第6回:根管治療かインプラントか

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前回の第5回コラムに引き続いて、今回も保存学会がらみの話題である。学会の全体スケジュール終了後の5月26日夕方、ワークピア横浜で「根管治療かデンタルインプラントか: そのエビデンスは?」と題して、学会で特別講演されたマフムード・トラビネジャド教授(MT教授と略記)のセミナーが開かれた。インプラントに傾きがちな現在の歯科医療の方向に筆者は疑問を感じており、歯内療法の教授がどのような話をされるのか興味があり、出席してみた。 MT教授によると、根管治療の成功率は82%、この数字はインプラントに比べやや低く、さらに、失敗原因の59%は不完全な根管充填のためだという。歯周治療の専門家はインプラントを優先的に考える傾向があるそうであるが、歯内療法の専門家では、当然のことながら、インプラントよりも先ず根管治療である。その最大の理由は、根管治療が失敗しても、インプラントという次の選択肢があるが、インプラントでは後がないということである。なお、MT教授ご自身にもインプラントは挿入されているというお話であった。 根管治療された歯根は最も優れた自然のインプラントであるといってよい。この自然のインプラントと人工インプラントを比較するとき、診療費の面であまりにも差が大きすぎるように思われる。平成18年度では根管治療にかかわる社会診療報酬が多少引き上げられたとはいえ、根管治療の技術的困難さおよび自由診療であるインプラントの費用を考えるとき、保険点数の一層の引き上げ、あるいはそれが無理であれば自由診療化もやむを得ないように思われる。それには、根管治療は、進展途上の人工インプラントに比べ、完成度の高いより優れた自然のインプラントを提供し得ること、および症例を選ばないことを広く理解してもらう必要があろう。 その一方、根管治療の成功率、生存率をさらに高める必要がある。それには、治療の難易度を下げ、“神業的”技術により行われているとされる根管治療を“人間的”技術でも可能なようにする必要がある。そのためには、従来からの根管治療について抜本的な見直しも必要と考えられる。根管拡大法、根管清掃法、貼薬剤、ガッタパーチャと合着に依存したシーラーによる充填など。技術革新なしに従来技術に依存し続けているのであれば、人工インプラントへの対抗力が衰えていくのはやむを得ないであろう。実体顕微鏡、ニッケルチタンファイルの導入など機器・器具面での進歩は認められるが、薬剤・材料面では基本的に旧態然としているように感じられる。 日本人の死生観(?)からすると、費用の点は別にしても、多くの人は人工インプラントよりも自然のインプラントを好むのではないかと思う。大学での歯内療法関連講座が縮小傾向をたどるなか、自然インプラントの健闘に大いに声援を送りたい。 終わりに、現在の根管治療について感じていることを一つだけ述べておきたい。根管貼薬剤として、従来のホルマリン含有製剤に代わり、水酸化カルシウム製剤の利用が広がっているようであるが、歯根の長期保存という観点から見てやや危惧を感じている。根管に貼薬された水酸化カルシウムは、根尖部では比較的はやく炭酸カルシウムに変化して弱アルカリ性となる。しかし、根管内では大部分が水酸化カルシウムのまま存在し、そこから放出される強アルカリは象牙質コラーゲンを脆弱化させ、将来的に歯根破折に繋がりかねないという懸念がある。このことは、ホルマリン製剤ではホルマリンにより象牙質コラーゲンの強化が期待できたこととは相反している。根管貼薬剤としては、殺菌・消毒のみならず、象牙質コラーゲンを強化できる機能も有することが望ましいと思う。このことについて一言付け加えると、ホルマリン、水酸化カルシウムよりも殺菌性、コラーゲンの強化作用に優れたグルタルアルデヒドは、根管貼薬剤成分として一考する価値があると思っている。
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