第2回:合着と接着

カテゴリー
記事提供

© Dentwave.com

歯科接着は保存修復領域を中心として近年発展、一般化してきたが,クラウン・ブリッジなど歯冠補綴分野での研究と臨床応用は残念ながらまだ十分ではなく、歯冠補綴治療における接着材の利用は保存修復と比べてかなり少ないように思われる。補綴分野では接着よりも合着という言葉になじんでいると思われるが、合着と接着の違いを理解したうえで、接着を積極的に利用していってほしいと思う。 歯質と修復物、補綴物を一体化する表現として、歯科には合着と接着という言葉がある。しかし、通常の接着の定義に従えば、合着は接着に含まれる。すなわち、接着とは、接着剤によって「二つの面が化学的もしくは物理的な力、またはその両者によって一体化された状態」と定義されているからである。その一体化の原理、メカニズムとして、機械的結合、物理的相互作用、化学的相互作用の三つがある。機械的結合はアンカー効果、投錨効果、ファスナー効果などと言われるもので、機械的、物理的な引っかかりである。これは歯科で言うところの嵌合効力であり、歯科ではこの場合を合着、残り二つの作用でくっつく場合を接着と呼んでいる。 合着では、従来型セメントである、リン酸亜鉛セメント,カルボキシレートセメント、グラスアイオノマーセメントが合着材として使われ、歯質や補綴物の表面にある微小な凹凸部にセメントが入りこんで嵌め合い状態となる。この場合、歯質等の表面とセメントの間には相互作用はなく、分子レベルでは隙間のある密着であり、二次齲蝕が発生しても不思議ではない状態にある。 もう一方の接着では、物理的相互作用や化学的相互作用により隙間のない状態となる。この場合、歯質や補綴物の表面とセメント分子の間で引き合う力(ファン・デ ル・ワールス力)が働いたり、共有結合、イオン結合、水素結合により隙間のない密着が得られる。図に合着と接着の違いを誇張して示したが、その違いは分子レベルでの隙間の有無ということができよう。なお,象牙質の接着では象牙質に接着材が侵入し、ハイブリッド層あるいは樹脂含浸層と呼ばれる層が形成され、緊密な密着が得られるようになっている。   ■ 合着と接着の違い 接着の最大の利点は、補綴物と歯質との間を確実に封鎖して歯質を二次齲蝕から守れることにある。さらに、補綴物の脱離や歯の破折を防ぐことにも接着は合着よりも有効である。しかし、接着は合着よりも原理的に優れているといえども、臨床ではさまざまな状態にある象牙質での封鎖性、耐久性は十分ではないと考えたほうが無難であろうし、だめな接着はよい合着より劣ることもあり得る。 現在、接着性レジンセメントとしては、スーパーボンドC&B、パナビアフルオロセメント、リンクマックス、インパーバデュアル、ビスタイト、リライエックス、マックスセム、バイオリンク、さらにグラスアイオノマー系レジンセメントとしてのビトレマー、フジルーティング、クシーノなどが市販されている。これらセメントの性質、性能は同じではない。その中味についてよく理解してよいものを選択し、適切に使用することが望まれる。 患者にとっては、できる限り歯の延命をはかり、抜歯を回避して歯を保存してもらうことが最も望ましい処置である。それには接着の果たす役割は大きい。保存修復において合着タイプのアマルガム修復から接着を利用したコンポジットレジン修復に移行してきたように(もちろん,アマルガムでは水銀の問題もあったのではあるが)、補綴修復も合着と接着の違いを理解したうえで合着から接着へと治療のコンセプトを移行させていってほしいと思う。 コンポジットレジン修復では機能と審美の面で満足度の高い歯冠修復が可能となっているが、それには接着システムの研究、開発が大きく貢献してきている。その一方、補綴領域で用いる接着材、レジンセメントの研究、開発が遅れていることも否めず、このことについて今後一層の努力を期待したい。
記事提供

© Dentwave.com

新着ピックアップ