第7回:HEMAのはなし

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表題のHEMAはhydroxyethyl methacrylate(ヒドロキシエチルメタクリレート)の略。関係者の間では、エイチ・イー・エム・エイではなく、日本で「ヘマ」、外国で「ヒーマ」ということで大体通用する略語である。ヘマは、ソフトコンタクトレンズ、歯の象牙質の接着においてなくてはならない物質、モノマーである。 ヘマは、チェコの化学者により60年以上前に合成され、50年前頃からコンタクトレンズへの応用が始まった。それから現在に至るまで、角膜とのなじみのよい水分を含むソフトコンタクトレンズの重要な原料となっている。一方歯科では、第1回コラムで記した増原先生グループが歯質の接着に関する研究の中で、1968年にヘマの優れた接着性を見いだし報告した。その10年後に発売されたリン酸エステル系モノマーを含む歯質の接着剤にヘマも配合された。その流れは現在に至るも続いており、ヘマはプライマー、ボンディング剤の重要な成分となっている。 各社の歯質接着システムには、4-META、MDP、MAC-10などのような、水に溶けにくい接着性モノマーが含まれている。これらは、水分の少ないエナメル質でアパタイトと反応するが、水分・有機質が多くアパタイトは少ない象牙質には取り込まれにくい。したがって、これら接着性モノマーだけでは象牙質においては強い接着は得られない。そのため、ほとんどの場合、ヘマがかなり多量併用されている。 ヘマは水に溶けやすい一方で、水に溶けにくい物質、モノマーも溶かすことができる。この特性により、ヘマは、水分の多い象牙質に侵入するとともに、接着性モノマー、ボンディング剤やコンポジットレジンのモノマーなど、水に溶けにくいモノマーを象牙質に取り込むことができ、象牙質の接着において大きな力を発揮する。接着性モノマーはエナメル質に有効、象牙質にはあまり役立たず、逆に、ヘマは象牙質に有効、エナメル質にはほとんど無効という関係にある。両者相まって歯質の接着が達成されているといえる。 ヘマは便利で有用な象牙質接着用モノマーであるが、多少留意しておいた方がよいことがある。象牙質表面近くにヘマが多すぎると、ヘマを含んで固まった部分の強度が低下するので、適量である必要がある。プライマーやボンディング剤には、水、エタノール、アセトンなどを含んでいる場合が多いが、それらをエアブローでよく飛ばした後、適量のヘマを残すようにすることが大切である。また、酸性の接着性モノマーとヘマを含むプライマー等では、保管条件によってはヘマが分解してその含有量が低下し、象牙質接着強さが低下するという最近の報告もある。このことは、象牙質においては接着性モノマーよりもヘマの重要性を示唆しているともいえる。 ヘマは、象牙質接着用モノマーとしてだけでなく、水となじみ水があっても硬化する性質があるため、レジン強化型グラスアイオノマーセメントの重要成分として利用されている。さらに、象牙質知覚過敏処置材としてグルタルアルデヒドとの混合水溶液(グルーマ)がある。ただしこの場合、グルタルアルデヒドが有効成分であり、ヘマは本質的に重要な役割を果たしているとはいえない。グルーマは、以前海外では象牙質接着用プライマーとして本来使用されていたものである。このプライマーでは、ヘマが最も重要な役割を担っているが、グルタルアルデヒドも殺菌や象牙質コラーゲンの強化に有効である。グルーマは、現在ではプライマーとしての利用は制限されているようであるが、象牙質に対するプライマーとして今でも最も優れていると思っている。 ヘマは、ほとんど無臭、低揮発性、低価格、重合性(硬化性)良好、比較的低毒性という特長がある。これがなかったら、ソフトコンタクトレンズや象牙質の接着はどうなっていたであろうか?という気がする。  
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