第106回:臼歯のコンポジットレジン修復物の寿命

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J Dent Res 93卷10号(2014)に「臼歯のコンポジットレジン(CR)修復物の寿命:システマティックレビューとメタ分析」という論文が掲載された。CRの直接充填は臼歯部にもかなり使われてきたが、どのくらいもつのかな?と思っていたので早速目をとおしてみた。この論文は、公表されている各論文データのみならず、各論文の著者に連絡を取り、患者情報(コード、性、誕生日、カリエスリスク状態)、歯数、修復面、充填日、修復評価日、失敗日、失敗理由、材料関連情報などのデータを提供してもらい、それを含めてまとめているという珍しいレビューである。

文献検索により抽出した1,551論文の中から、永久歯の2級あるいは1および2級の直接修復で5年以上の追跡調査、最終リコール時の修復数20以上などの基準に適合する1995~2011年の25論文を最終的に選定した。さらに論文のもとになったデータの提供を求めてそれら論文の著者と連絡を取り、その結果著者との連絡不可あるいはデータの提供不可が13論文あり、最終的に2001~2011年の12論文について分析した。全部で2,816修復(2級2,585、1級231)を分析し、そのうち失敗569修復であった。失敗の内訳は、う蝕221、歯破折77、修復物破折148、歯内合併症/痛み52、抜歯25、その他46であった。修復後6年経過までの失敗理由を見ると、1年目は歯内合併症が圧倒的であり、それ以後はそれは少なく、う蝕と破折が主となっている。失敗数は修復後年々増加するが、その主たる要因はう蝕の増加であり、破折の寄与はわずかであった。

年平均失敗率は5年および10年でそれぞれ1.8%と2.4%であった。生存率にはカリエスリスクがおもに影響している。高度あるいは中等度のカリエスリスクがあると2~3倍失敗のリスクが高まる。修復物の生存にとってこの患者リスク因子は材料因子よりも重要であろう。グラスアイオノマーセメントでの裏層はマイナス効果、修復面が多いほど生存率は低下。それらの影響は大臼歯より小臼歯のほうが大きかった。

以上のような臼歯のCR直接修復の成績は、臼歯のほかの修復法とくらべてどう評価されるのか興味があって調べてみると、やや古いレビュー(Oper Dent 29巻5号、2004)ではあったが、特に条件を付けることなく多くの論文を引用してまとめた結果として、次のような年平均失敗率(%)が記載されていた。アマルガム3.0(1969~2003年の32論文、追跡期間2~25年以上)、直接CR2.2(1988~2002年の45論文、2~25年以上)、CRインレー2.9(1992~2003年の20論文、2~11年)、セラミックインレー/アンレー1.9(1988-2003年の35論文、2~11年)、CAD/CAMセラミックインレー/アンレー1.7(1991~2003年の19論文、3~12年)、金鋳造インレー/アンレー1.4(1981~2003年の14論文、5~15年)。統計的には、アマルガム、直接CR、CRインレー/アンレーは有意差はなかったが、金・セラミック・CAD/CAMのインレー/アンレーより失敗率が高かった。長年アマルガム修復が行われてきたが、CR直接修復はそれよりも失敗率が低い結果となっている。このレビューでのCR直接修復の失敗率2.2%は、初めに紹介した最近のレビュー結果ともほぼ一致している。

