第8回:ファイバーポスト

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根管に維持を求める支台築造では、金属の鋳造ポストや既製ポストにコンポジットレジンなどの支台築造用材料を併用する方法がこれまで多く行われてきた。しかし、ポストから金属が溶け出すことにより歯肉や歯根の変色あるいはアレルギーを起こす可能性、歯根に局部的に大きな力が加わることにより歯根破折を起こしやすい、審美性などの問題が指摘されている。これらの問題を解決するものとして近年注目されているのがガラスファイバーポストである。 ガラスファイバーポストは、金属の溶出は当然ないが、(1)金属にくらべ象牙質の弾性率に近いために歯根破折が起りにくい、(2)審美的に優れている、(3)レジンコア材料とともに歯質と接着、一体化され、力学的性質が向上する、(4)破折が生じても歯根の再利用が可能な形になりやすい、(5)切削で除去できるため再根管治療時に好都合、などとされている。 このように記すと、ファイバーポストはよいこと尽くめの感がないでもない。しかし、ファイバーポストは臨床に導入されてまだ日が浅く、研究も十分には行われていない。ファイバーポストに関する基礎的なデータ、臨床データを今後積み重ねていく必要がある。これまでに報告されている基礎的データでは、メタルポストにくらべファイバーポストのほうが歯根破折を起こしにくい、微小漏洩が少ないなどとなっている。しかし、ファイバーポストにも問題がある可能性を示唆するような臨床報告が最近出されている。例を二つ挙げよう。歯内療法処置後の小臼歯について、ファイバーポスト/コンポジットレジン修復とアマルガム修復を5年間にわたり比較したところ、成功率は両群間で差は認められなかったが、ファイバーポスト群では歯根破折を起こしにくく、二次う蝕を起こしやすかったという。ガラスではなく、カーボン(炭素)製のファイバーポストについて1ヶ月〜10年(平均7.6年)調査したところ、成功率65%、失敗原因は破折、根尖周囲病変および歯周炎、脱落であり、生存期間はメタルコアよりも短かったという。さらに、ファイバーポストでは咬合による繰り返し応力を受けることによりギャップや二次う蝕が発生し、長期的な成功は望めないという意見も別に主張されている。 これらの報告、意見についてやや疑問に思うことがある。「接着が本当に適切に行われているのだろうか」ということである。ファイバーポストは、接着技術の活用により、レジンコア材料とともに残存歯質と接着、一体化されるところに特徴がある。接着が適切になされていれば、二次う蝕は発生しにくくなると考えるのが常識的である。適切な接着のためには、手技のみならず、使用する接着剤、レジンの選択も重要であり、それらが不適切であると期待通りの結果は得られないであろう。 歯根破折という稀にしか起きないことよりも大多数の患者の長期的利益を考えると、維持力が大きく、安定しているメタルポストのほうが好ましいという意見がある。しかし筆者は、まだ評価が定まっていないファイバーポストではあるが、積極的に利用してみる価値は十分あると思う。歯根を最大限に保存して治療することが患者にとっての利益であり、それが最も望ましいことと考えている。その歯根の保存にはファイバーポストのほうが有利である。ファイバーポストでは、ファイバーとレジンの界面が劣化して問題を生ずる可能性があり、長期的な耐久性についての検証が必要である。しかしその場合でも、歯根部の再利用が可能な状況になると予想され、歯根の最大限の保存という目的は達せられるであろう。また逆に、破折も含めて再治療を想定し、再治療しやすいように予めデザインしておくことが考えられてよい。これはいわば工学におけるフェイルセーフ的考え方である。それは、問題が発生してもその影響を回避あるいは最小限にするための工夫をしておくということである。すなわち、破折などが起きても歯根への悪影響を最小限にとどめ、歯根を保存できるように工夫しておくという発想である。 メタルポストも表面のオペーク処理により審美性改善の試みもなされてはいるが、金属の本質的な問題は残されている。ファイバーポストには強度、維持力の点でやや不安がないとはいえず、接着技術を適切に駆使して使いこなしていくことが望まれる。さらに、ガラスファイバーに限定されることなく、新しい複合材料系のポスト用材料の研究・開発も期待したい。
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