歯科技工士制度は何のためにあるのか

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歯科医療を守る国民運動推進本部主催のシンポジウム

「歯科技工の海外委託から見えてきたもの」(上)

 

川上詩朗弁護士が、歯科技工の海外委託訴訟から何が見えてきて、何が問題であるについて以下説明した。

 

<川上詩朗弁護士の講演>

  訴訟のことは、とりあえず置いておいて、歯科技工の訴訟を通じて、海外委託問題から何が見えてきたのか。  今、何が課題となっていて、私たちはそれに対してどのように対応していったらいいのか。この問題をどうにかできないのか、このようなテーマについて、後のシンポジウムのなかでみなさんと一緒に考えていきたい。  歯科技工は無資格者には、厳格な罰則規定がある。ところが、一方で海外委託の場合は、国の方針は平成17年通達で明らかにされており、いったん海外委託に歯科技工が移った場合は、全く規制がない。どのような場所でどんな人が作っているのか自由であり、何のチェックもされていない。  一方、国内では歯科技工所に対する厳しい定めがある。国は関知しない。つまり規制が及んでいない。海外では何の資格も持っていない人が、歯科技工を行っているのではないか。国外と国内で同じ患者に使う物なのにもかかわらず取扱いが違う。あまりにも、国内と国外との取扱いがアンバランスである。これは、やはりおかしいのではないか?歯科技工士法は、有資格者の歯科技工士を行わせることによって、安全な歯科医療を実現する。そこに目的があったのではないか。誰が、どこで、何を使っているのかが分からない。それすらもチェックしないような国の態勢で、本当に国民の安全な歯科治療が実現できるのだろうか。おかしいのではないか。これが、訴訟で提起した一番の問題として訴えたかったことである。  これに対して、はたして国はどのような答えを出してくるのか。その点について私たちは、大いに関心を持った点である。平成17年の国の通達、「歯科医師さんが、患者さんにきちんと説明すればいい。歯科医師さんの責任でやればいい。国はいっさい対応しない」これが、通達から読み取れる内容である。実はこの点がはっきりとわからなかった。  国外、国内のアンバランスについて、訴えを提起した。  訴訟によって、国の答弁から考えがだんだんクリアになってきた。  色々言っているが、平成17年通達どおり、海外委託は歯科医師さんに委ねている。歯科医師の責任で安全を確保してほしい。国はその問題には、対応しない。対応する必要もないという見解である。多分そうではないかな、と考えていたがそれが明確になった。何もしないので、国には後ろめたさがあるのではないか、と私たちは思っていたが、実は違っていた。つまり、確信犯とも言えるような形でもって、政策をとろうとしているのではないか。安全性については、国はタッチをしないで、歯科医師に裁量権を委ねる。それは消極的ではなく、積極的な政策を実は打ち出してきた。それに基づいて、今の歯科技工士制度を実は変えていきたい。あるいは歯科医療そのもの制度を変えていきたい、という確信的な信念に基づいて、国は歯科技工海外委託問題に対応してきている。以上のことが明らかになってきたのではないか、と思う。この考えを進めていくと、結局は、歯科医師と歯科技工士の関係が疑問になる。海外委託においては無資格者でもいいと認めていることになれが、理屈から言えば、国内においても無資格者に頼んでもいいという議論になる。そうなれば、歯科技工士の意義、立ち位置がなくなってしまう。歯科医師の判断で、国内でも無資格者に頼んでいけばいいのだ、という考え方にもなる。日本の歯科技工士制度は崩壊させてしまう。海外委託問題は、歯科技工士のあり方が問われている。歯科技工士制度は、国民の私たちにとっても必要なのかどうかが、問われているのである。これは、大変なことではないか、と海外委託問題という切る口を通じて見えてきたことは、国は歯科技工士制度を存続させるのか。歯科技工士制度を充実せるのか。あるいは、それに変われ制度を考え、歯科技工士を形骸化させるのか。新たな歯科医療制度を国が考えているのではないか、と段々と根本的な問題が分かってきた。私たちは国の姿勢に、非常に危機感を持ったわけである。歯科技工士たちは、本当に声を挙げないでいいのだろうか。そもそも、歯科技工士制度は何のためにあるのか。ここをもう一度きちんと、捉えなおす必要があるのではないか。ある面で、訴訟のなかでこれらを学んだ、と言うか気付かされたことである。歯科技工士制度の存在意義を、二つの視点で私は考える必要があると思っている。一つは国民との間で歯科技工を考える。もう一つは歯科医師さんとの関係で、歯科技工を考える。そもそも、歯科技工士制度がなかったときは、どのようであったのか。歯科医師さんが歯科技工もやっていて、徒弟制度、職人的形で歯科技工をやっていた方たちがいた。