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現在、40歳以上の4人に1人が糖尿病と言われています。そのことから、日々の臨床で糖尿病を有する患者と関わる可能性はかなり高いと言えます。糖尿病を有する患者が来院された際の留意点には、どのようなものが挙げられるでしょうか?
人は食事をすると血液中のブドウ糖(血糖)が一時的に上昇し、血糖値が高い状態になります。しかし膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンが、ブドウ糖を細胞に届けることで血液中のブドウ糖が減少し、血糖値は徐々に正常値へと戻ります。そのためこの「インスリン」の分泌不足や働きに異常があると、血糖値が慢性的に高い状態が続き、血管や血液の状態が悪化し糖尿病を発症します。
糖尿病は発症の原因によって「1型糖尿病」「2型糖尿病」「妊娠糖尿病」「その他」に分類されます。
1型糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞に障害が起こることで、インスリンを産生できず高血糖状態が続くものです。子どもや青年に多く発症し、治療にはインスリン注射が必要になります。
2型糖尿病は、遺伝的要因に運動不足や食べすぎなどの生活習慣が加わって発症すると考えられています。しかしはっきりとした原因はまだわかっていません。2型糖尿病はさらに2つのタイプに分けられます。
インスリン抵抗性タイプは、インスリンは分泌されているものの働きが悪く血糖値が下がらない状態です。それに対してインスリン分泌低下タイプは、インスリンの分泌量そのものが減っている状態です。
2型糖尿病は中高年に多く発症し、糖尿病患者の95%が2型糖尿病とされています。治療には服薬やインスリン注射の必要になることもありますが、まずは運動療法や食事療法の行われることが多いです。
妊娠糖尿病は、妊娠中の糖代謝異常により血糖値のコントロールが上手くできなくなってしまった状態です。
遺伝子異常やその他の疾患が原因で起こる糖尿病のことです。
糖尿病の診断には以下のような基準値が用いられます。
空腹時血糖とは、食事前で血糖値がもっとも低くなっている状態です。この値を得るために、患者は10時間以上絶食した状態で検査を行います。
食後血糖値とは、ブドウ糖75gを溶かした水を飲み、30分後、1時間後、2時間後に計測されるものです。この値を使って食後のインスリンの働きを判定します。
HbA1cとは赤血球中のヘモグロビン色素のうち、糖と結合しているものがどれくらいの割合かを示す値で、過去1〜2ヵ月の平均値を取ります。食事や運動の影響を受けない値を得るために、患者は10時間以上絶食した状態で検査を行います。
歯周病は、糖尿病の合併症の1つです。糖尿病の方はそうでない方に比べ、歯周病の罹患率が2倍にもなると言われています。なぜなら、歯肉出血や排膿している歯周ポケットから炎症に関連した化学物質が体内に放出され、インスリンの抵抗性に影響が出るためです。これにより高血糖状態が続き、血糖値が悪化します。
また糖尿病患者は高血糖により細菌感染しやすい状態のため、歯周病の進行を早めるとともに重症化しやすい傾向にあります。
糖尿病患者は糖代謝の異常により唾液腺が障害を受けます。これにより唾液の分泌量低下や組成変化が起こり、自浄作用の低下につながります。また高濃度の糖が尿管を通過するため、浸透圧により通常より多くの水分が尿として排出されます。これにより脱水状態となり、口や喉が渇きやすくなります。
これらにより糖尿病患者には下記の口腔内トラブルが多く見られます。
糖尿病患者の歯科治療時の留意点は下記が挙げられます。
このことから治療前には詳しく問診を行う必要があります。
まず糖尿病治療において、運動療法、食事療法、服薬、インスリン注射など、どのような治療を受けているのかを把握する必要があります。服薬やインスリン注射などの薬剤の使用がある場合、薬剤名、投与量、投与回数なども確認しましょう。
歯科治療を行うにあたり、リスク回避のためにも糖尿病の値をコントロールできているかをあらかじめ確認する必要があります。空腹時血糖値126mg/dl未満、食後血糖値200mg/dl未満、HbA1c 6.5未満であることが望ましいです。
これまでに低血糖発作を起こしたことがあるかも確認します。低血糖発作を起こしたことがある場合は発作の回数、発作時の状況、症状、対処法なども把握しておきます。
また血糖値が30ml/dl以下になると発症する「低血糖昏睡」や、歯科治療中に感じる痛みやストレス、麻酔により生じる血糖値上昇の予防として下記の注意点も挙げられます。
糖尿病の合併症には、脳梗塞、虚血性心疾患、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性末梢神経障害などがあります。これらの合併症がある場合には、それに伴う治療内容や服薬の有無を確認する必要があります。
糖尿病患者は抜歯などの観血処置により、口腔内の常在菌が血液中に入り感染症を起こすことがあります。特に注意が必要なのが血糖コントロールが上手くいっていない場合です。観血処置の際は抗菌薬の投与と術後消毒を行い、感染予防に努めます。
上記で述べた内容を中心に、糖尿病患者の歯科治療における留意点は数多くあります。しかし、最も大切なのは患者自身によるセルフケアの徹底です。糖尿病患者は細菌感染に対する抵抗力が弱いため、歯周病に罹患しやすく炎症の改善が難しいとされています。よって長期にわたる頻回な通院が必要になるケースが多いです。そのため患者自身のセルフケアで口腔内を清潔に維持することが重要なのです。その上で歯科治療やサポートを行なっていきましょう。
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日本大学松戸歯学部附属歯科衛生専門学校卒業。歯科衛生士免許取得後、一般歯科、予防歯科、訪問歯科を主軸に勤務。現在、臨床業務を行いながら、医院の仕組みづくりやスタッフ育成、チームマネジメントに携わる。2021年7月歯科衛生士のオンラインサロン「99.99~フォーナイン~」を立ち上げる。
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