【いまさら聞けない】矯正治療に関する略語・専門用語とその解説<前編>

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歯科の中でも特に専門的な分野である矯正歯科では、多くの専門用語・略語が使われています。専門用語・略語は、ドクターやスタッフ間で情報共有をしたり、治療・指導内容を記録に残したりする際には欠かせないものです。そこで今回は矯正治療に関する略語・専門用語を解説します。

矯正治療に関する略語・専門用語

矯正治療を始める前の患者は、自分に合った矯正方法はどれか、治療内容はどのようなものかなど疑問を持っているかもしれません。そんなときに専門用語を使って説明をすると、患者の矯正治療に関する不安が増してしまいます。歯科衛生士自身が専門用語を理解しわかりやすく説明できるようになれば、患者との信頼関係も築きやすくなるのではないでしょうか。

矯正の方法に関するもの

矯正の方法に関する専門用語は以下の通りです。

● ワイヤー矯正
● 裏側矯正
● マウスピース矯正
● 部分矯正
● ハーフリンガル矯正
● インプラント矯正
● 床矯正
● 筋機能療法

それぞれを解説していきます。

①ワイヤー矯正

歯に付けた「ブラケット」と呼ばれる装置にワイヤーを通し、動かしたい方向に力をかけることで歯を移動させる矯正方法です。ワイヤー矯正は治療の適応範囲が広く、多くの症例で行なわれています。

②裏側矯正

「マルチブラケット装置」を歯の裏側に装着する矯正方法です。マルチブラケット装置とは、ワイヤー矯正でも使用するブラケットとワイヤーを組み合わせたものです。「舌側矯正」「リンガル矯正」とも呼ばれており、歯の裏側に取り付けるため正面から見えにくいことが特徴です。

③マウスピース矯正

透明なマウスピースを装着して行う矯正方法です。見た目が目立たず取り外しができますが、矯正適応範囲は限られます。

④部分矯正

歯並びや咬み合わせなど、気になる箇所を部分的に矯正する方法です。マルチブラケット装置やマウスピースを使って行います。全体矯正と比較して費用は抑えられるというメリットがありますが、矯正適応範囲が限定されているなどのデメリットもあります。

⑤ハーフリンガル矯正

上顎は裏側、下顎は表側に矯正装置をつける治療方法です。上顎のみ裏側矯正にすることで、通常のワイヤー矯正と比較して審美性を保ちながら費用を抑えられます。

⑥インプラント矯正

歯槽骨にアンカースクリューとよばれる矯正用インプラントを埋め込み、そこを支点に歯を牽引して矯正する方法です。アンカースクリューを埋め込む外科的処置は必要になりますが、一般的な矯正治療より牽引力が強く短期間での治療が可能です。

⑦床矯正

主に顎骨の成長過程にある小児に使用される、レジン製の床に回転式のネジやバネが付いた装置を使った矯正方法です。装置を使い顎骨と歯列を広げることで、歯が正しく生えるためのスペースを作ることが目的です。

⑧筋機能療法

口腔周囲筋の弛緩や緊張を取り除き、バランスを整えたり唇や舌を正しい位置に移動させたりすることを目的としたトレーニングです。不正咬合の原因である悪習癖や口呼吸などの改善を目指します。矯正治療と並行して進めることも多いです。

歯の動かし方に関するもの

矯正治療では、歯がどのように動くのかを理解していなければ最終的な歯並びをイメージすることができません。歯の動かし方に関する専門用語は以下の通りです。

● 近心移動
● 遠心移動
● 挺出
● 圧下
● 捻転
● 傾斜移動
● 歯体移動

それぞれを解説していきます。

⑨近心移動

歯を近心方向に移動させることです。

⑩遠心移動

歯を遠心方向に移動させることです。例えば臼歯を遠心移動させることで、前歯部の並べるスペースを確保することができます。ただ最後臼歯の後方に歯槽骨がない・埋伏智歯が邪魔をして臼歯を後方に動かせないなど、遠心移動が難しい症例もあります。

