看護師が医師に「意見」も?医療事故防止に現場が垣根越えて連携

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産経新聞 2013年8月17日(土)23時47分

 

「医療安全全国共同行動」の設立記念シンポジウムで、一致団結する共同運動議長の高久 医療の高度化などにより医療事故増加の危険が高まる中、医療現場に携わる医師や薬剤師、看護師などあらゆる職種がそれぞれの垣根を越えて協力し、自発的に事故防止策を実行していこうという取り組みが始まった。

医師や歯科医師、看護師などの関係6団体が6月、一般社団法人「医療安全全国共同行動」の立ち上げを発表したところ、全国の病院や歯科、美容整形クリニックなど100施設以上が参加を表明。医師をトップとする医療現場では、たとえ不適切な処置があっても看護師や薬剤師が意見をいうことは難しく、しかも職種ごとに仕事の進め方の違いがあることもしばしば。現場が連携して同じ目標に取り組むことで、医療事故の予防を目指す。

歯科医と医師の連携が必要な現場も

「例えば歯科医が高齢者の往診をすると、薬や感染防止などのため薬剤師や医師との連携が必要になる」と語るのは、日本歯科医師会の溝渕健一常務理事。医療現場では、医師、看護師、薬剤師など多くの医療従事者が連携する必要がある。

しかし、「現場では医師の指示にスタッフが意見するのは難しい」(静岡県立病院機構の神原啓文理事長)という事情もあり、これまで行われてきた事故防止策は、それぞれの所属団体が中心だった。

「医療安全全国共同行動」が大きな目標として取り組むのは9項目。患者と医療従事者の双方が氏名を確認することで患者の取り違えを防いだり、患者の急変に備えて心肺蘇生(そせい)法の教育を医療従事者に徹底したりといったさまざまな具体的な方法を、全国の医療機関に普及させる。

間違いやすい医薬品の包装変更を働きかけたり、実際に起きた事故情報を元に再発防止策を啓発したりもする。

こうした取り組みをすることで、現場がどの程度安全になったかが分かる指標づくりなども考えていきたいという。

「犯人探し」は再発防止につながらない

平成18年の調査では、日本では入院患者の6.8%に医療が関与した事故が起きているとされる。「共同行動」は、20年から全国の病院など延べ691施設で事故防止策の啓発などをボランティアで続けてきた。しかし、継続的な活動を行うため今年5月に法人化。日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会、日本薬剤師会、日本臨床工学技士会と医療の質・安全学会の6団体が参加した。活動を進めてきた東北大の上原鳴夫名誉教授によると、「事故をなくす活動を担う団体の設立は初めて」という。

医療事故をめぐっては、厚生労働省が5月末、予期せぬ死亡事故の届け出と院内調査を義務づける「医療事故調査制度」の概要をまとめた。しかし、届け出を義務づけるのは死亡事故のみ。また、院内や第三者機関による調査では医療従事者の責任が問われ、損害賠償訴訟などの証拠となる可能性もある。このため、現場からは「『犯人探し』では正しい証言が得られない」(都内の医師)と反発も根強い。きちんとした原因究明ができない恐れがある状態では、再発防止につながらない。

厚労省は医療者の責任の有無にかかわらず被害者を補償する無過失補償制度も検討してきたが、「事故調制度の開始を見守りたい」などとして、6月に議論を中断することが決まった。

「共同行動」は、「医療者側からの自発的な取り組みが事故予防につながる」と主張。11月に開催予定の「医療安全全国フォーラム」に向け、全国の医療機関に参加を呼びかけ、活動を広げていく方針だ。

海外でも患者の安全に向けた取り組み

海外では、医療事故防止への取り組みは行われているのだろうか。

2011年に「患者安全法」を制定したスウェーデンでは、医療事故は医療者個人と組織の連携不足から起きるという考えに基づき、「組織の改善」を促進する文化をつくるようにしている。

スウェーデン自治体協議会のエバ・エストゥリング患者安全担当部長は、「もっとも守られるべきは患者の安全。そのためには患者自身が医療者とよく話し合い、治療に関わっていく必要性がある」と語る。安全な医療を受けるには、患者の意識改革も必要だという考え方だ。

ミスをした医療者についても、罰するのではなく正しい医療を行えるよう支援をしているという。「批判の文化から改善を要求する文化に変わらなければならない」とエストゥリング氏は強調する。

こうした患者の安全のための取り組みは、米国やデンマーク、英国、ドイツなど多くの国でも行われ、「国の予算が付けられているところもある」(上原名誉教授)。いずれも死亡率が減少するなど効果を上げているといい、日本の取り組みに期待が集まる。

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