歯科からみたTPP−混合診療解禁でも現状は変わらない

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さいたま市 金子 久章

TPP参加交渉もいよいよ大詰めである。

これまで保団連、各協会、医会や医師会、歯科医師会共にTPPへの参加に反対している。

しかし、協会単位で実施された会員のアンケートによれば、歯科会員は医科会員よりも参加賛成と答える割合が高いことが分かった。

この原因を考えると、「混合診療」にたどり着く。

現在の保険外併用療養には「評価療養」と「選定療養」があることは広く知られている。

しかし、実はそこにもうひとつ「歯科の補綴(ほてつ:歯を削った部分や欠けた部分に、被せ物や入れ歯等を入れる。)」が存在するのである。

これは「五十一年通知」と呼ばれる昭和五十一年(1976年)に厚生省(当時)保険局医療課歯科医療管理官の出した一片の通知に裏づけられた混合診療の容認である。

通知は「保険給付外の材料等による歯冠修復及び欠損補綴は保険給付外の治療となるが、この取り扱いについては、当該治療を患者が希望した場合に限り、歯冠修復にあっては歯冠形成(歯台築造を含む。)

以降、欠損補綴にあっては補綴時診断以降を保険給付外の扱いとするものである」とあり、同一歯牙の補綴のみ自費へ移行、または義歯のみ自費へ移行できるというものである。

一部の歯科医師には、この混合診療をさらに拡大して、テンポラリークラウン(仮歯)のみを自費にしたり、歯周病の治療の一部を自費にしたり、自分で行ったインプラントに保険義歯を装着したり、といった混合診療を自由に行いたいとの秘かな思いがあるようだ。

保険医療機関でありながら自費の補綴しか行わないと豪語する奇妙な歯科医師がいるのも事実だ。

しかしTPP参加によってこれらの願望が叶うかと言えば答えは否である。

なぜならば、その前に先ずは「出来高」と「包括」という診療報酬体系を議論しなければならないからである。

歯科は出来高払いしか馴染まないとする「出来高堅持」の風潮が根強い。

今現在でも「包括」という言葉そのものがアレルギーとして存在している。

これまで行われてきた歯科における経緯からすると、この処置には麻酔が含まれるとか、○○は再診料に含まれるなど、処置行為の包括のイメージが強く、他の包括の方法についてはタブー視して議論すらしてこなかった。

「混合診療解禁賛成、包括容認」や「混合診療解禁反対、出来高堅持」ならば理論的にはどちらも正論であるが、現状で歯科医師の期待するものは「混合診療解禁賛成、出来高堅持」という矛盾したものになってしまう。

医科と歯科のレセプトを比べると歯科のレセプトは非常に複雑で極めて細分化されている。

恐らく世界で一番複雑であろう。

その現在の診療報酬体系で混合診療は補綴にしか有効ではない。

しかし、その補綴物を設計から装着、維持管理までを包括して自費で○○○円という診療を行っていることも事実である。

従って、現在でも混合診療は補綴に関しての包括として存在しているのである。

また、現行の出来高報酬を維持しつつ混合診療を解禁した場合は事実上補綴にしか自費は行えないのであるから、補綴の必要のない患者には混合診療は行えない。

歯科医師が思い描く、部分的に処置行為や材料を自費にできるようにするには、かつてイギリスに存在していた人頭払いのような包括診療を導入して患者毎に一カ月の上限を定め、その金額で出来る患者にはその範囲で診療を行い、それを超えるような場合には自費をプラスするような方式を採用する(介護保険は既にこの方式である)しかないのである。

また他の包括では急性期は出来高で慢性期の維持・管理に移行したら包括も選択できるという体系もある。

しかし、これらの議論もせずに、2002年に折角出来た歯周疾患継続総合診療料という慢性期の包括システムを反対して、歯科医師自らが廃止に追い込んでしまったにも関わらず混合診療賛成とは理解に苦しむ。

つまり、TPPに参加しても歯科医師が思い描くような混合診療は出来ないのである。

埼玉県保険医協会 

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