⑪挺出

歯を矯正力で引っ張り出し移動させることです。

なお歯の脱落などで対合歯がない歯を長期間放置すると、挺出の起こることがあります。歯の早期接触による咬合関係の異常や食片圧入などの原因にもなるため、注意が必要です。

⑫圧下

挺出と逆で、歯を歯根方向に押し込むように移動させることです。圧下は歯の移動の中でも難しく、特に臼歯の圧下は時間がかかり困難だと言われています。

⑬捻転

ねじれて生えている歯を長軸を中心に回転させ、正しい向きにすることです。捻転の矯正はマウスピース矯正では難しく、ワイヤー矯正でも強力な回転力をかける必要があります。

⑭傾斜移動

歯冠に力を加え、歯根の先から3分の1あたりを中心にして傾斜させる移動方法です。傾斜移動は臼歯部に比べて前歯部の方が容易です。

⑮歯体移動

歯冠と歯根を同じ方向へ平行移動させる方法です。歯体移動は歯を大きく動かすのに適していますが、その分矯正期間は長くかかります。また力をかけるのが長期間に及ぶため歯への影響が強く、歯根吸収の起こる可能性もあります。加えて歯槽骨の薄い前歯部では、不適切な力がかかると歯根露出にもつながりかねません。

矯正に伴う治療・処置に関するもの

矯正治療には、前処置や検査など矯正に伴うさまざまな治療・処置があります。矯正治療に伴う治療・処置に関する専門用語は以下の通りです。

● セファログラム
● 印象採得
● PMTC
● 便宜抜歯
● セパレーション
● ディスキング
● 保定

それぞれを解説していきます。

⑯セファログラム

「側面頭部エックス線規格写真」とも呼ばれていて、顔面・頭部を正面や側面からX線で撮影します。矯正治療を行うための分析・診断や、定期的に撮影し骨格の成長や歯の移動などの確認・評価といった目的で利用されています。

⑰印象採得

トレーと印象材を用いて、歯の型取りをすることです。印象物をもとに作られた模型は、歯の位置・歯列の確認や矯正装置の製作作業をするときなどに使用されます。近年では口腔内スキャナーと呼ばれる、デジタル印象採得装置を使用する歯科医院も増えてきました。口腔内スキャナーの使用は、従来の印象採得が苦手だった方の負担を減らすことができます。また歯並びや咬み合わせの状態を、立体的でより正確に記録することができます。これらにより術者の負担も減らすことができます。

⑱PMTC

専門家による機械的歯面清掃を指し、専用の機器を使用して歯磨きでは落とせないプラークや歯石の除去・清掃を行います。これによりう蝕や歯周病になりにくい環境を整えます。矯正中は装置をつけていて口腔清掃が不十分になりやすいため、歯科衛生士によるPMTCは重要な予防処置だと言えるでしょう。

⑲便宜抜歯

矯正治療で、歯を正しく並べるスペースを確保するために歯を抜くことです。小臼歯やう蝕歯など、診査をもとに咬合関係に影響が少ない歯を抜歯します。

⑳セパレーション

歯間分離することを指します。歯間部にセパレーションゴムと呼ばれるゴムを挟んで、隙間を作るための処置です。臼歯部にバンドと呼ばれる金属の輪を装着するための前処置として行われます。

㉑ディスキング

隣接面のエナメル質をわずかに削合し、歯を並べるためのスペースを確保する処置です。IPRとも呼ばれています。

㉒保定

矯正治療によって正しい位置に移動させた歯を、その状態に定着させることです。リテーナーと呼ばれる保定装置を一定期間装着します。

歯科衛生士ライター okahata

北海道の歯科衛生士専門学校を卒業後、一般歯科で勤務。現在は歯科衛生士の経験をもとにした記事を執筆するライター活動を行っている。

【校正】浜崎 実穂(歯科衛生士ライター)

プロフィール:
東京医科歯科大学卒業後、都内歯科大学病院に勤務。退職後は「歯科衛生士ライター」として活動しながら、ライターの指導や教育、ディレクションも行う。
自身で制作・運営を行なっていた歯科メディアは販売を達成。
大学の卒業研究では日本歯科衛生学会の学生研究賞(ライオン歯科衛生研究所賞)を受賞。2児の母。

記事提供

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