歯科治療における注意欠陥・多動性障害(ADHD)患者の正しい対応方法

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注意欠陥・多動性障害(ADHD)とは発達障害のうちの1つで、日常生活や仕事に支障をきたすことがあります。
しかし自分がADHDだと自覚していない方もいるほど、工夫すれば社会で健常者と同じように活躍できます。
今回はそんなADHDの症状や原因と合わせて、ADHDの患者が歯科医院に来院したときの対応方法などを解説します。

注意欠陥・多動性障害(ADHD)の症状

注意欠陥・多動性障害(ADHD)の代表的な症状は、その名にもあるように「不注意」と「多動・衝動性」です。
なお子どものADHDと大人のADHDでは、症状の見え方が少し異なります。

不注意

不注意とは、例えば以下のような状況です。

● 約束・期限を忘れやすい
● 鍵や財布など重要なものを失くすことが多い
● 細部まで注意を払うのが苦手で、仕事やテストなどでミス・失敗が多い
● 好きなことへの集中力が高く、話しかけられても気付かなかったり切り替えが難しかったりする


上記のようなミスや失敗は誰にでも起こるものです。
また幼少期など物事の重要性を理解できていないときは、起こっても問題ありません。 しかしADHDの場合、大人になってもこのようなミスを多くしてしまいます。あるいは一度失敗して反省しても、また同じことを繰り返してしまうのが特徴です。

多動・衝動性

日多動・衝動性とは、例えば以下のような状況です。

● 読書や勉強など、長時間じっと静かにしていることができない
● 人の話を最後まで聞くことができない・一方的に話してしまう
● 仕事や家事などを最後までやり切ることができず、途中で投げ出してしまう

これらは「せっかちな人」「いつも忙しい人」とは異なります。時間が無いゆえにじっとしていられないのではなく、状況に応じた感情のコントロールができない状況です。逆に自分の好きなことであったり興味のあったりすることであれば、集中して取り組めるというのもADHDの特徴です。

注意欠陥・多動性障害(ADHD)の原因

注意欠陥・多動性障害(ADHD)の原因は、まだはっきりとわかっていません。
ただ現時点では、生まれつき脳の機能に何らかの異常のあることがADHDの原因と考えられています。具体的には大脳の前頭前野の機能調節に偏りがあること、脳内の神経伝達物質の不足などが挙げられます。前頭前野は物事を考えたり正しい判断をしたり、適切な注意を払ったりするのに重要な部分です。ここに異常があることで感情のコントロールができない、不注意や多動・衝動性につながるとされています。

その他にも低体重児出産であったこと、脳の感染症などもADHDの原因として考えられています。また母親が妊娠中にアルコールやタバコを摂取していたこともリスク因子として挙げられています。

注意欠陥・多動性障害(ADHD)患者の歯科での対応方法

注意欠陥・多動性障害(ADHD)の患者は、自覚が無いこともあるため一般歯科に来院することも多いです。予約時から診療後の対応まで、注意すべきことを解説します。

予約時

ADHDの患者は予約を何度も取り直したりキャンセルしたり、予約日を忘れてしまったことで何度も連絡してきたりすることがあります。
ただこれらは不注意・多動・衝動性といった症状によるものであり、本人も困っているゆえに行動を起こしています。そのため「前回も説明しました」などといった対応はせず、本人の困っている気持ちに寄り添って対応しましょう。「予約日を忘れてしまった」と言うようであれば再度伝え、丁寧に対応します。

なお頻回に電話がかかってくるなどADHDが疑われた場合は、あらかじめ予約時間を長めに設けておくと良いです。

来院時

ADHDの患者は思いや考えが次から次へと浮かび、例えば問診票の記入に時間がかかってしまうこともあります。健常者であれば2〜3分で記入できるような簡単な問診票でも、ADHDの症状により15〜20分とかかってしまうことも。もちろん急かすことはせず、長めに取った予約時間内でできることのみ行いましょう。長めに90分枠を取っていても、問診票の記入からカウンセリングと口腔内診査までしか行えないということも大いにありえます。

またカウンセリング時には本人がある1つの考えに固執していたり、こちらの話が届いていないように感じたりすることもあると考えられます。こちらが話し終わる前に一方的に話し始めたり、話の流れが支離滅裂に感じたりすることも。その他カウンセリング中ずっと落ち着きがなくそわそわしていたり、同じ質問を繰り返したりすることもあります。

これらはすべてADHDの症状によるものであるため、無理にすべてを伝えようあるいは汲み取ろうとせず、本人の話に耳を傾けましょう。こちらから治療や診断内容について話をするときは、必要最低限の情報に絞って伝えるようにします。

診療中

例えば局所麻酔注入時やタービンで切削しているときなど、健常者が「急に動くと危ない」と感じるような場面でも、ADHDの患者は動いてしまうことがあります。急に首を振ったり体を震わせたり、口を閉じてしまったりすることも。これはライトを口腔内に当てるときやミラーで頬粘膜を圧排するときなど、簡単な操作のときでも同様です。これにより口腔内に傷をつけたりけがにつながったりする可能性があります。

そのためADHDの患者の歯科診療を行うときは、必ずあらかじめ丁寧な説明を行い、本人の了承を得てから進めていくようにします。「少し前にも伝えたから大丈夫」という考えは持たず、何度同じ動作を行なっていても毎回丁寧な説明を心がけましょう。これらは診療後も同様です。

ADHDの患者がそれを自覚していない、あるいは医科にかかっておらずADHDの診断が出ていない場合は、他の歯科医院で適切な対応をしてもらえずに悩んでいることもあります。自分の歯科医院にADHDの疑われる患者が来院し対応が難しいと感じたら、必要に応じてペインクリニックや精神科への紹介を検討することも重要です。歯科医院で診療をした歯科医師がこのように対応し、受診したことでADHDの診断がついた例もあります。ADHD患者への正しい対応方法を把握しつつ、臨機応変な対応ができるようにしておきましょう。

浜崎 実穂(歯科衛生士ライター)

東京医科歯科大学卒業後、都内歯科大学病院に勤務。退職後は「歯科衛生士ライター」として活動しながら、ライターの指導や教育、ディレクションも行う。
自身で制作・運営を行なっていた歯科メディアは販売を達成。
大学の卒業研究では日本歯科衛生学会の学生研究賞(ライオン歯科衛生研究所賞)を受賞。
2児の母。

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