今後の歯科業界の未来について語る対談企画 第1回 なぜ、歯科技工士が減っているのか?

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こんにちは。Dentwave.com企画担当です。 今回は、新しいコーナー「今後の歯科業界の未来について語る対談企画」の第1回です。これから歯科業界の色々な方々をご招待し、歯科業界の未来について意見交換していきます。

第1回のテーマは『なぜ、歯科技工士が減っているのか?』です。最近話題となっている令和6年診療報酬改定によるCADCAMの適応範囲拡大や、*DX化による技工の内製化が進んでいる中で、何年も前から課題として捉えられている歯科技工士の減少や働き方について、改めてこのタイミングで対談を実施いたしました。
*DX化:DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略です。DX化とは、DXになった状態を意味する造語です。つまりデジタル技術を活用し、組織の業務や商品、サービス等を改革し、競争上の優位性を確立した状態を指します。

今回のゲストは日本臨床歯科CADCAM学会から、こちらのお三方にお越しいただきました!
関東甲信越支部長 佐久間 利喜氏 (医療法人尽誠会 新栄町歯科医院 理事長/歯科医師)
関東甲信越支部 歯科衛生士部会 副支部長 穴沢 有沙氏 (株式会社Blanche 代表取締役社長/歯科衛生士)
関東甲信越支部 歯科技工士部会 副支部長 市毛 大樹氏 (D-Next合同会社 CEO/歯科技工士)

はじめに

Dentwave:皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます!とても豪華なメンバーに集まりいただき、とても楽しみです。
読者の方のために、改めて今回の対談企画の趣旨と実施に至ったきっかけを教えていただけますでしょうか?

穴沢 有沙(歯科衛生士):はい。実は今回の対談は先日、3月20日に新しく歯科技工士部会が発足された、日本臨床歯科CADCAM学会 関東・甲信越支部会でのスモールトークがきっかけとなりました。 最近話題となった診療報酬改定によるCADCAMの適応範囲拡大と、そもそもの歯科技工士が減っているという課題を聞いて、歯科技工士の市毛さんと歯科技工士の働き方も変わりそうだよね、と話をしたのが始まりです。

市毛 大樹(歯科技工士):そうなんです、僕と穴沢さんで歯科技工士の働き方について、歯科業界のいろいろな方の意見をいただく機会があると面白そうですね”と会話が盛り上がり、支部長の佐久間先生にもご協力いただいて、現在に至りました。

佐久間 利喜(歯科医師):僕もご招待いただきありがとうございます(笑)。楽しみですね。

Dentwave:このようなお話を聞く機会は少ないので、すごく楽しみです。
では早速本題に入りたいと思います。

問1 歯科技工士は「本当に」減っているのか?

Dentwave:まず、歯科技工士は本当に減っているのか?について意見交換をさせてください。
歯科技工士の就業人数は2000年の37,244人をピークに2022年の32,942人と12%程減っている状況です。*表1
ただ、国立社会保障・人口問題研究所の発表によると日本全国の人口自体が2050年には1億400万人余りになると見込まれている中で、歯科技工士が減っているのが本当に課題なのか?について意見をお聞きしたいと思います。
*表1 厚生労働省 就業歯科衛生士・歯科技工士及び歯科技工所
穴沢 有沙(歯科衛生士):そうですね。何をもって減っていると言っているのか、それは本当の課題なのかどうかですよね。私の意見ですが、事実として歯科技工士は減っていると思います。
先ほどの話にもありましたが、就業人数が減っている、そして少し前のデータで恐縮ですが、この数年で見てみると、そもそもの成り手もものすごく減っているんです。*表2

市毛 大樹(歯科技工士):そうですね。1学級当たりの入学者数1名から5名の学校が増えているかと思いますが、実際茨城にある私の卒業校も入学者数が3名まで減ってしまい残念な気持ちです。
*表2 厚生労働省 歯科技工士に関する最近の状況等
穴沢 有沙(歯科衛生士):1学級の定員は30名から40名ぐらいだそうですが、定員を満たすところは2019年時点で2校ほどしかなく、中央値が11名から15名ですね。
さらに就業歯科技工士の年齢から見ても、やはり歯科技工士は減っていると評価できます。
50代、60代がボリュームゾーンを占めていて、体力的にも一番働ける29歳未満はかなり少ないですね。*表3
*表3 千葉県歯科技工士会 衛生行政報告例からみえる歯科技工士の現状
市毛 大樹(歯科技工士):このまま歯科技工士の高齢化が進んで、志願者成り手が減っていくと、どこかのタイミングで一気に歯科技工士が不足してしまうと思います。特に歯科技工士という仕事は老化による視力の低下はパフォーマンスに大きく影響し、引退を考える方もいらっしゃいます。
今はまだ大丈夫かもしれませんが、将来を考えるととても大きな課題に直面しているという認識です。

