医師養成増は医療崩壊を救うか

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今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会(第5回) 議事録から引用

1.日時

平成23年5月13日(金曜日)午後2時から午後4時30分まで

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.議題

ヒアリング自由討議その他4.出席者

委員

安西 祐一郎、今井 浩三、片峰 茂、木場 弘子、栗原 敏、黒岩 義之、桑江  千鶴子、坂本 すが、竹中 登一、中川 俊男、中村 孝志、西村 周三、山本 修三(敬称略)文部科学省

鈴木文部科学副大臣、磯田高等教育局長、新木医学教育課長、植木視学官、玉上大学病院支援室長、小野医学教育課長補佐オブザーバー

(厚生労働省医政局)村田医事課長

 

【小川彰氏】  今日は、「医師養成増は医療崩壊を救うか」ということでお話をさせていただきます。

 本日のお話の内容につきましては、論点整理で6点に絞らせていただきました。

 第一点は「医師養成増減の現状」です。

昭和40年頃、これは新設医科大学ができる前でございますが、定員は3500でございました。その後、医科大学の新設によりまして、最大で8280名となり、その後、医師養成に関して削減をするという閣議決定が行われましたけれども、閣議決定によっても、最終的には8%の削減しか達成できなかったという過去の実例がございます。

したがって、定員の削減というのは極めて難しいのだということを言いたいわけでございます。

 定員7625名から国が大変英断をいたしまして、医師養成増に舵を切ったわけでございます。

平成20年から7793名、8486名、8846名、そして、今年は8923名と、この4年の間に1298名の定員増が行われました。1大学の平均が、平成19年当時95名でございましたので、14大学を新設したのと1298名の増は同義でございます。

したがいまして、この4年間に全国で80大学ある医学部でございますが、それに平均で言えば14大学を新設したというのと同じ効果をもたらしたわけであります。

 第二点目は、「医師増による病院医療崩壊」の危惧です。これは厚生労働省の3師調査でございますが、総医師数は28万名、病院の従事者12万名、それから医育機関の従事者4万6000名、そして診療所、これは開業医でございますが、9万7000名、そして、その他行政職など1万4000名に分かれております。

 そして、医学部の定員を増やし、かつ、教育レベルを維持するのであれば教員を増員しなければなりません。教員を増員するのであれば、病院従事者を充てる以外にないというのが実情でございます。

 さて、現在の医育機関の教員は4万6000名、そして現在、6学年分の全国の医学部在学生が約4万5000名でございますので、医学生1名に1名の臨床教員を必要とするというのがお分かりいただけるかと思います。

 現在、1学年1298名が増えておりますので、これが6学年まで到達すれば7788名増えることになります。

教育レベルを維持するのであれば、現状もいずれ8000名近い教員増が必要となるということがお分かりいただけるかと思います。

 さて、それでは教員候補者というのは、あまりに若い方ではだめですし、高齢者ではだめですし、そうしますと教員候補者というのは三、四十代の病院勤務医でございますから、この30代、40代の病院勤務者が12万7000名の中にどのぐらいいらっしゃるかといいますと、7万1000名でございます。

先ほど申し上げましたように、今現在の必要教員は数だけでも8000名に達するわけであります。

医学教育を維持するために三、四十代の病院勤務医7万名の病院勤務医から8000名の教員を充当すると、11%の病院勤務医を減らして教員に充当する必要があることになります。

 地方で、地域中核病院の、そして働き手である三、四十代の病院勤務医の1割強を大学に移すということになりますと、1割強がいなくなるわけでありますから、大変なことになります。その中で一つ、厚生労働省の3師調査の最近のデータで恐ろしいことが明らかになりました。平成12、14年、このあたりから30代の病院勤務医が激減をしております。

