NEWS ポストセブン 2014年1月29日(水)16時6分
生活習慣病の入り口とされるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)はよく知られているが、口の生活習慣病ともいえる「チューイングシンドローム」は聞き慣れない人も多いだろう。
直訳すると「咀嚼器(そしゃくき)症候群」。
つまり“噛む”機能の低下が健康を害し、様々な病気を引き起こすことが医療現場で次々と分かってきたのである。
食べ物をよく噛んで食べることが大切だと教えられた世代にとっては、「今さらそんなこと……」と思うかもしれない。
だが、正しく噛んで飲み込む動作の「咬合咀嚼(こうごうそしゃく)」が当たり前にできない人が、子供から大人まで急増しているという。
その理由のひとつは、咀嚼回数の極端な減少だ。噛み合わせの研究を推進する学術団体、日本顎咬合学会の次期理事長でウエハマ歯科医院(茨城県土浦市)院長の上濱正氏が話す。
「ある調査によれば、弥生時代の1食当たりの咀嚼回数は3900回で食事時間は51分。
これは乾燥させたコメや木の実をそのまま食べていたからと言われています。それが現代になるとどうでしょう。
咀嚼回数は620回で食事時間はわずか11分という結果が出ています。
その理由は食生活の変化により、ファストフードやジャンクフードをジュースで流し込んで食べたり、焼き肉やステーキをなど高脂肪の食事をよく噛まずに早食いしたりする人が増えたため、メタボの要因となって糖尿病などの内臓障害を起こしやすいのです」
こうして噛むための筋肉(咀嚼筋)や顎が十分に発達しないと、歯並びが悪くなり噛み合わせがずれてくるのだという。
これを「不正咬合」といい、さまざまな身体のトラブルを招く。
上濱氏が続ける。
「不正咬合で姿勢が悪くなれば、肩こりや頭痛、不眠症、うつ状態が起こりやすくなります。最近では聴力に影響を与えるとの報告もあります。
また、咀嚼は脳の広範囲な領域を活性化することが多くの研究から明らかになっているので、逆に噛めない人は運動意欲や知能の発達などにも影響を及ぼします。
医師から認知症と診断されていた人が、自分に合う義歯を入れたら記憶力が戻ったり、歩行ができずに車イスだった人が義歯で噛む機能を高めたところ自力で歩けるようになった――こんなケースは決して奇跡ではなく、歯科医学的にも理由があるのです」
チューイングシンドロームは万病の元。決して侮れない噛む行為に、上濱氏はこんな警告を発している。
「不正咬合は子供から大人まですべての階層で起こり得ます。特にこれから日本を支える子供たちの多くが、噛み合わせができないために様々な機能障害に陥れば、国家存亡の危機といっても過言ではありません。
ただ虫歯を治すだけではなく、噛み合わせを含めた口腔ケアの重要性をもっと多くの人に認識してもらいたいです」
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