正しく理解したいフッ素のこと 【vol.3】フッ化物の濃度はどこまでが効果があって安全? アパタイト・キシリトールでの代用品の効果は?

カテゴリー
記事提供

© Dentwave.com

この記事は
無料会員限定です。

正しく理解したいフッ素のこと
【vol.3】フッ化物の濃度はどこまでが効果があって安全?アパタイト・キシリトールでの代用品の効果は?

フッ化物の有効性や安全性は数多くの疫学的調査を基にコクランレビューやガイドラインなどで述べられていますが、う蝕予防に完全なものはありません。
その中で現実的により効果的な予防策を効率的に積み上げることが求められ、フッ化物の中でもフッ化物配合歯磨剤は特に積極的に活用されています。

今回はフッ化物がう蝕予防に用いられるようになってきた歴史的過程や濃度の変遷を深掘りして考察をしていきます。

フッ化物とは

フッ化物自体は自然界に広く存在し、海水中にも約1.3ppmのフッ化物が存在し海産物だけではなく、穀物や野菜、果物、肉、牛乳などあらゆるものに含まれています。
そして人体においてもフッ化物は骨や歯などの硬組織を形成する上で必須なミネラルであり、成人の1日必要量は3mgとされています。

斑状歯の発見と調査の歴史

1902年イタリアの軍医Eagerがイタリアのナポリにある火山周辺の住民に、歯の乳濁や褐色などの色調変化が生じている斑状歯が多く見られることを報告しました。
火山活動によって生じる蛍石や氷晶石などの鉱石にはフッ化物が多く含まれるため、フッ化物濃度が高い地下水を常飲していた火山周辺の住民へのフッ化物の影響が大きかったと考えられますが、当時は原因を突き止めることができませんでした。

7年後の1908年にアメリカのコロラドスプリングスにおいて、斑状歯「コロラド・ブラウン・ステイン」の住民が多いことを矯正医のMcKayが見つけ、窩洞の分類や形成の原則などで著名なG.V.Blackに相談し、飲料水中に原因があるのではないかとの仮説をたて調査を行い、サウスダコタにおいて井戸の水源が異なると斑状歯が少なくなることを突き止め、1916年には斑状歯を有する住民にう蝕が少ないとの発表を行いました。
また同時期の1915年にもRodriguezが斑状歯を有するインディアンにう蝕の発生数が少ない報告がなされており、風土病としての斑状歯とう蝕罹患数が少ない関係性が明確になりました。

当時の斑状歯に対して牛乳の過剰摂取やラジウムの関与などが疑われていましたが、フッ化物が影響していることが示唆されたのはMaKayに依頼を受けたChurchillが、原因とされていた飲料水の化学分析をおこなった結果であり、13.7ppmという過剰なフッ化物が含有していることを突き止めましたが、この時点では正確な因果関係は見出せなかったと結論づけられ1931年に発表されました。

その後、DeanがMaKayの仕事を引き継ぎ1936年に過剰な濃度のフッ化物によって斑状歯が生じること、1942年には飲料水中のフッ化物濃度が1ppm程度であれば斑状歯は生じにくく、う蝕も減少させることができることが疫学的観察研究から明らかになりました。

フロリデーションの開始

1945年にアメリカとカナダの4地域でフッ化物を適切な濃度に調整した水道水の提供「フロリデーション」が開始され、1957年にその地域の一つであるグランドラピッツにおける成果についてArnord.Jrが取りまとめ、う蝕罹患数が50~60%減少し斑状歯などの健康被害も生じなかったと報告しています。

その後、世界中でフロリデーションが実施され、数限りない疫学研究がなされた結果フッ化物のう蝕予防効果が実証されました。日本においても1952年に京都の山科地区において13年にわたってフロリデーションが実施され、永久歯においては有意にう蝕が減少したとの報告がなされています。

三重県朝日町や沖縄本島においてもフロリデーションが実施されたが現在は中止されており、2024年時点の日本国内では アメリカ軍基地内においてフロリゲーションが行われているのみです。
日本においては住民投票の結果や一部の過激な反対派の影響などによりフロリゲーションのような全身応用ではなく、洗口や歯磨剤などによるフッ化物の局所応用を公衆衛生行政における基軸としていき、新潟の弥彦村をはじめとして学校でのフッ化物洗口により小児のう蝕罹患数減少の報告は数多くなされています。

フッ化物の総摂取量は、アメリカなどフロリゲーションを行っている国よりも少なく、多少の飲み込みリスクを考慮した際にフッ化物洗口を学校などで行いやすい環境になったとも考えられます。
両親の健康意識が低いことなどによって家庭で充分なう蝕予防対策を受けられない小児にとって、学校でのフッ化物洗口の機会はフロリゲーションが実施されていない我が国では重要性がより高く、チェアサイドにおいても幼児期からうがいの練習を促すなどこの事業を下支えする姿勢が求められます。

歯磨剤とフッ化物

そして歯磨剤においては、当時の厚生省と歯磨剤メーカーの官民連携によりフッ化物配合歯磨剤の市場占有率を徐々に高め、1985年時点での約10%を2010年には約90%まで増加させてきました。
8020推進財団の報告からも、フッ化物配合であることを意識して歯磨剤を購入しているのは全体の32.0%に過ぎず、現在では特別な意識がなくともフッ化物歯磨剤を選択できる恵まれた環境であると言えます。

その一方で3.6%の児童が歯磨剤を使用しておらず、そのうち11.9%において「磨けた気がするだけ」などの歯科医院での指導の結果によって使用を控えているという悲しい資料も存在します。

歯磨きを行う時間を延長するために歯磨剤の泡立ちを気にする場合においても、発泡材が含まれていないフッ化物配合歯磨剤も多く発売されていますし、何よりも優先して指導すべきはフッ化物が含まれるものを使用することです。

キシリトールやアパタイトなどフッ化物以外にう蝕予防効果はあるの?

