第108回:バルクフィルレジンについて考える

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“レジンは重合収縮するからその影響を減らすには積層充填するのがいい”、と考えている歯科医療関係者が多いのではないかと思う。筆者も頭の中では多分それはその通りだと考えていた。しかし、近年、従来型レジンとは異なり、フィラーやモノマーなどを工夫して重合収縮ストレスを減らし、光透過性を高めることにより、4~5 mmまで1回で充填できると謳ったバルクフィルレジン(Bulk Fill、以下BFと略)が種々登場して注目を集め、2012年以降BFに関して様々な報告がなされてきた。BFには高粘度と低粘度タイプがある。後者は裏層用とされ、咬合面まで2 mmを残してまず充填し、その上に従来型レジンを積層充填する。前者では充填深さが4 mm以下であれば一括充填できるとされている。このようなBFについて、アコースティック・エミッション(Acoustic Emission、以下AEと略)(追記参照)という新手法を用いて歯質-レジン界面の接着欠陥分析やそのほかについて種々検討した結果がJ Dentの最新号(2015年4号)に掲載されており、まずそれを紹介する。

BFの高粘度タイプ2種(SonicFill、SFとTetric N-Ceram Bulk-Fill、TNB)および低粘度タイプ2種(Filtek Bulk-Fill、FBとSureFil SDR Flow、SDR)、従来型レジンの高粘度および低粘度(フロワブル)タイプの各1種(Filtek Z250とFiltek Z350 XT Flowable)について、重合収縮率、弾性率、収縮ストレスの測定、および重合中の歯質-レジン界面での欠陥発生の様子をAE法で測定、解析した。AE測定では、長さ5、幅4、深さ3 mmの一級窩洞をリン酸エッチ、プライマー・ボンディング材(Scotchbond Multi-Purpose、SBMP)で処理、各レジンを充填して40秒光照射し、2,000秒間測定した。

高粘度レジンにくらべ、低粘度レジンは収縮が大きく、弾性率は低く、収縮ストレスは小さかった(ただし、フロワブルのみ大きかった)。10分後の収縮率は、高粘度レジンではBFのSF 2.1とTNB 2.2%、従来型レジンのZ250 2.1%であり、低粘度レジンでは、BFのSDR 3.0とFB 3.1%、フロワブルのZ350 3.5%。収縮ストレスは、SDR 1.7、FB 2.2 MPa、SF、TNB、Z250の3種は2.4 MPa、Z350は3.5 MPa。AEイベント数は、少ないものから順に並べると、SDR 6.0、SF 6.6、FB 6.8、TNBとZ250が7.0、Z350F 12.6となり、低粘度BFのSDRで最も低く、フロワブルで最も高かった。収縮ストレスが大きいほど歯質-レジン界面での破壊が多くなった。高粘度レジン3種は同じような結果であったが、低粘度レジンでは、BFレジン2種は収縮ストレス、界面破壊の点でフロワブルよりよい結果となった。収縮ストレスとフィラー含有率、収縮率、弾性率との相関性は弱かったが、AEイベント数とでは相関係数0.95という強い相関性を示した。AE測定結果から、遅い重合速度、低収縮レジンは歯質界面での破壊抵抗性を高めることが分かった。また、界面破壊は光硬化開始後すぐに起きはじめ、500秒以内に多くの破壊が起きた。

この論文ではレジンの種類にかかわらず同じ接着システム(リン酸エッチ、SBMP)を用いているが、接着システムが変わるとAEにも違いが生ずることが同じ研究グループから2013年のJ Dent Res1号に報告されている。長さ4、幅3、深さ2 mmの1級窩洞にハイブリッドレジン(Filtek-Z250), フロワブルレジン (Filtek-Z350 flowable)、およびシロランベースのレジン(Filtek-P90)を充填した。接着システムは、Z250には、リン酸エッチング後にSBMPとSingle Bond 2(SB)、セルフエッチタイプのClearfil SE Bond(CFSE)とEasy Bond(EB)、P90には専用のセルフエッチプライマーとボンディング材をそれぞれ用いた。40秒光照射し、2,000秒までのAEを測定した。なお、Z250/SBMPでは初期の5秒間指数関数的に照射強度を強め、その後最大強度で40秒照射という2段照射も行った。歯質-レジン界面のSEM観察も行った。レジンについては、収縮率、収縮ストレス、曲げ弾性率を測定した。データ数が少ないが、筆者が計算したところ、収縮ストレスとAEイベント数および収縮率との相関性はよかったが、弾性率との相関性は弱かった。

Z250をCFSEとEBで接着した場合、とくに初期の20秒以内に多くのAEイベントが検出された。P90では光照射後40秒からAEイベントが始まった。Z350/SBMPでは硬化開始直後に始まり、その後も多くのイベントが継続的に検出された。Z250/SBMP/2段照射では初期段階でのAEイベント数は1段照射にくらべ有意に少なかった。SEM観察では、Z250/EBを除きすべての場合にエナメル-レジン界面にギャップは認められなかった。しかし、象牙質-レジン界面ではおもに窩底部に多くのギャップが見られ、その幅はZ350/SBMPでは他にくらべ広く、P90では狭かった。収縮率が低く重合反応の遅い(収縮ストレスの低下につながる)レジンはAEイベントが少なく、界面破壊が減少した。