穴沢 有沙(歯科衛生士):これまでの話から歯科技工士数は減少していて、やはり将来を考えると課題として認識した方がよいのでは、と感じます。2050年を基準にこの先の25年後を見据えると、今の50代、60代の歯科技工士がどんどん引退し、数の少ない若手だけになるということですよね。40歳未満で考えると現状13,000名ほどなので、歯科技工士の成り手を今増やしておかないと恐ろしいことになりそうですね。*表4
*表4 厚生労働省 年齢階級別にみた就業歯科衛生士・歯科技工士の構成割合
現在の年齢分布(*表4)と歯科技工士のなり手、入学者数の数字(*表2)を見ると、私の予測ではありますが、今後2050年時点での40歳未満の歯科技工士の就業人数は29,000名程までに落ちるかもしれないですね。

市毛 大樹(歯科技工士):そうですね。

問2 歯科技工士が減っている原因は何か?

Dentwave:ご意見ありがとうございます。歯科技工士は明らかに減っている、かつそれは歯科業界の課題になってくるかもしれないということですね。
では、歯科技工士が減っている原因について、皆さんはどのようなお考えですか?

穴沢 有沙(歯科衛生士):こちらに関しても、単純にDX化、内製化が理由なのか?それともダンピングが理由なのか?そもそも魅力のある職業でなくなってしまったのか?等、様々な観点から考えられると思います。
最近、技工物のダンピングが記事化されていましたが、やはりそれも歯科技工士さんが働きにくい要因になるのでしょうか。

市毛 大樹(歯科技工士):あくまで私の経験から申し上げるとの答えになりますが、新規のクライアント様とお話をすると、第一声に値段が高いとおっしゃる方がほとんどなのが実際です。弊社の場合、価格の値下げは行わず、他社に比べてどれだけ付加価値を提供できるかを心かけているところですが、多くの中小規模のラボでは大手ラボさんと同じような価格では製作ご提供が難しいのが実情実際です。そもそも高い、安いとは何なのか?分からなくなる時も多々あります。我々は技術の研鑽をし、医院様、患者様に良質かつ精度が高い補綴装置をご提供することに対し、サービス業として技工が扱われているのもいかがなものかと思います。ダンピングという問題は、昔の世代にあった価格競争のしわ寄せに我々が直面しているという見解であり、そもそも技工だけにとどまらず、歯科業界全体として健全ではない形態になっていないかという認識もあります。
佐久間先生はいかがでしょうか?

佐久間 利喜(歯科医師):そうですね。歯科技工士が働きにくくなっている要因はダンピング含め原因は色々ありそうですね。技工料に関しては安ければいいということではなく、クオリティと効率が重要だと考える歯科医院も多いと思います。その上で妥当な技工料はお互いの関係性をよく保つためにも支払いたいですね。
私の意見としてはDX化もそうですが、歯科医師と歯科技工士のコミュニケーション不足の課題も大きいかと思います。

クオリティの観点でいうと、DX化は欠かせません。ただ機械やデジタルを導入する、ということではなく、使いこなせるように知識をアップデートしていくことが大切です。これは歯科技工士だけではなく、歯科医師も含めた歯科業界全体で取り組むことが重要だと考えます。

実はこれまで形成や印象にエラーがあった場合、歯科技工士が歯科医院に伝えずにそのまま勘で作ってしまい、結局セットがうまくいかない・・・ということがありました。これは気を遣う場所が違うんです。デジタルは精度が良い分、設定によって制作物の値が変わるので、その辺を勉強しないと上手くいかない。だからこそコミュニケーションを取って、エラーがあるがどのように作るか?あるいは再印象するかの意見交換をしてほしいのです。これは、歯科医師と歯科技工士が対等に学び、仕事をすることの大切さを物語っていると感じています。
相手はわかっているだろう・・・という思い込みが危険ですね。

さらに効率の観点では、歯科医院側とラボ側の連絡をより簡便にすることが求められます。これまでは確認事項を電話でやり取りしていましたが、電話は診療の手を止められてしまい人材不足の中大変困っています。メールやチャット等のデジタルツールを使いながら双方のやり取りを円滑にすることでストレスを減らすことが可能になると感じています。言葉だけでなく、写真やイラストも共有でき、記録にも残りますしね。

この対談の前に穴沢さんが歯科医師対象のアンケートで色々な意見を集めていただきましたが、「歯科技工士とコミュニケーションがうまく取れないから課題になっているのではないか」という意見がありました。ただこれは歯科医師側と教育システムにも課題があると思います。
歯科医師も自分で積極的に勉強しない限り、デジタルのテクニックをしっかり学ぶ機会がないので歯科技工士さんとコミュニケーションがうまくできず、それをコミュニケーションのすれ違いだと思ってしまうことも多いと思います。