しかし、そのままでは、粗悪な歯科技工物も出てくる。国民の安全な歯科医療を実現するためには、放置しておくことはできない、ということから歯科技工士という制度をつくり、国民の安全な歯科医療を実現した。つまり、歯科技工士制度の根本には、国民の安全な歯科医療を保証する、担保する。そのための歯科技工士制度であり、国民の安全な歯科医療の実現と歯科技工士制度は不可分なものなのである。国が国民の安全な歯科医療の実現するための色々な政策はあるが、しかし、日本では歯科技工士制度をいう設計で、国民の安全な歯科医療を確保する政策とした。それに基づき政策を積み重ねてきたので、国民の安全な歯科医療が確保されてきた。では前提が変わり、現状としての歯科技工士制度を変えなければならない問題があるのか。そのような問題はなく、むしろ、今こそ歯科技工士制度を充実させる時期にきているのでかないか。憲法の人権という観点からも、この問題をきちんと位置づける必要があると思う。また、歯科医師さんとの関係で、歯科技工士制度をどのように位置づけるかである。無資格者が歯科技工をしてもいいのなら、歯科医師と歯科技工士の関係はどのようになるのか。つまり、歯科技工士は歯科医師にとって、無意味な存在になってしまうのか。これはやはり、おかしいのではないか。後のシンポジウムで議論されると思うが、これからの歯科医療のあり方、歯科医師と歯科技工士のあり方をどのように考えていくのか。歯科技工士は、歯科医師の単なる補助者に過ぎないのか。歯科医療でよくチーム医療といわれているが、歯科技工士がきちんと位置づけられるのか。あるいは、歯科医師と歯科技工士がそれぞれの役割を果たすかで、ある意味で対等な関係として協力しあっていける道を貫けるのか。以上のことが問われているのだと思う。おかしいのではないか、と訴訟に持っていった素朴な疑問は、実は分かりやすい問題である。私たちが訴えていくと、「おかしいよね」「何らかの対応をしないといけないね」とみなさんが言ってくれるのである。非常に分かりやすい問題だ。これは、国会の審議に取り上げられたり、地方自体でも色々な意見書が挙がっている。さらに、進行協議となった。これは和解協議のことであるが、これは我々の訴えが裁判官に届いたのである。裁判官は、我々が訴えたこといで、「この問題は、このまま放置していたら、おかしいのではないか」という問題意識を持ってくれた。そこで、裁判官が話し合いの場を設けて、「国の側も、国民の歯科医療の安全については、異論がないでしょう」と言った。本来、国民の歯科医療の安全については、我々と国は裁判で争う問題、テーマではないでしょう、国民の歯科医療の安全のために歯科技工士制度をどうすべきか。海外委託問題をどうすべきか。「一緒のテーブルで議論をして、対策を考えていく、というスタンスで国の側も考えられないのですか」と裁判官が実は投げかけたのである。これは、我々の訴えが道理に沿ったものであった。我々が、「おかしいおことは、おかしい」と言ってきたことが、裁判官にも伝わったのである。「法律的な問題は、とりあえず置いておいて、この問題の解決は、必要であり、何らかの形で解決したい」と裁判官も考えていた。このことは、私たちの主張、訴えが正しく、筋が通っていたことであり、誰もが解決したいと思っている。だとすれば、国はその依頼に対して、どうして解決に向けて足を踏み出さないのか。しかし、最後まで国の側は一歩も足を踏み出さなかった。そこで、和解協議は終わって、結審、判決を迎える形となった。私は、進行協議(和解協議)で確信を持った。国会議員、地方議員たちにも我々の声は届いたが、裁判官にも声が届いたということから、さらい多くの人たちに話をしていくことで、同じ問題意識を持ってくれていて、「何とかしなければならない」と一緒に考えてくれるという可能性があると思う。

問題点は、

1)国民、市民の歯科医療の安全の実現、2)歯科技工士制度を充実、発展させていく、3)歯科技工士制度の中身、ビジョン、提言をいかに出していくが問われている。

  今後の課題として、一つの方法として検討委員会を立ち上げて、同じテーブルで歯科医師、歯科技工士、有識者、専門家、消費者、市民を交えて検討する協議の場を設けるべきである。そこで海外委託の問題、歯科技工士制度や今後の歯科医療のあり方などについて協議をする。  議論の結果、政策の変更が必要なら国に要望し、法律改正が必要なら、国会議員に頼む。  このような動きをするために、協議の場を是非作り上げてほし。今から準備をしないと手遅れになるのではないか、という危機感を持っている。

  今日のシンポジウムを契機にして、それぞれの場に持ち帰って具体的にまず検討をする。そのような入り組みを是非していただきたい。

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