P90は、低収縮で硬化速度遅く、最も収縮ストレス小さく、AEイベントは他にくらべ少なかった。このことはSEM観察で象牙質-レジン界面のギャップが狭かったことと対応していた。それとは対照的に、Z350は最も大きな収縮、収縮速度、収縮ストレス、AEイベント数となった。このレジンではSEM観察で象牙質-レジン界面に最大のギャップが認められたが、これはレジンの収縮によって界面に生じた破壊がAEイベントとして検出されたことを示している。

4種の接着材はそれぞれ異なるAE発生パターンを示した。リン酸エッチのSBMPとSBではAEイベントが1,200秒を超えても起きていたが、セルフエッチのCFSEとEBでは初期の20秒以内に非常に多数のAEイベントが発生し、500秒までに検出されなくなった。比較的高い接着強さが期待されるリン酸エッチ処理の接着材では、初期に良好な接着が得られ、その後界面での破壊が徐々に進むと考えられる。一方セルフエッチ接着材では、硬化の初期段階で急速に界面破壊が進み、500秒までにわずかのAEイベントを起こしつつ象牙質界面での収縮ストレスを解放すると思われる。さらに、CFSEとEBでは、弱いシグナルの間に高振幅の強いシグナルが現われたが、これは界面でのひどい脱離が生じていることを示している。SEM観察ではEBのみにエナメル-レジン界面にギャップが認められたが、これは、ほかの接着材と比べ、EBでは初期に比較的強いシグナルが最も多く集中的に検出されていることと対応しているように思われる。

次に硬化の観点からBFを眺めてみよう。メーカー公表の硬化深さは、ISO4049規格(光照射して得られる重合物底部の未硬化部分をスパチュラでかきとり、残った硬化物の1/2の長さ)で測定されているが、ビッカース硬さ(VH)や重合率測定を基にして得られる数値と比較すると、ISOの数値は過大評価になっているという報告が少なからずある。例えば、5種のレジンの20秒照射時の測定例では、VHを表面から0.1、0.2、0.5、1~5 mmは0.5 mmごと、それ以上は1 mmごとに、それぞれ測定して得られたデータから作成した曲線をもとに、得られる最大硬さの80%の硬さに相当する深さを求めた。最大硬さは表面に近い0.1 mmではなく、0.2~1.0 mmの深さであった。従来型レジンFiltek Supreme Plus、低収縮・従来型レジンFiltek Siloraneおよび3種のBFではそれぞれ、ISO法で2.7、2.1、4.9~6.5 mm、VH法で1.5、2.0、2.5~4.0 mmであった(Dent Mater 2012)。

ところが、次のような報告がある。BF7、ナノハイブリッド5、フロワブル2種のレジンを用い、2、4、6 mmの厚さのレジンに20秒照射し、得られた硬化物を37℃水中に24時間保管してから表面と底面のVHを測定してその比を計算した。それが80%以上であればよいと評価した。2、4 mmでは底面/表面比はすべてのレジン、6 mmではBFの4種が80%以上であった。従来型レジンの多くは4 mmであれば80%以上を示したが、6 mmでは全てそれ以下であった(Clin Oral Invest 2014)。また、5種のBFは20秒照射で4 mm深さにおける底面/表面比はすべて80%以上という報告がある(Oper Dent 2014)。この2報告からすると、硬化はISO基準並みに保証できるかも知れないという気もするが、いずれの報告でも測定まで硬化物を37℃水中に24時間保管しており、その間に硬化が進むことを考えると、結果にはかなり疑問が残る。BFは従来型レジンとくらべ、硬化深さは大きくなっていることは事実であるが、メーカー公表どおり4 mmまでよく硬化するかは必ずしも保証の限りではない可能性があると筆者は思っている。

臼歯部の大きな修復において多数回の積層充填を行うと、重合中に咬頭偏位を起こす可能性があるとされるが、積層充填する場合、一括あるいは1 mmの積層充填より、低収縮レジンを用いて2 mm程度の積層充填を行うのがよいという(Oper Dent 2014)。必要以上に積層充填を繰り返さずに、収縮ストレスが低くなるような裏層用バルクフィルレジンを選べば、最低の充填回数で修復が済むようになってきているように思われる。

(2015年4月5日)


(追記)
(1)現在我が国で市販されているバルクフィルレジンは次の5種である。低粘度タイプのエスディーアール(デンツプライ)、ビューティフィル バルク フロー(松風)、バルクベース(サンメディカル)。いずれも、咬合面からの深さ2 mmを残しそれより歯髄側の窩洞を一括充填してから咬合面を従来型レジンで修復することになっている。このように2回に分けての修復ではなく、深さ4 mm以下の窩洞であれば咬合面まで一括充填できるとしているものに高粘度タイプのソニックフィル(カボデンタル)、ビューティフィル バルクがある。

(2)アコースティック・エミッション(Acoustic Emission, AE): 材料が変形あるいは破壊する際に、内部に蓄えていた弾性エネルギーを音波(弾性波、AE波、主に数10kHz~数MHzの超音波領域)として放出する現象。このAE波を材料表面に設置したAEセンサにより電気信号に変換して検出し、 破壊や変形の様子をリアルタイムで非破壊的に評価できる。AEは材料が破壊に至る前の小さな変形や微小クラックの発生に伴って発生するので、 AEの発生挙動を捉えることで、 材料や構造物の欠陥や破壊を発見、予知できる。

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