こうしたレビューを読んだ後、第33回日本接着歯学会学術大会(2014年12月、神戸)の抄録集を見る機会があった。その中のシンポジウムの部に「マルチセンター方式によるコンポジットレジン修復の3年間の臨床成績」という13名連名の発表があった。これは、日本接着歯学会の「CR修復の臨床研究に関する作業部会」の9大学、1病院における2010~2011年の治療成績報告であった。321症例(3年後リコール率60.5%)の修復物の生存率(経過良好例)99.4%、経過不良3例(レジンの一部破折1例、マージン部の褐線の出現2例)のみであり、二次う蝕、脱落、歯髄炎等は認められず、CR修復は優れた成績を示すことが明らかとなり、CR修復がう蝕治療における第一選択であることを強くサポートするものであるという。本研究の目的は「臨床的有効性をサポートする良質な臨床エビデンスが少ないのが現状であり、マルチセンター方式による臨床研究を行った」であったが、上記レビューの読後ではCR修復に関しこれまでに世界的に十分ともいえるエビデンスが示されていると理解していたため、この目的にはかなりの違和感を覚えた。いまさら本当に必要な臨床研究であったのだろうかということである。接着歯学会としては、それより優先して取り組むべき研究課題があったのではないかと思う。それは、昨年保険導入されたハイブリッドレジンCAD/CAM冠の接着についてである。2009年「歯科用CAD・CAMシステムを用いたハイブリッドレジンによる歯冠補綴」が先進医療技術として承認され、それが今回の保険導入につながったのであり、当然その裏付けとなるエビデンスはあるものと思っていた。ところが調べてみると、このことについてこれまでほとんど基礎的および臨床的研究がなく、エビデンスはないに等しい状態である。

このようなことを記すのは、日本歯科理工学会誌2014年11月号の「CAD/CAM冠-CAD/CAM製作によるハイブリッドレジンクラウン-」という解説が頭に残っていたからである。それには大阪歯科大学で行った2011年6月~2014年3月の臨床試験結果として次のようなことが記されていた。「ハイブリッドレジンブロックとしてグラディアブロックを使用して79症例のCAD/CAM冠装着を行ったところ、全症例中約10%に装着後1か月程度でクラウンの脱離が認められた。使用したセメントは、クリアフィルSAルーティング、パナビアF2.0、スーパーボンドC&B、リライエックスユニセム2などであるが、すべてのセメントで脱離が確認された。脱離したクラウン内面に付着したセメントを容易に剥離し除去できるものが多かったことから、クラウン内面とセメントとの界面破壊が起こったものと考えられた。クラウンに亀裂や破折は認められず、再装着を行い、その後は問題なく経過した。」これだけの内容からは詳細は不明であるが、「クラウン内面とセメントとの界面破壊が起こったものと考えられた」という脱離についての説明には若干疑問がある。「脱離したクラウン内面に付着したセメント」の存在は、脱離は、「クラウン内面とセメントとの界面破壊」からではなく、“歯質とセメントとの界面破壊”によることを示唆してように筆者には思われる。

現在のところ、ハイブリッドレジンと歯質以外の材料との接着に関しては多少報告があるが、歯質との接着に関してはまだほとんど報告されていない。J Esthet Restor Dent 26卷6号(2014)に「間接コンポジットレジンおよびハイブリッドレジンへの接着」のレビューがある。1966~2013年の論文を検索した中から、1991~2013年の18論文を選び分析したものである。本レビューの要点を大まかにいえば、間接CR修復ではアルミナサンドブラスト処理、シラン処理し、トータルエッチあるいはセルフエッチタイプの接着材(セルフアドヒーシブセメントは接着力が劣る)を用いるのがよい。また、ハイブリッドレジンの接着に関する論文はなかったと記されている。

大歯大の臨床試験はグラディアブロックを使用しているが、ほかのメーカーの材料でも同じような結果になるのだろうか。ハイブリッドレジンではなく、歯冠補綴用硬質レジン材料であるが、2011~2013年の3論文(研究者はそれぞれ異なる)の次のような結果がそうした懸念のもととなっている。接着材にRelyX Unicemを用いた場合、EsteniaではCR/セメント界面およびセメント凝集破壊、Sinfonyではセメント破壊、Filtek Z250ではセメント/象牙質界面が多かった。またRelyX ARCの場合には、Sinfonyでは接着材/象牙質ハイブリッド層の破壊が多く、Filtek Z250では様々な破壊様式を示した。このような結果には、CRのフィラーとモノマーの種類および含有量が影響しているのではないかと筆者は推測している。

せっかく保険導入されたCAD/CAM冠も、脱離が頻発するようだと信頼性を失いかねず、早急な原因の解明と対策が望まれる。CAD/CAM冠の保険導入は、問題の多い金銀パラジウム合金使用を減らすのに多少役立つかもしれないが、あまりにもエビデンスに乏しく、時期尚早であったのではないかと思う。

(2015年1月18日)

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