衛生士コラム「全身管理に目を向ける歯科衛生士を目指そう」vol.3

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歯科衛生士コラム
歯科衛生士 阿部田 暁子

公益社団法人 日本口腔インプラント学会認定 インプラント専門歯科衛生士
一般社団法人 日本歯科麻酔学会 認定歯科衛生士

パート3 モニタリング(バイタルサイン)について知ろう

1.バイタルサインとは


皆さんが働く施設には、血圧計は常備されていますか?
正しく測ることができますか?
そして、正常に作動していますか?

「患者さんの情報を知る」ために欠かせないのは、バイタルサインです。
では、バイタルサインとは何でしょう?
 バイタルサインとは「生命の徴候」とも呼ばれ、人が生きていることの証の指標とされています。その情報とは、血圧、脈拍、呼吸、体温、経皮的動脈血酸素飽和度などがあります。
 歯科治療中に測定することで、患者さんの安全を確認することができ、全身的偶発症の発生を予防することができます。
 実際にその情報を知るために必要なのは、モニタリングです。モニタリングの代表的なものには、生体情報モニタがあります。
患者さんの不安や緊張から、または全身疾患を有する場合などから、血圧が異常に上昇したり、脈拍が速くなる、もしくは遅くなる、呼吸が弱くなっていることがあります。
もし、生体情報モニタで患者さんの情報や異常を知らないまま治療を行った場合には、事故やリスクを引き起こすことにもなりかねません。観血的処置である外科処置の場合には特にモニタリングは欠かせません。

図2「モニタリングを行っていない時に、この様な状態になっているかもしれません
安全な歯科治療を行うためには、歯科衛生士もモニタリングの知識を持つ必要があります。
そして、モニタの機械だけに頼らないことも大切です。患者さんの顔色や爪の色、橈骨動脈での脈を触れる、触れることで体温を感じる、呼吸の様子を胸の上がりで見る、などもできます。血圧計やモニタは常に点検やメインテナンスを行い、誤作動や動かないということがないように管理を徹底するこが重要です。


2.変化に気が付こう


 モニタリングを行う際に、表示されている値がはたして正常なのか、異常なのかを知らなければなりません。そのためには、その患者さんの日頃からの血圧や脈拍、体温を把握することが必要です。病院においての血圧は患者さんの緊張や不安から家庭での数値より高くでる場合があるので、病院での血圧測定もしておくと良いでしょう。
また、それぞれの基準値を知らなければ異常に気が付くことができません。
基準値は、心拍数は60-80/分、呼吸は12-20回/分、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO₂)は95-100%、収縮期血圧は140mmHg未満 拡張期血圧は90mmHg未満となります。
モニタに表記されている数字を見ること以外にも、音でリズムを感じ、その変化に気が付くこともできます。

3.どんな時に血圧が上昇する?


歯科治療に対する不安(精神的ストレス)や痛み(身体的ストレス)また、アドレナリンなどの血管収縮薬を含む局所麻酔薬の使用(薬物的ストレス)により、血圧が上がることがあります。
急激に血圧が上がると、脳や心臓にダメージを与え、大変危険な状態になることもあります。
また、高血圧を有する患者さんの場合は重篤になりかねません。
歯科衛生士は、正しい測定が行えるよう、日頃からトレーニングを行う必要があります。
患者の衣服は薄手のものであればその上からでも可能です。上腕動脈にマンシェットを記しのある部分を合わせ、指2本が入るように巻きます。この時きつすぎても緩すぎても正しい値が出ません。また、測定の位置は心臓の高さです。測定中は患者さんにゆっくり深呼吸をしてもらいます。会話をしたりしながら行うと、正しく測れないこともあります。血圧計のカフやホースが劣化することや、電池がないことも測定を妨げますので、常に管理、点検を行いましょう。

4.呼吸をみよう


 酸素の取り込みが正常に保たれているかどうかを測定する器械をパルスオキシメーターといいます。パルスオキシメーターはクリップ状になっており、指先に装着することで酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンを赤い光で測定し、酸素飽和度を測定します。

図3 パルスオキシメーターの装着
 正常値は95%以上が基準値となります。値の低下により呼吸状態にトラブルがある可能性がわかります。術前の正常値から-3%になると注意が必要で、90%以下になると低酸素血症が生じる可能性があります。
 患者さんの胸の上に器具を載せると、落下の恐れがあるばかりか、呼吸抑制につながります、また、下顎が下がる体位の場合は舌根沈下を起こすこともあります。値が下がった場合には深呼吸を促し、下顎を挙上するなどの対応を行います。最近では測定が可能とされていますが、長い爪やジェルネール、濃厚なマニキュアなど、測定を阻害することもあるので注意します。
 どうしても剥がせないジェルネールの場合は、足の指から測定も可能です。

5.酸素ボンベは常備されていますか?使い方はわかりますか?


 皆さんの施設には酸素ボンベは常備していますか?歯科治療中の全身的偶発症が起こった場合には早急に酸素投与が必要になる場合があります。最も発生頻度が多いのが、極度な緊張や不安から起こりうる、血管迷走神経反射(脳貧血発作)です。症状としては顔面蒼白、冷汗、血圧低下、脈拍数減少などが見られます。他にはアドレナリン過敏症、アナフィラキシーショックなど酸素が必要なことが多くあります。酸素ボンベの設置場所を確認し、常日頃から酸素ボンベが空になっていないように注意をします。取り扱い方などは医院でトレーニングをしておきましょう。


図4「日頃から血圧測定、酸素の取り扱いなどのトレーニングを実施する」
~ まとめ ~

3回にわたり、患者さんの全身に目を向けるノウハウについてお伝えしていきました。
日々の臨床の中で歯科医師が治療に集中している中でも、私たち歯科衛生士がその変化にいち早く気が付き、観察する力を備え、知識を養うことで、歯科治療中における偶発症を早期に発見し、防ぐことができます。
患者さんにとって、口腔内のクリーニングだけではなく、全身的なことにも目を向けてくれる歯科衛生士の存在はより安心であり、信頼できる歯科医院となることでしょう。

昨年2019年10月に医歯薬出版より「脱口だけ歯科衛生士」わかる、生かせる、全身状態へのアプローチという本が発刊されました。こちらに今回のテーマについて更に詳しく掲載されていますので、医院一貫となりどうぞご覧になってください。
ありがとうございました。


図5 本の表紙
参考文献

医歯薬出版 2019年 10月 脱口だけ歯科衛生士 全身状態へのアプローチ
編著 山口秀紀 著 阿部田 暁子

日本歯科麻酔学会認定歯科衛生士Presents
もし、全身管理をしていなかったら・・ デンタルハイジーン Vol40 No.4呼吸
編著 卯田昭夫、阿部田 暁子

歯科衛生士テキスト 歯科麻酔学・全身管理学 学建書院
撮影協力 医療法人寛友会 浅賀敬デンタルクリニック


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