細菌は誤嚥性肺炎、感染性心内膜炎などの疾患を誘発

カテゴリー
記事提供

© Dentwave.com

口腔内が不潔になると、誤嚥性肺炎などを引き起こし、死に至る場合もあります。

 

 詳細

 口腔内細菌と「誤嚥性肺炎などの内科疾患」、「う蝕(虫歯)や歯周病などの口腔感染症」などの関係を考えると、口腔環境は「高齢者の全身の健康」と密接に関連していることがわかります。

 

 口腔内は、常に37℃前後に保たれ、唾液という水分があり、定期的に食べ物が通過するため、いわば細菌培地(細菌の培養に適した環境)と言ってもよいほど細菌が繁殖しやすい環境です。

口腔内には600種類を超える細菌が常在し、健康な人の唾液1滴にさえ何億もの細菌が生息していると言われています。

口腔内細菌は、その代謝産物を周囲にまとい、歯や粘膜にしっかりと粘着し、細菌が作り出す多糖体で細菌と細菌の隙間が埋め尽くされ、硬組織表面に付着した状態の"バイオフィルム"(微生物による菌膜)を形成します。

そうなると、うがい程度では簡単には除去できません。

 

 高齢者が口腔ケアを怠るとこれらの口腔内細菌は増殖し、病原性のある細菌叢(さいきんそう)に変化します。

口腔内が不潔になるばかりではなく、う蝕や歯周病、口内炎などの口腔感染症を引き起こします。

さらに、これらの細菌は誤嚥性肺炎、感染性心内膜炎などの致死性の全身疾患を誘発します。

 

 日ごろの口腔ケアは、単に口腔内を清潔にするだけでなく、誤嚥性肺炎や感染性心内膜炎など高齢者において致死的な難治性感染症を未然に防ぎ、生活の質(QOL: Quality of Life)の観点からもきわめて重要となります。

また、糖尿病をはじめとする生活習慣病にも口腔機能や口腔内細菌が関与することが、近年多く報告されています。

 

【口腔内細菌や口腔機能が関与すると考えられる主な全身疾患】

 1. 感染性心内膜炎、敗血症

 2. 虚血性心疾患、高血圧

 3. 糖尿病

 4. 誤嚥性肺炎

 5. 脳血管疾患

 

 口腔ケアが適切に行われると、誤嚥性肺炎の原因となる菌を含む口腔内汚染物が取り除かれるばかりでなく、唾液の分泌が促進されます。

やがて、自浄作用も強化され、口臭・歯周病等の口腔感染症を改善し、口腔の環境を整えます。

その結果、口腔内細菌数は減少して細菌叢は改善されると考えられ、高齢者において致死的な難治性感染症を未然に防ぎ、たとえ誤嚥が生じても直ちに重篤な感染症を引き起こす可能性は減少すると考えられます。

 

 誤嚥性肺炎による高齢者の死亡が社会問題となってきています。

現在、肺炎は日本人全死亡者の8%を占め、日本人における死因の第4位です。

この肺炎で死亡する人のうち、およそ94%が65歳以上の高齢者です。

高齢者の肺炎の70%が誤嚥と関連があるとされています。

口腔ケアの徹底によって誤嚥性肺炎はかなり防げることが、科学的に明らかにされつつあります。

 

  誤嚥性肺炎の予防のためには、嚥下反射(口のなかで塊にした食べ物を食道まで運ぶ反射)や咳反射(気道に混入した異物排出、除去の反射)の回復と口腔ケアによる口腔の清潔保持を行うことが、気管支・肺など下気道に落ち込む口腔内細菌の総数を減少させる有効な方法であると考えられます。

しかし、嚥下反射や咳反射の低下は、加齢や病気に伴う不可逆的な現象の1つの可能性があり、各種訓練や薬剤投与によってもすぐには回復は期待できません。

そのため、誤嚥性肺炎の予防における現実的で有効な方法は口腔ケアということができます。

 

角 保徳

 

国立長寿医療研究センター

 歯科口腔先進医療開発センター 歯科口腔先端診療開発部 部長

記事提供

© Dentwave.com

この記事を見ている人がよく見ている記事

新着ピックアップ