これは臨床研修制度の影響でございます。

したがって、医学部の定員増は医療崩壊を食いとめるために行っているわけでありますけれども、現在、医学教育には手がかかるようになった。

したがいまして、定員は増えたということに関しましては、それに見合った教員増が必要となります。

 教員候補者は、三、四十代の病院勤務者を中心とするしかないとなりますと、この方々を病院から抜けば、地域医療の病院医療の崩壊は加速をするという逆説的効果を生み出すことになります。

 さて、次に第三の論点として上げたいのは、「国民の求める医師養成になっているのかどうか」ということでございます。1960年には、18歳人口は240万人でした。

2010年、昨年でございますが、18歳人口は120万人、220人には80万人になると予想されております。

1960年には、医学部定員は3500名でございましたので、そして2010年には、約9000名近くになったということになりますから、1960年には690人の18歳の人口に対して1名の医師養成、2010年には135人に1名、2030年には90名に1名ということになります。

 そうしますと、現在、問題となっておりますのは、大学全入時代が来ている、学力低下だと。ゆとり教育世代の入学でスタディースキルが未成熟、精神的・社会的に未熟な学生が増えているという中で、18歳人口が激減している中、医学部入学定員だけ増やせば、どんどん広き門になるわけでありますから、そうしますと有能の医師養成ということからいたしますと、国民の求める医師養成になるかということになります。

 さて、第四点目として「世界一の医師数の到来」についてお話しします。

医師数はどのように増えてきたのでしょうか。これは2007年のOECD30カ国の医師数でございますが、国が目標としているのはOECDの平均が10万対300、1000人対3でございます。

しかしながら、日本は確かに27位でございますが、G7の平均では、10万対280名ということでございます。

日本は、27位で10万対210名でありますが、昨年末では230名を超えるまで来ております。したがって、増えてきているということだろうと思います。

 これは厚生労働省3師調査から医師数の年次推移を見たものでございますが、年に10万人当たり3.5人ずつ現在増えております。

これは昭和57年から平成20年までの厚生労働省3師調査の医師数の年次推移でございますが、これは卒業生が定員増の影響を受けていない段階でございます。年に10万人当たり3.5人ずつ医師数は増えているというのが現状でございます。

 そうしますと、300名という目標に達した後に医師養成をどうするかということを考えますと、現在年4000名ずつ医師は増えている。そうしますと、将来的には医師数目標が確保された後には、約4000名弱の医師養成で均衡に達するということになるわけであります。

したがって、80大学で4000名の医師養成ということになりますと、1大学50名定員の時代が近々来るのだということでございます。この中で、現在の80大学でも現在1大学120名程度の定員でございますが、それを半分以下に減らす必要が、近い将来訪れるということをご認識いただきたいと思います。

 さて、今後の医師数予測をしてみました。

現在2010年といたします。

この四角いものが2020年から、この間の増員の前の定員に戻した場合、最近の4年間の定員増をそのまま継続した場合が黒丸でございます。そうしますと、2050年には400名という世界一の医師数の国になるということになります。国が目標としているのは、10万人当たりの医師数300でございます。

平成10年の末には10万人当たり230人に達したはずであります。そして、昨年、厚生労働省が行いました必要医師数実態調査というのがございます。

そのデータには2種類の医師数養成実態調査で、今すぐ必要な医師は何名かという問いかけと、将来何名必要かということを病院長に問いかけているわけでありますが、将来何名必要かということを含めた必要医師数にいたしましても、2016年には、これに達する予定です。さらに15年後の2025年にはOECDの平均、すなわちG7の平均以上、OECDの平均までは医師数は増えるということをご認識いただきたいと思います。

 さて、医学部の教育というのは6年間でございますから、卒業生を減らすためには、その6年前に定員を減らしておかなければならないということになります。そうしますと、2020年ころには定員を削減しなければなりません。10万対300名からどんどん、いつまでたっても増えていくという時代になるわけでありますから、300を維持するのであれば、2020年ころには定員を削減して、先ほどの1大学50名程度の定員まで削減をしなければ、いつまでも増え続けるということになるわけでございます。