穴沢 有沙(歯科衛生士):確かに歯科医師側の対応ができるできないもあると思うので、知識の習得や情報連携の機会がもっとあるとよいのではないかと思います。そして市毛さんのラボのように、DXに特化して差別化を図りながら成長している企業もあるので、DX化が全て歯科技工士さんに不利なものではないですよね。
コミュニケーションの問題で言うと、偏見かもしれないですが歯科技工士の方って、コミュニケーションがあまり得意ではない、いわゆる職人気質な仕事が好きな方が多いのではないかと思っているんですよ。市毛さん、実際どう思いますか?

市毛 大樹(歯科技工士):私自身が職人気質ではないので答えにくいのですが(笑)おそらくコミュニケーションが苦手で、「黙々と物を作りたい」という歯科技工士さんが多いと思います。
ですが、未来を考えるとそうも言っていられないところが現状だと思います。ガラケーからスマートフォンに変わったように、技工に関しても、これまでやはり人の手、職人技アナログが支持されたところが、分野によってデジタルに置き換わっているのが事実ですよね。ですので、我々歯科技工士も、歯科技工士が減っていて大変だよねという業界の目線に甘えるのでなく、自分たちのあり方を変えないといけないと思うんです。そうでないと結局、時代のニーズに答えられなくなるかもしれないので、これからは積極的に新しい情報を手に入れて、業界内でコミュニケーションを取って、新しい在り方、働き方を工夫する必要があると思います。

問3 歯科技工士の今後の在り方、働き方について語る

Dentwave:市毛さんのお話の中に、新しい在り方、働き方の話がありました。それでは皆様が思う、これからの歯科技工士の在り方や、どのように変化していくのかなど、未来予想をお聞きしたいと思います。

穴沢 有沙(歯科衛生士):未来を考えると、歯科技工士として残るのか、何か名前を変えて新しい職業に変化するのかみたいなことも考えられますね。
学校教育にデジタル技工分野が入らないのであればそもそも国家資格であるべきか、認定資格でもいいのか?も将来的には議論になるかもしれないですね。歯科技工士自身が、自分が作ったもので患者さんの人生を変えるとか、歯科医師のベストパートナーとして専門知識を提供するなど、マインドを更にアップグレードしていくとやりがいも増え、成り手もまた増えていくのではないかなとは思います。

佐久間 利喜(歯科医師):そうですね。
実際私の周りの歯科技工士の方々に”どうしてジタル化しないの?”と聞いたら”いずれやろうと思ってはいるけど、今は忙しいんで...。”とか、”変化が怖いので...。”、”勉強が面倒くさいです。”という理由で、現状維持したいという方も多いんです。未来に対して危機感や不安はありながらも、行動を起こさない層もやっぱり一定数いるので、それは育てる人がいない、成り手が生まれない問題にも繋がりますよね。国家資格なので一度取れば無くならないのに、これだけ歯科技工士さんが離職しているわけですから、今の世代が変化を恐れずに変化していって欲しいと思います。私自身、科技工士さんを歯科医師の真のパートナーだと思っていますし、需要は今後もめちゃくちゃあると思いますので。

そして欲を言えば歯科医師側、医院側からの提案だけでなく、歯科技工士側からも積極的に提案、アドバイスをしてほしいんです。”この設計だったらこうした方がいい”とか、”この形態だと安定性に欠けます”など現場で教えて欲しいんですよ。対面でなくてもオンラインでもいいので、患者さんともコミュニケーションを取ってもらった結果で決めているのがベースだと思うんですよ。こういう会話ができるようになれば、患者さんも”この人が作ってくれたんだ”、”僕はこの人に作ってもらいたい”と信頼関係が構築できて、歯科技工士さんもより求められると思うんですね。

穴沢 有沙(歯科衛生士):それはとても面白いアイデアですね!スーパーにはよくありますよね、この野菜を育てた人はこの方々ですという(笑)

市毛 大樹(歯科技工士):確かによくありますよね!やはり一度、歯科技工士個人としても、ラボ全体としても、ポジション脱却と言いますか、未来のために在り方を見直すのはマストだと思います。

穴沢 有沙(歯科衛生士):歯科技工士さんの立会いが当たり前になると、どんどん今後は院内歯科技工士の役割も大きくなりそうですね。現状、歯科技工士が在籍している医院で、技工のみを行っている方はどのくらいいるのでしょうか?というのも、歯科技工士が歯科助手業務も担っているのを見かけることもあります。歯科技工士の知識や経験を踏まえてトリートメントコーディネーターとして活躍するのは価値があるようにも感じますが、技工の仕事を与えられず、技工以外の仕事に忙殺されている・・・というのは悲しいです。管理栄養士や保育士を採用したけれど、本来の業務で活躍させられずに歯科助手業務がメインになるのと同じ構造です。