キシリトールやアパタイトなどフッ化物以外の材料の研究も進んできました。

キシリトールは糖アルコールという人工甘味料のため、細菌が代謝できずにう蝕の原因とはなりませんが、キシリトール自体にはう蝕予防はありません。
キシリトールを配合したガムを噛むことにより、抗菌性や自浄性などを高めてくれる唾液の分泌量が増加することが、結果としてう蝕予防効果につながります。

アパタイトは、う蝕のリスクの低い群ではフッ化物と予防効果に差がないとの論文も登場してきましたが、逆にう蝕リスクが高い群に対して予防効果がるという信頼性の高いエビデンスは存在しません。
アパタイトにはエナメル質表層の傷を補修したり艶を出したりする効果があり、PMTCに用いることによりエナメルのケアに寄与できると考えられます。

参考文献

最新版フッ化物洗口マニュアル,千葉県,千葉県⻭科医師会,千葉県学校⻭科保健委員会,2007 年 7 月.
一般財団法人 日本口腔衛生学会 フッ化物応用委員会編:フッ化物応用の科学 第 2 版,一般財団法人 口腔保健協会,2018 年 3 月.
Eager J.M.; Chiaie teeth. (Mottled enamel.) U.S. Marine Hospital Service. Dental Cosmos. 300, 1902.
G.V.Black , F.S.Mckey Mattled Teeth au eu demic developmeut imperfectiov of the enamel of the teeth. Dent Cos:58, 129, 1916.
H.V. Churchill; Occurrence of Fluorides in some waters in the United States: Ind Eng. Chem., 996-998, 1931.
Dean H, The investigation of physiological effects by the epidemiological method.
Tn:Moulton F, R, editor. Fluorine and dental health, Washigton DC: AAAS Publication: 19,23-31, 1942.
Francis A. Arnord, Jr.Grand Rapids Fluoridation Study-Results Pertaining to the Eleventh Year of Fluoridation AMERICAN JOURNAL OF PUBLIC HEALTH FLUORIDATION: 47 539-545, 1957.

プロフィール

竹内 一貴(たけうち かずたか)
【ご略歴】
  • 2010年3月   北海道大学歯学部卒業
  • 2010年4月~  日本歯科大学新潟病院にて卒後臨床研修
  • 2011年4月~  香川県高松市開業医にて勤務
  • 2014年4月~  香川県宇多津町の竹内歯科医院にて勤務(2019年6月より院長)
【ご執筆】
  • 小児のCR修復アップデート「小児患者への直接コンポジットレジン修復の実際」 小児歯科臨床2023年12月号
  • THEう蝕治療「2024年に知っておきたいカリオロジー」 デンタルダイヤモンド2024年1月号巻頭特集  他多数
【ご所属学会】
  • 日本顎咬合学会
  • 日本顕微鏡歯科学会
  • 日本歯科審美学会
  • 日本歯内療法学会
  • 日本接着歯科学会
  • 日本臨床歯周病学会
  • 日本臨床歯科医学会(京都SJCD)
【ご所属スタディグループ】
  • KDSC
  • TDSC
  • アイプロ主宰
  • K2-シグマ代表世話人

過去の関連記事はこちら

記事提供

© Dentwave.com

この記事を見ている人がよく見ている記事

スタッフ教育にお困りの先生必見 約70%OFF

【プレスリリース】《医師・歯科医師・薬剤師向け》無料オンラインセミナー3/24(日)朝10時開催 『ストレスが心身に及ぼす深い影響を探り、病状の根本原因を明らかにする』講師:Dr. Jibin Chi(Chi Fractal Bioanalysis Owner、Principal, CHI Awakening Academy, Sweden、President, Channel Biomedical Group)

審美歯科から内外の美を、チームワークで実現する健康寿命の延伸

【プレスリリース】歯科衛生士とお菓子の関わり方に関する意識調査 歯科衛生士の90%がお菓子好き、毎日お菓子を食べる歯科衛生士は50% 一方で、お菓子が歯に悪いと考える歯科衛生士は51%~体験型オーラルケアセミナー第2弾 6月に名古屋・大阪で開催決定~

息子が将来「歯科医師」か「薬剤師」になりたいといっています。安定した収入を得るならどちらの方がおすすめですか?

【プレスリリース】日本の歯科医師たちによる、カンボジア国内の子どもたちの虫歯を減らすプロジェクトが2024年11月に発動!~カンボジア政府と協力して、虫歯のない世界を目指す~

【プレスリリース】《医師・歯科医師・薬剤師・医療従事者向け無料オンラインセミナー》『Sunday Wellness Breeze Season 25』 全6回7講演開催/セリスタ株式会社

被災地で活躍 “JDAT”が「歯に特化」した災害支援 肺炎などのリスク下げる効果も【能登半島地震】

新着ピックアップ