インタビュー:新型コロナウイルスのパンデミック時の歯科学生の不安と悩みについて
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エルハム・カテブ博士の専門的なキャリアは、歯科医療に専念してきた事です。パレスチナのアルクード大学で歯科公衆衛生学の准教授と科学研究部長を務め、FDI世界歯科連盟の公衆衛生委員会の選出メンバーであり、医療サービスの研究者でもあります。彼女は次世代の歯科医の教育にも携わっており、その事業に関して課題がないわけではありません。特に、現在進行中の新型コロナウイルスパンデミックは、彼女を含む学生が共に働き、学ぶ方法に大きな影響を与えています。デンタルトリビューンインターナショナルの取材でカテブ氏は、これらの困難と歯科医療全体の為にどうすれば肯定的な結果をもたらせられるかについて話しています。
[カテブ博士は最近、歯科学生と彼らの専門職の初日に新型コロナウイルスパンデミックに取り組む上で準備に関する研究に貢献しました。トピックを調査するためにあなたを動機づけたのもの何ですか?]
-アルクード大学歯学部の教員である私は、全面的なロックダウンの初日、パニックに陥った現状を目の当たりにしました。我々は歯科学生の訓練について正しい判断を下す必要がありました。世界中の多くの教育機関と同様に、アルクード大学は2020年3月5日にキャンパスを閉鎖し、オンライン学習に切り替えました。米国疾病管理予防センターと世界保健機関からの勧告の後、パレスチナ保健省は、非常に厳しい感染制御措置の下で実施された緊急の歯科治療のみに民間歯科診療所の業務を制限しました。
その為、歯科外来では完全に業務を停止し学生を帰宅させるしかありませんでした。そこでオンライン教育に切り替え、毎週のようにズームを使ったミーティングを行い、臨床業務や症例に関連した臨床上の問題点について話し合ったり、臨床手技のビデオを見たりして、学生の関心を引きつけるようにしました。これは、世界がこのウイルスの性質、感染様式、制御方法について研究している最中に行われたものです。明確な答えは出ませんでしたが第一印象として、エアロゾルを発生させている歯科医院は新型コロナウイルスの感染の危険性が最も高い地域であるということでした。アルクード大学歯学部は、2020年6月に臨床研修への復帰を発表した最初の歯学部の1つです。第一波では非常に限られた症例数しか発生しておらず、歯科学生のための高度な個人用保護具の十分な供給を確保した後に大学の管理者がこのような決定を下すのは妥当であったと言えます。
しかし、ズームミーティングを通じて学生たちと接しているうちに学生たちの迷いや不安が伝わってきました。ウイルスの病原性、重症度、致死性、治療法が明確でない等不明な点が多い為、学生たちは「診療に戻るのはまだ早い」と考えていました。そこで私は学生らに調査を行い、外来診療に戻ることについてどのように感じているかを評価することにしました。このような情報は、世界中の行政や歯学部にとって参考になると考えました。新型コロナウイルスパンデミック時の学生の患者さんへの対応力、心構え、感染対策のトレーニングなどについて検討しました。信頼関係の構築、情報提供、学生の心理状態への配慮が重要であったと考えられます。
この研究は、実際に臨床研修に復帰する数週間前の2020年5月に行われました。-
「歯科医院の管理者によって課された非常に厳しい措置から始まり、これらの新しいプロトコルを遵守する学生の綿密なフォローアップで終わるまで、全てが異なっています。」
[この研究では、新型コロナウイルスのパンデミックの前に使用されていた標準的な感染管理プロトコルが不十分であることを歯科学生が認識していたため、感染リスクのために患者を扱うことに自信が持てなくなっていたと述べられています。これらのプロトコルはどのような点で不十分であり、現在は何が違うのでしょうか?]
-パンデミック前に学生が使用していた感染対策は、サージカルマスク、手袋、白衣、歯科手術のラッピング、患者間での手袋やマスクの交換、すべての器具やハンドピースのオートクレーブ滅菌、ベンチや歯科用椅子のアルコール拭きなど、ほとんどの地域で標準的に使用されていたものでした。問題となっていたのは、医院のルールを守ることでした。2018年秋に学生を対象に実施した簡単なアンケートでは、フェイスシールドの着用、白衣の上からの使い捨てガウンの着用、患者へのマウスリンスの使用など、いくつかの慣習を守ることに消極的な学生がいました。
現在は歯科医院の管理者が課した非常に厳しい措置から始まり、学生がこれらの新しいプロトコルを遵守しているかどうかの綿密なフォローアップで終わるまで、すべてが異なっています。新しい厳格な措置には、フェイスシールド、N95マスク、ヘッドカバー、靴カバー、使い捨てガウンなどの高度な個人用保護具が含まれており、クリニックの滅菌と換気、手術エリア間の物理的な距離の取り方なども厳格化されています。さらに器具や材料の取り扱い、歯科手術室やベンチの消毒についても非常に厳しいプロトコルが課せられました。また、受付に到着した際の検温検査は、日常的に行われている患者さんの問診に加えて行われました。これらの対策を実施した後、学生の新型コロナウイルス患者への対応に対する自信のレベルを再評価することは興味深いことでしょう。-
[取締り対策はどのように改善されていくのか、パンデミックが収束したらすぐに基準が以前のような状態に戻るのか、それともここに留まると思いますか?]