 さて、第五の論点として日本の現在医療レベル「日本の医療は世界一」について論じます。日本の医療を見てみたいと思います。これはWHOのデータとOECDのヘルスデータとカナダのデータを重ねたものでございますが、右上がWHOのデータでございます。世界二百何十カ国のデータがずっと並んでございます。

ここに日本があるわけですが、健康レベルは1位、そして総合目標達成度は1位、これは米国が24位で、こちらの総合目標達成度は、米国は15位でございます。

 左下はOECDのヘルスデータ2007からとってきたものでございますが、左側が脳梗塞入院30日以内の院内致命率とありますが、OECDの平均が10%に対して、日本は3.3%と、世界一の質の医療提供をしている。結腸直腸がんも世界一でございます。

 右下にございますのが、Conference Board of Canadaのデータです。実は、これはアメリカに対してカナダがどれだけ優れているかということを主張したくてカナダがつくったデータでございます。平均寿命、死亡率、がん、それから循環系疾患、呼吸器系疾患の障害、そして乳幼児死亡率など、11の基準で医療を総合評価したものでございますが、これは、そういう意味では、世界のデータを横に並べたデータとしては一番最近のもので、2009年に発表されました。

 この中でお分かりいただけますように、日本の総合評価は1位でございますし、カナダが10位、そして米国が16位と最下位でございます。この米国に対してカナダがこれだけいいのだということを主張したいためにカナダがつくったデータでございますが、これが日本の医療が世界一であるということを証明することにもなっているわけでございます。

 そういう意味で、先ほど矢野先生がお話しになりましたように、医師養成も医療制度の変更も緩やかに進めていただかないと大変なことになります。現在、医師数が足りないとは言ってはいるものの、世界一の医療レベルと評価されている日本の医学医療を誤った方向に導くことだけはやめていただきたいということでございます。

 さて、最後第六の論点でございますが、「適正医師数の仕組みの欠如」ということでございます。大学設置基準は、認可ルールが外形基準であります。基準に合った申請は、拒否できない状況になっております。それと、もう一つ大変重要なものは、医療人のような高度専門職の養成に対して適正な養成数への変更が不可能な仕組みになっていることが問題なのです。

 したがって、結論の一つは喫緊の社会的問題は有能な医師養成である。しかし、数合わせではないということ、それには相当の教員が必要であるということ、有能な病院勤務医を充てるしかないということ、これを進めれば、医師養成増はかえって医療崩壊を増悪させる可能性があるということ。

 長期的に見ますと、早急に世界最多の医師数にまで到達し、圧倒的医師過剰の状態に到達する、それから、定員の削減は極めて難しい、設置基準上、定員削減のルールがない、適正な養成数への変更ができないというルールの中でやっていることだということをご理解いただきたいと思います。

 したがいまして、先ほど矢野先生もお話になりましたけれども、ただ単に定員増だけの問題、そして医師を増やせばいいかという問題ではない。

要するに、地域間偏在を、先ほど議論になりましたけれども、これをどうやって是正をするのか、診療科間偏在をどうやって是正をするのかということこそ、議論をする時期に来ております。

最後の結論は定員増や新設に関することを議論する時期は終わり速やかに「地域偏在」「診療科間偏在」をどのように是正するのかの仕組みこそ議論すべきと感じております。

 そういう意味で、医師養成増につきましても、地域医療に、あるいは病院医療に影響を及ぼすことのない、あるいは世界一の日本の医療レベルに影響を及ぼすことのない緩やかな激減緩和の養成を行っていただきたいということを切にお願いしたいと思います。

 ただいまお話しをさせていただいたことに関しましては、『新医療』の「私の提言」というのと、「必要医師数実態調査で明らかになった今後の医師養成の在り方」という論文の中に書いてございますので、ご参照いただければ幸いでございます。

 以上でございます。ありがとうございました。

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