佐久間 利喜(歯科医師):間違いなく歯科技工士の需要はあります。この歯科技工士さんが丁寧に作ってくれたものだから安心できる、パートナーとして信頼できるというふうに、そこでまた関係性を構築できればと思います。今はまだ業制という意識が強くて、歯科技工士は忙しくて医院に行く余裕がないというのをよく聞きます。その課題をデジタルで変えられたらもっといい世界が広がると思っています。

穴沢 有沙(歯科衛生士):そうですね。これまでの歯科技工士さんの実績や経験は誇るべきだけれども、今後も求め続けられるためには、歯科技工士は補綴を提供するだけ、いわゆるモノを作るだけでなく、患者さんのQOL向上のために必要な医療を提供している、と目の前の患者さんのことをより強く意識してほしいなと思いました。

市毛 大樹(歯科技工士):ありがとうございます。今回、これだけ歯科技工士にフォーカスした対談をさせていただけて、とても嬉しく思います。あとは、今回の対談の内容は歯科技工士だけの課題ではないと思いますので、歯科業界全体で今後の未来について考えてみる小さなきっかけになるといいですね。

終わりに

Dentwave:皆様、貴重なご意見をいただきありがとうございました。時代は変化し続けていて、歯科技工だけでなく、歯科業界全体にDX化による変化が起きていると思います。 我々もこれをしっかり認識し、今一度自分の場合(自分の職業)は?を考えると、これまでの良さも残しつつ、新しい環境、新しい技術を取り入れて、自分たちの未来は自分たちで作っていく必要性があると感じました。

読者の皆様、いかがでしたでしょうか?本対談が皆様にとって少しでもお役に立てると嬉しいです。 それでは次回の企画もお楽しみに!

Guest Profile

佐久間 利喜
歯科医師
医療法人尽誠会 新栄町歯科医院 理事長
<略歴>
  • 岩手医科大学歯学部卒
  • 新潟大学大学院医歯学総合研究科卒
  • 医療法人尽誠会 新栄町歯科医院 理事長
<所属>
  • 鶴見大学歯学部 非常勤講師
  • Bassi logic Endo system 公認インストラクター
  • 日本歯内療法学会
  • 日本歯科保存学会
  • 日本歯科顕微鏡学会
  • 日本臨床歯科CADCAM学会 指導医、関東甲信越支部長

穴沢 有沙
歯科衛生士
株式会社Blanche 代表取締役社長 経営学修士(MBA)
<所属>
  • マウスピース矯正研修講師
  • 株式会社Blanche(ブランシュ)代表取締役社長
  • 株式会社Brilliance(ブリリアンス)代表取締役社長
  • 横浜関内矯正歯科ブランシュ 副院長
<紹介>
  • 2012年からインビザライン治療に携わり、インビザライン導入医院への知識・技術指導を行う株式会社Blancheを2018年に設立。
  • 歯科医院向け出張研修や企業からの依頼セミナーを行っている。自身も歯並びのコンプレックスがありインビザライン治療を経験。その患者経験を活かし、歯科医院でのしくみ化を研修やコンサルティングを通じて伝えている。
  • 2020年 共同開業した インビザライン矯正専門クリニックの 横浜関内矯正歯科ブランシュで臨床に従事。
  • 2022年からは歯科医療者向けの人財育成事業として、日本歯科社会教養推進機構(JDL)を設立。外部講師を招き、歯科関連学校ではなかなか学べない、コミュニケーションやキャリア、クリティカルシンキングなどを伝えている。
  • 学生時代はマクドナルドの大会で笑顔を認められお客様サービス係として全国優勝。歯科以外では都市銀行での勤務経験もある。グロービス経営大学院にてMBA(経営学修士)を取得。

市毛 大樹
歯科技工士
D-Next合同会社 CEO
<略歴>
  • 2010年 茨城歯科専門学校技工士課卒業
  • 同年 有限会社かんとうセラミックス勤務
  • 2015年 茨城県内院内ラボ勤務
  • 2016年 医療法人H&S菊池歯科クリニック勤務
  • 2021年 OralNextLab開業
  • 2023年 D-Next合同会社設立
  • 同年 朝日レントゲン工業株式会社 CAD/CAMインストラクター
  • 2024年 デンツプライシロナ株式会社 CAD/CAMインストラクター
<所属>
  • 日本臨床歯科CAD/CAM学会
  • ILSC即時荷重研究会
  • POIC研究会
記事提供

© Dentwave.com

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