-歯科医院の感染対策はかなり改善されてきており、非常に心強いです。少なくともしばらくはこれを新基準にしていきたいと思っています。フェイスシールドや使い捨てガウンは新基準になるでしょう。しかし、2つの診療所の間に1つの診療所を空にして、患者さんとの間に物理的な距離を置くことは、診療所の運営側には許されないと思います。その為、オープンスペースを閉鎖し、いかに同時に通気性を確保するかを考える必要があるでしょう。これは今後数ヶ月間の課題になると思います。新型コロナウイルスの感染についての理解が進んでおり、これらの対策も適応していかなければなりません。
しかし、フェイスシールドの着用、良好な手指衛生、患者間でのサージカルマスクの交換、手袋の着用、歯科手術のラッピング、ベンチや歯科用椅子の消毒をきちんと行うなどの対策は、最低限守らなければなりません。今回のパンデミックでにより学生に常に行って欲しいと思っていたことが強制されてしまいましたが、今では間違いやプロトコルの遵守を拒むことが許されない状況になってしまいました。このパンデミックの良いところは、歯科の現場で感染症が感染する可能性があること、更には厳格なプロトコルが適切に実施されていない場合、歯科の現場がいかに感染のリスクが高い場所になりうるかという認識が高まったことだと思います。他のすべての医療従事者の中で、私たち歯科医師は感染管理の専門家です。自分たちの対策に自信を取り戻し、これらの対策をしっかりと実行することで、口腔保健という非常に重要な健康サービスを提供するために、安全に診療を行うことができることに気づくための時間を必要としています。-
「歯科学生は、他のすべての医療専門職や非医療系の学生とは異なり、ユニークな状況にある」
[新型コロナウイルスが歯科学生にもたらした多くの変化に適応することに加えて、彼らは学問的にも適応しなければなりませんでした。そこでの最大の課題は何か、そしてそれを克服するために何をすべきでしょうか。]
-歯科学生は、他のすべての医療職や非医療職の学生とは異なる独特の状況にあります。歯科学生には、基礎科学・医学・歯学の理論授業、基礎科学・医学の研究室、前臨床研修の研究室、歯科外来での臨床研修などがあります。そのため、ズームやオンライン学習では全てをカバーすることはできません。大学生がキャンパスに戻って、研究室や実習でのフェイスマスクの義務化や物理的な距離の取り方などの厳しい安全対策を行っても、これでは医学、基礎科学、前臨床実習の研究室業務のみでは問題が解決するが、臨床実習では問題が解決しないという課題が残っています。
新型コロナウイルスの患者数が増加しており、地域の患者への対応は容易ではありませんでした。これが2020年6月末からの第2波では1日800件に達しました。電話による患者のトリアージ、クリニック入口での検温、厳重な感染対策の導入、高度な個人用保護具の使用などの対策により、学生にとっては少し条件が良くなり、夏期研修と秋期研修の一部をほとんど休むことなく終えることができました。最終試験は、マスク着用と物理的な距離感を保ったまま、なんとか実施することが出来ました。いくつかのズームセッションは、臨床発表と症例検討に費やされ、理論講義は全てズームで行いました。2020年11月に難民キャンプへのアウトリーチ・コミュニティサービス訪問を1回手配することができました。それは素晴らしい経験であり、学生はパンデミックの間にコミュニティにケアを提供することができました。個人的には、コミュニティアウトリーチ訪問が一番懐かしいです。
[このパンデミックと将来的に起こりうるパンデミックの間に、歯科学生が自信のレベルを高めるためにできることは何でしょうか?]
-役に立つ方法としては以下の様なものがありす。
•感染症対策の実施に関する研修を定期的に実施している。
•歯科学生への感染症に関する講習会の実施。
•感染症などの全身状態に関連した疾患の診断や症状の把握に、歯科学生が主体的に取り組むことができるようにする。
•医学、医療問題、薬理学に関するカリキュラムを強化する。
•歯科学生がインターベンショニストとしてだけでなく、医師としての考えを持つようにする。
・歯学学習の焦点を修復モデルから予防、リスク評価、患者教育へとシフトする。
•偶発的修復治療、ホールテクニック、フッ化銀ジアミンの使用など、エアロゾルの発生を最小限に抑えるための介入や手技に臨床研修の重点を移す。-
[何か追加して伝えたいことはありますか?]
-私はこのパンデミックを機に、歯科教育を再構築し、専門職間の健康教育をより重要なものにしていく必要があると考えています。将来の歯科医師は、どのようなパンデミックでも最前線で活躍するために必要なスキル、知識、回復力を十分に備えている必要がありますし、また傍観したり、家にいて仕事に行かないように頼まれたりしないようにする必要があります。彼らは、どのような健康危機の中でも優先的に口腔保健と口腔保健を守る方法を学ぶ必要があります。-
記事提供
© Dental Tribune
ライター
Monique Mehler, Dental Tribune International