サメの歯が生体材料で最高硬度を持つ理由をスパコンが解明

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北大など、スパコンで解明 マイナビニュース 2014年1月30日(木)10時4分 東北大など、サメの歯が生体材料で最高硬度を持つ理由をスパコンで解明 20140130_01 写真: マイナビニュース 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)は1月29日、東京医科歯科大学(TMDU)との共同研究により、世界最先端の「超高分解能走査透過型電子顕微鏡」を駆使して、生体材料として最高硬度を持つサメの歯の最表面に存在するエナメル質=「フッ化アパタイト(Ca5(PO4)3F)」の原子構造を可視化することに成功し、さらにサメの歯の原子構造に基づいて、スーパーコンピュータを用いた計算を行い、エナメル質内部に入り込んだフッ素が強固な化学結合を形成することで、高い機械強度と優れた脱灰性を持った虫歯になり難い構造が自己形成されていることを発見したと発表した。 成果は、WPI-AIMRの幾原雄一教授(東京大学教授併任)、同・陳春林助手、TMDU 大学院医歯学総合研究科の高野吉郎教授らの共同研究チームによるもの。 研究の詳細な内容は、1月20日付けで独科学誌「Angewandte Chemie」オンライン版に掲載された。 サメは、地球上のすべての生物の中で最も健康的な歯を持っているといわれている。特に歯の最表層は、誰でも虫歯予防の歯磨き粉のCMや医薬品、歯科医などから聞いたことがあるかと思うが、エナメル質という生体材料の中で最も硬度が高い石灰化組織だ。サメの歯のエナメル質は、燐酸塩鉱物の1種で、小柱状の結晶となっており、火成岩や変成岩と同様の構造である「六方晶構造」を持つフッ化アパタイトが規則的に配列して、多結晶体を形成して存在している。 歯学の分野では、エナメル質内に存在するフッ素が、歯質を強化し、脱灰(カルシウムが溶け出すこと)を阻止することで、虫歯予防に効果が認められるといわれている。 フッ素の役割やフッ素を添加することによる効果自体は経験則によって理解されているのが実情で、原子スケールでの直接的な挙動に至るまでの解明は実はここまでされてきなかった。 フッ素が「どの場所に安定的にとどまり」、「どのように特性に影響を及ぼすか」など、原子レベルでの理解がフッ素による強化機構解明に必要だったのである。 もちろん、これまでにも解析はなされてきており、従来の電子顕微鏡法(TEM)を用いた解析では、フッ素の強化機構の鍵を握る「原子位置や元素分布、化学状態」までは、その性能(分解能力や元素識別能力)が低かったために観察することは困難だった。 しかし、近年の球面収差補正器の発明や「走査透過型電子顕微鏡(STEM)」の技術および各種イメージングの技術革新によって、高輝度かつ1Åを切る極細プローブを実現するだけでなく、高い原子直視性、優れた組成識別能を持った電子顕微鏡像が得られるようになっている。 さらに、最先端の「走査透過電子顕微鏡法」では、原子の散乱能の低い軽元素のイメージングなど、究極的には水素(H)さえもとらえることができるようになってきた。生体材料の主要な成分は軽元素であり、イメージングのハードルは徐々に低くなりつつあったのである。 そこで研究チームは今回、最先端の超高分解能走査透過電子顕微鏡技術(元素識別可能な「球面収差補正器搭載走査透過型電子顕微鏡」が用いられた)とスーパーコンピュータによる大規模な構造モデル計算を併用することによって、このような軽元素を主成分に持つサメの歯に存在するフッ素の原子位置を同定し、フッ素による強化メカニズムを原子レベルで解明に挑んだというわけだ。 なお超高分解能走査透過電子顕微鏡とは、0.1nm程度まで細く絞った電子線を試料上で走査し、試料により透過散乱された電子線の強度で試料中の原子を直接観察する装置である。 サメの歯に含まれるフッ素の割合は5~8wt%(質量パーセント濃度)と微量だ。 しかし、低倍でエネルギー分散型X線分光による組成分析が行われたところ、表面層の薄いエナメル質の領域にフッ素が局在し、表面層領域に極めて高密度で存在していることが確認された。 さらにこのエナメル質の内部では、画像1のように、低倍の電子顕微鏡像観察で、長さが数マイクロメートルサイズの柱状構造の結晶を持って、それぞれの長軸方向が平行になるように配列して、多くの結晶が集合した多結晶体を形成していることも判明。 この長軸方向は六方晶構造を有するCa5(PO4)3F結晶のc軸([0001]軸という)に対応し、歯による咀嚼方向とほぼ一致して、構造的に高い機械強度を保っている様子がわかるという。 球面収差補正器搭載走査透過型電子顕微鏡を用いて、この1つの小柱状エナメル結晶内部における原子構造の観察が行われた。しかし、極微細プローブが得られる最先端電子顕微鏡の利点とは裏腹に、収束電子ビームによる試料損傷の問題が生じてしまったのである。80kV程度の低加速電圧に下げることで、損傷の低減が可能だが、分解能の低下の問題が生じてしまう。この生体材料では、構造的に200kVの加速電圧で得られる空間分解能が必要であった。 このように困難な生体材料の構造観察を、高速計測および「低ドーズイメージング手法」を適用することで、今回、初めて可視化することに成功したというわけだ。 結果として、結晶を構成するフッ素原子や酸素原子などの軽元素をほぼ試料損傷なくとらえられ、サメの歯のエナメル質内における微細構造を同定することに成功。 その結果を示したのが画像2~5である。 画像2は、「高角度環状暗視野法(HAADF)によるSTEM像(HAADF-STEM像)」だが、このコントラストは比較的に重い原子であるカルシウム原子のコントラストが白い輝点としてとらえられ、サイトによって異なる原子密度を持って存在していることがわかる。 一方、画像3は、「環状明視野法(ABF)によるSTEM像(ABF-STEM像)」だ。このコントラストでは、軽元素のフッ素原子、酸素原子やカルシウム原子の位置までが黒い点として観察できている。画像のCaで構成される六角形の中心に位置する黒い点がフッ素原子カラムだ。 画像4・5の計算像では、その位置がより明確に観察できる。 このように得られた構造から、原子構造モデルを構築し、その化学結合状態の様子をスーパーコンピュータによる理論計算によって解析が行われた。その結果、カルシウム原子が形成する六角形の中心にフッ素原子が存在することで、フッ素が共有結合的な強固な化学結合を形成していることが明らかとなったのである。 この共有結合が形成されることで、サメの歯は機 械的強度に強固になるだけでなく脱灰を阻止し、虫歯を予防しているというメカニズムが明らかになったというわけだ。 前述したような構造は、生体材料内部で歯を構成するアパタイトの結晶が作られる際に、フッ素原子がその結晶内に取り込まれていくことにより形成されるものと推定されるという。 スーパーコンピュータによる理論計算の結果は、この構造はエネルギー的にも非常に低く、安定構造であることも判明している。 これが、歯に一番負担のかかる最表面層に自己形成されるという今回の発見は、「フッ素原子が自ら意志を持っているかのように移動して、結晶構造内に入り込む現象」であり、まさに「自然の神秘を再認識させられる結果」だという。 今回の成果を起点に、人体の歯の研究にも応用し、歯質強化や虫歯予防の今後の研究に活かせることが期待されるとした。 また、今回のような最先端電子顕微鏡法と理論計算による解析手法が、生体材料についても広く応用されることも期待できるとしている。 (デイビー日高)
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