復興へ課題露呈−医療態勢綱渡り、浪江区域再編から半年

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東京電力福島第一原発事故に伴う浪江町の避難区域が再編されて1日で半年を迎える。町役場本庁舎に設置された応急仮設診療所は全国からの医師の応援で運営しているが、町自前の医師が確保できず今後の態勢維持が課題に挙がる。

町内で事業を再開させた事業者は取引先が離れてしまうなど苦しい経営を強いられている。除染をめぐっては町内1カ所で仮置き場が決まったものの、住民からの同意取得に時間がかかり、作業は始まっていないのが現状だ。 

日替わり

「全国の医師の力を借りて運営している。医師確保は最重要、かつ喫緊の課題だ」。今年5月、町役場本庁舎に開所した応急仮設診療所の運営について、町職員の1人は厳しい表情で語った。 

県によると、旧警戒区域内で唯一の医療施設。

開設する週5日のうち2日は医師が不在で、看護師が対応している。残る3日を全国から応援で駆け付けている医師が担当しており、ほぼ「日替わり」状態が続く。

診療所を訪れる患者は1日当たり1人から2人程度だが、今後除染作業や、道路、上下水道などの復旧工事が本格化すれば、作業員らの町内立ち入りが増えるとみられる。 

町出身で今春から看護師として町職員に採用された志賀隼さん(25)は週1回診療所に通勤している。「看護師だけでは程度の重い症状やけがに対応できない」と感じている。

全国の医師の応援がいつまで続くかは不透明だ。

隣接する相馬地方や、いわき市でもこれまで以上に医師不足が叫ばれ、被災地同士が医師を探し続けている。

町の担当者は「町独自の医師の確保を目指しているが、簡単には進まない」と明かす。 

命取り

今年7月に町内北幾世橋で事業を再開させた日化ボード社長の朝田英信さん(64)は、生産している建築資材「木毛セメント板」をチェックしながら言葉に力を込めた。「取引先をもっと増やしていかなければならない」 

朝田さんは取引先との関係を維持するため、原発事故から約2カ月後の平成23年5月に町外で事業を始めた。生産設備がなく、別の業者から製品を購入し取引先に販売した。コストがかかり割高になった。多くの取引先が離れた。 

朝田さんは現在、営業担当者を東北地方や関東地方などに派遣し、取引先の獲得に全力を挙げている。

売り上げは原発事故前の4割程度。採算を取るまでには至っていない。

朝田さんは「行政の対応が遅れれば遅れるほど、取引先が離れるなど影響は大きくなる。

民間企業にとって遅れは命取り」と復興のスピードアップを訴える。 

虫食い

住民帰還に不可欠な除染作業。「点でなく、面にして進めなければならない」。浪江町ふるさと再生課の担当者は力を込めた。 

国の直轄除染で出た廃棄物を一時保管する仮置き場の設置場所が今夏、同町で初めて酒田地区で決まった。国と町は早急に同地区内の地権者から同意を得て除染に入る考えだ。 

しかし、地区内の地権者は約300人いる。国と町は可能な限り現場で家屋の除染方法などを説明しようと全国に避難している地権者に連絡を取っているが、説明の日時を調整する作業に予想以上の時間がかかっている。同意に至らない場合、地域で「虫食い」のような点の除染となる可能性も否定できない。 

町は1日に除染を担当するふるさと再生課を二本松市から町役場本庁舎に移し、除染を加速させる方針。ただ、町職員の1人は「町内全域で除染が終わるのはいつになるのか」とため息をついた。 

背景 

浪江町は今年4月1日、帰還困難(年間積算線量50ミリシーベルト超)、居住制限(同20ミリシーベルト超50ミリシーベルト以下)、避難指示解除準備(同20ミリシーベルト以下)の3区域に再編された。全人口約1万9800人のうち、避難指示解除準備区域の人口は約8000人、居住制限区域の人口は約8400人で、全人口の8割を占める両区域で日中の出入りが自由となった。立ち入りが制限される帰還困難区域の人口は約3400人。

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