市販品のマウスガードで顎関節症になる

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健康スポーツ歯科全国指導者講習会(下−1)

  

 シンポジウム

東京歯科大学・石上恵一教授

スポーツ歯科の入口として、マウスガードがメインとして出てくる。

学生を指導していてみても、スポーツ歯学イコールマウスガードと学生もみているところが多い。

授業のなかでは運動機能の話をするが、先生方もスポーツ歯科ではマウスガードをイメージすると思う。

しかし、マウスガードはあくまで入口だ。

健康スポーツ歯科の入口が、顎顔面口腔の外傷の予防のマウスガードと考えていただきたい。

骨密度の問題、血液の問題、口腔の管理、口腔機能に関係する全身の色々な機能、内科的な機能も将来は必ず結びつく。

我々、日本スポーツ歯科医学会では、それに関する研究が色々と出てくると思う。

それらがまとまったときに、歯科臨床家は健康スポーツ歯科医としての役割が確立されていくと思う。

 例えば、高齢者の方が来られたら、口腔内の咬合力、全体状況を把握しながら、その人がもっている骨密度の問題、血液から出てくる情報なども把握しながら指導にあたっていける、新しい歯科の分野である。

我々、大学関係者もそれを目指して研究を重ね、学会等からどんどん情報を発信していく考えである。

そこで、健康スポーツ歯科には、マウスガードよりさらに奥があることを頭の隅に置いてお帰りいただきたい。

今日は時間的な関係もあるので、スポーツ歯科の入口のマウスガードをメインにシンポジウムを企画した。

マウスガードの有効性については、すでに情報としてお持ちかもしれないが、一つの講習会の形としてお聞き願いたい。

近年、マウスガードがオリンピック選手はじめ、トップアスリートの間で使用し、競技する場面が見られる。

これは外傷予防だけではなく、アスリート自身がマウスガード装着による噛みしめが、咬合、顎位の安定につながり、スポーツパフォーマンスの向上に何らかの影響を感じているものと考えられる。

アスリートのなかには、スポーツパフォーマンスの向上に期待してマウスガードを装着している。

では、マウスガードは外傷の予防で本当に効果があるものなのか。

まず、前から来た外力、前歯部についても効果をみてみた。

これは歯牙に鉄球を当てて試してみた。

最初の実験の先端部分では一部が飛んでいく。

真中部分に当てると歯冠が割れる。

根端、歯頸部辺りに当てると歯根もろとも破壊が起こる。

それに対して、マウスガードを被せた状態でみてみた。

この動画のように、鉄球を当てても頑張れるわけである。

このような実験を通じて、マウスガードの効果は明らに分かった。

次に頭蓋全体にパンチや外傷を受けたときは、頭蓋全体はどうか、衝撃の映像を見たが、マウスガードを介在させた場合と、マウスガードを介在させていない場合を見てみた。

歯槽部、下顎部にマウスガードの装着は効果があることが分かる。

頭頂部への衝撃にも効果があり、頭蓋全体に効果があることが明らかである。

マウスガードを装着した方が、応力分布は小さい。

マウスガードは市販品から色々な物が出ている。

アメリカでは、2000個ほどの市販品マウスガードがある。

最近、問題となっているのは、インターネットでマウスガードのキッドが送られてきて、自分で指示どおり形をとって素人の人が作っている。

ただ形をとって口に入れるだけで、まったく咬合の調整はされていない。

当然、色々な問題を起こすがこれが放置されて、実際、市販品のマウスガードが市場に出回っていることが、非常に大きな問題であると思う。

この写真のマウスガードは、高校生のボクシングのものであり、お湯で軟化させるタイプのものなので、口を開けると落ちてしまう。

このために試合では、ずうっとを食いしばっていなければならない。

しかも色々問題を起こす。

これは女子ラクロスであるが、マウスガードは完全義務化されているので、マウスガードを装着しないと試合には出られない。

しかし、マウスガードそのものをチェツクしているのではなく、口の中に入れているか入れていないか、ただそれだけのチェツクだ。

選手たちは市販品の一番安いものを買ってきて、お湯で軟化させて口の中に入れている。

当然、厚みがないし、咬合調整をしていないので、口を開けるとパカッと落ちてしまう。

素人には元々正しい咬み合せなど難しいが、自分たちでマウスガードを作っている。

この写真はラクロスで、オープンバイトであったために市販品のマウスガードの装着が原因で顎関節症となった。

この女子高校生がもっていたマウスガードは、こんなものであった(写真)。

臼歯でしか噛んでないので、当然、顎関節症となったことはご理解いただけたと思う。

30名の選手に協力していただいて、マウスガードを現場でチェツクした。

自覚していたのは3名、27名が「私はなんともない」と言っていた。

我々が審査したら20名が顎関節に問題をもっていた。

このようなことが、実際にある。

いかに多くの女子高校生たちが、不適切なマウスガード使いって問題を起こしていることが考えられる。

最近では、女性も多くのコンタクトスポーツに参加しており、矯正歯科装置を入れている人もいる。

矯正をしていて、ちゃんとしたマウスガードを提供することができる。

そこで、積極的に外傷予防としてのマウスガードを提供していかなければならない。

正しいマウスガードが提供されることにより、顎顔面口腔の外傷予防(軟組織裂傷、歯牙破折、歯牙脱落、下顎骨折)や脳震盪の予防もできる。

また、スポーツの基本姿勢は直立姿勢の維持であり、顎位の安定で平衡感覚・バランスがより維持されるので、選手にとって重要な意味をもつ。

したがって、アンバランスな咬合によって下顎頭の機能的異常を起こすような場合、その影響はスポーツ時のバランス感覚にまで影響するようになる。

装置を使って顎位を安定させると、よりバランス感覚がよくなる。

平衡的バランスとともに動的バランスもよくなるので、スポーツパフォーマンスを向上させる可能性が考えられる。

実験でも装置を入れて、意図的に顎位をずらすと平衡的バランスは悪くなった。

顎位の変異は、平衡的バランス大きな影響を及ぶすことが明らかである。

プロボクサーは外傷予防として、マウスガードを装着しているが、横浜ベイスターズの村田選手は、スポーツパフォーマンス向上のためにマウスガードを入れている。

今日、来てもらい話をしてもらう予定であったが、キャンプに入るので忙しく時間が取れない、ということで参加できなかった。

そこで、村田選手のコメントを聞いていただきたい。

ようするに、村田選手は、「いつも、正しいポジションで打つことができるので、バッティングのときには、マウスガードに期待している」と述べており、そのことが、彼のコメントでよく分かると思う。

いかに咬合、顎位の安定がアスリートたちにとって、大きな影響をおぼしてかとうことがお分かりになったかと思う。

顎位がずれていることは、そのアスリートにとってマイナス面の影響をおよぼす。

マウスガード一つをとっても、顎位がずれていたり、咬合調整ができていなかったら、選手のパフォーマンスにマイナスを与えてしまう可能性がある、ということを今日はぜひ記憶してお帰りいただいて、地域の先生方に声を大にして伝えていただきたい。

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