸エステルモノマー、t-ブチルアルコール、アクリルアミドスルホン酸、水、光重合開始剤から成っている。これまでのクシーノIV世代まで(IIIまでは2液型、IV1液型)の成分であったリン酸エステルモノマーのPENTA、UDMA、HEMA、エタノール、アセトンなどは姿を消し、全体として一新された感があり、また多くの成分がこれまでの他社の接着材には見られないものである。ただし、ビスアクリルアミドとリン酸エステルモノマーは、2ステップ接着材・アドヒース(Ivoclar)のプライマー成分中のビスアクリルアミドおよびアクリルエーテルホスホン酸の化学構造とよく似ており、アイディア的には同類である。t-ブチルアルコールについては、これまでのオールインワン接着材の溶媒は1社のイソプロピルアルコールを除いてエタノール、アセトンであったことを考えると、これはかなりの前進である。今後はこの利用が増える可能性があると思われるが、それは次のような理由による。沸点がアセトンのように低くはなく、エタノールやイソプロピルアルコールとほぼ同じで使いやすく、また、水との共沸性がエタノールとくらべてイソプロピルアルコールと同程度にすぐれ、接着材塗布・乾燥時の水の蒸散に有利である。さらに、共存するほかのエステル系モノマーとの反応性がエタノールよりも低いため、長期保存時の安定性がより高まる。以上のようにまったく新規といえる接着材であるが、保管時の劣化は少なく長期の安定性は向上していると考えられる一方、モノマー成分の構造を考えると歯質での接着後の長期耐久性はどうであろうかという懸念がないではない。アドヒース、クシーノVなどの新型接着材の試みに対し、我が国メーカーはどのように対応するのであろうかと思う。(クシーノVの理解には、第35回コラム“セルフエッチングシステムについて考える”の参照をお勧めする) 内容的には新規性に乏しいものの、大きく目立ったのは知覚過敏抑制材料である。三つのブースでかなり派手な宣伝が行われていた。そのうち、シールドフォース(トクヤマ)とクリンプロXTバーニッシュ(3M)が新発売品、スーパーシール(フェニックスデンタル)は既発売品である。このほかに最近リニューアルして2液型から1液型化されたMSコートONE(サンメディカル)の展示もあった。これら4種の材料はいずれも、知覚過敏の主原因と考えられている開口した象牙細管を封鎖することを意図したものであるが、それらの原理および効果は一様ではない。新発売の2種はレジン・セメント系材料で歯面をコーティングするのに対し、ほかの2種では成分であるシュウ酸が歯質をエッチングしてできるシュウ酸カルシウムで細管を塞ぐという原理になっている(なお、MSコートでは強酸のスチレンスルホン酸系ポリマーも含んでいるが、中心的役割をなすのはシュウ酸である)。シュウ酸系材料では、歯質のカルシウムと反応させる必要があることから30秒以上のこすり塗りが必要であるだけでなく、反応生成物のシュウ酸カルシウムはかなり大きな粒子であるため細管を密に封鎖するのはむずかしい。それにくらべ、レジン系材料では細管を含む歯面全体を被覆するため、封鎖性は明らかにすぐれていると思われる。知覚過敏処置後に接着を考える場合には、シュウ酸系材料ではシュウ酸カルシウムが接着材中の酸性モノマーとは反応できないため、それが接着に好ましくない影響を及ぼす可能性がある。メーカー説明では接着への影響はあまりないとされているが、両シュウ酸系材料ともに接着強さを低下させるという文献がある。 今回新発売の2種は、同じメーカーの接着材やグラスアイオノマー系材料の類似品と考えてよかろう。シールドフォースでは、塗布して20秒放置、エアー乾燥し、10秒光照射すると、接着性モノマーと歯質のカルシウムとの反応生成物が象牙細管を封鎖し、また重合硬化反応により象牙質表面に薄い被膜が形成されるという。さらに、フッ素徐放性も謳っている。この成分については明らかにされていないが、説明から推測すると、リン酸エステル系モノマー、フルオロアルミノシリケートガラスなどを含む同社の接着材・ボンドフォースに近いと思われる。クリンプトXTは、光重合型のレジン強化型グラスアイオノマー系材料である。フルオロアルミノシリケートガラス、HEMA、水、Bis-GMAからなるペースト、アクリル酸/イタコン酸共重合体、水、HEMA、グリセロリン酸カルシウム、カンファーキノンからなる液を練和し、歯面に塗布、20秒光照射すると薄い被膜が象牙質面に形成され細管も封鎖されるという。細管の封鎖とともに、フッ素だけでなくリンとカルシウムの徐放も強調されている。これは、従来の同社のグラスアイオノマー系材料にはなかったグリセロリン酸カルシウムの添加によるものであろう。歯質接着性材料による知覚過敏の治療は、最も確実な細管封鎖法であることから、従来の市販材料を利用してこれまでも臨床でかなり行われているであろうと推測している。今回新たに知覚過敏専用の接着材がお目見えしたことになるが、どのような評価を受けるであろうか? (2009年11月29日)
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