第41回 細胞再生医療研究会に参加して ― 糖尿病幹細胞 ―

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暑い季節が到来、太陽の日差しが無くても、気温や湿度が高い環境にいるときは、熱中症に気をつけなければいけない。先日、炎症再生医学会に参加するために、7月1日から4日まで沖縄に行く機会があった。夏に沖縄に行くのは、初めてである(写真左)。 沖縄の海美ら海水族館のジンベエザメ
沖縄は、とにかく日差しが強くて、暑い。朝の気温も28度ぐらい。本当に、水分補給をしないと、体に影響が出そうだなと感じた。しかし、ホテルの方に尋ねると8月はもっと、日差しが強く、日差しが痛いとのこと。学会の合間をみて、沖縄美ら海水族館に行くことができた。目的は、世界最大の魚のジンベイザメを見ること。一番大きい「ジンタ」の全長は約8.5m、推定体重は5.5トンのようです(写真右)。 今回のコラムでは、その沖縄の話ではなくて、2014年7月27日(日曜日)神戸のポートアイランドにある臨床研究情報センターで開かれた第4回細胞再生医療研究会にて聴講した講演内容を概説する。 細胞再生医療研究会は、神戸大学医学部皮膚科の前教授、市橋 正光先生を代表とした会であり、医学・歯学問わず、毎年、異なるテーマにて、会員の先生方の成果について討論する。また、毎年テーマを設けたセッションと1~2つの特別講演が設けられ会員の方が勉強する会である。今年のテーマは、iPS細胞とmuse細胞であった。muse細胞については、このコラムでも紹介したい細胞である。毎年、同じ時期、同じ会場であり、会議室も一つであり、発表時間も一人一人が長く、研究の背景から聴くことができる。 細胞再生医療研究会のホームページは、http://d.hatena.ne.jp/saibou-saisei/ 朝10時からの、「糖尿病幹細胞を捕まえる」というお話を、滋賀医科大学医学科・生化学・分子生物学講座 教授の小島秀人先生がされた。 プログラムの演題を見て、「糖尿病幹細胞ってなんだろう?」という疑問。糖尿病を治すための幹細胞それと 病気を引き起こす幹細胞?最近では、間葉系幹細胞を移植することで、糖尿病を治すような試みが行われている。一方で、悪性腫瘍が完治しにくいのは、癌幹細胞が存在していることも知られている。それと同じような幹細胞が糖尿病に存在するのだろうか。小島先生の話は、糖尿病の合併症に、骨髄にいる造血幹細胞が関与しているということであった。 糖尿病を放置するといろいろな合併症が併発されることはご存知だと思う。糖尿病によって引き起こされる慢性合併症には、神経障害、眼の合併症、腎症、動脈硬化、メタボリックシンドロームや骨粗鬆症が挙げられる。これらは、高血糖状態が長い間続くとこれらの慢性合併症が引き起こされるので、血糖コントロールが予防法となる。しかし、どうして、高血糖が続くとこれらの合併症が起きるのかは明らかになっていなかった。 小島先生は、以前より、遺伝子治療を用いて、マウスの肝臓内でインスリンを作る膵島を再生させて、糖尿病を治す方法を開発してきた。マウスに薬剤(ストレプトゾトシン)を投与して糖尿病を発症させることができる。この研究の中で、遺伝子治療を行っていない糖尿病マウスの肝臓にも、インスリンおよびプロインスリンを産生する細胞がいることを見出した。さらに、このプロインスリン産生細胞は、糖尿病マウスの脂肪組織や骨髄にも出現することが分かってきた (1)。 では、このプロインスリン産生細胞はどこからきて、何をしているのだろうかという疑問から、次々に新しい知見を発見することになったようである。。 最初に、この脂肪組織等にいるプロインスリン細胞再生は、どこから来たのかを明らかにした。細胞が増殖すると、細胞がどこから来たのかが、わかりにくいので、細胞の増殖をほとんどしない、神経細胞を解明するための標的にしたようだ。 非糖尿病マウスでは、骨髄由来の細胞が末梢神経組織に存在しないが、糖尿病マウスでは、骨髄由来の細胞が、末梢神経組織にたくさん認めることを見出した。そして、さらに、この骨髄由来の細胞は、骨髄の細胞が神経細胞に分化したのではなく、骨髄の細胞が神経細胞と融合して、神経組織に存在していることを明らかにした。 前述したように、高血糖状態が続くと神経障害が併発することを述べたが、まさに、これが、その原因となるのではないでしょうか。つまり、高血糖状態が続くと、骨髄の細胞が神経組織に遊走し、そこで、神経細胞と融合することで神経細胞の機能を傷害することが考えられるからである。 次に、小島先生らは、本当にこの骨髄由来の細胞が、神経細胞と融合して、悪いことをしているかどうかを明らかにした。 融合細胞の特徴を調べてみると、融合細胞の数が、高血糖の状態が長く続くと増えること、融合細胞では、プロインスリンの発現が陽性であること、末梢神経組織の神経細胞を単離し、その機能を調べると、融合細胞では、細胞内のカルシウムの代謝の異常が見られたこと、融合細胞では、腫瘍壊死因子(TNF-alpha)の発現が見られたこと、などから、正常な神経機能を阻害している可能性が示された、 では、この骨髄から遊走してくる細胞は、いったいなんだろうかという疑問について、明らかにした。 糖尿病マウスの骨髄組織に存在するインスリンとTNF-αを共発現する細胞を単離して、いろいろとその特徴を解析すると、lineage (Lin) 陰性、c-kit陽性、Sca-1陽性細胞であることが分かった。この発現パターンを持つ細胞はKSL細胞と呼ばれ、造血幹細胞であることが示されている。つまり、驚くべきことに、造血幹細胞が、末梢神経組織の神経細胞と融合することを明らかにしたのである。言い換えると、高血糖状態が続くと、造血幹細胞がインスリンとTNF-αを産生するようになり、各組織や臓器に遊走し、その場で、正常な機能を持つ細胞の機能を傷害し、合併症を引き起こすことになることが考えられる。 小島先生らに、すでに、同じ機構によって、破骨細胞の機能障害や糖尿病性胃腸障害の原因となる消化管運動のリズムの制御を行うカハールの間質細胞の異常も明らかにしているようだが、どうして、高血糖になると異常な造血幹細胞が骨髄に出現するのか、そして、どうして、いろいろな組織にその幹細胞が遊走するようになるのかは、今後の課題である。 小島先生は最後に、他の糖尿病の合併症についても、同じ機構にて合併症が引き起こされていることが考えられるので、それらについても明らかにしていくとのことである。 合併症の原因の解明とその治療法が早く開発されることを願うとともに、我々の領域においても、まだ、原因不明な疾患は多いので、我々の仕事はまだまだ多く残されていると感じた一日であった。 参考文献 1.    Kojima H, et al. PNAS 101(2004) 2458-2463 2.    Katagi M, Kojima H. et al. FEBS Letters 588 (2014) 1080-1086
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