読売新聞 2013年10月24日
医学部の新設が議論されています。
医学部新設には、医療界の中にも賛否両論があります。
医師は足りているのか、将来の見通しはどうかなど、考え方に違いがあるためです。
医学部の定員をめぐっては、実はこれまでも「迷走」してきた歴史があります。
1970年、当時約4300人だった医学部の入学定員を、6000人にまで増やす計画が立てられました。
「1県1医大」構想が掲げられ、すべての県に医学部ができた81年には入学定員は8360人に達しました。10年間でほぼ倍増したわけです。
ところが増員計画を達成するやいなや、今度は逆に、「このままでは医師が増えすぎる」との声が上がり始めました。
新設医大の卒業生が医師として巣立ちはじめた86年、国は「1995年をめどに10%削減する」方針を示しました。
この結果、93年には入学定員は7725人にまで削減されたのです。
2004年、新人医師に2年間の研修を義務づける臨床研修制度が始まると、新たな入局が2年間なくなることを懸念した医療現場から、「医師不足」が叫ばれるようになりました。
国は2006年にまとめた医師の需給計画でもなお「将来は医師過剰になる」としていましたが、08年から一転、増員に踏み切ります。
地域医療に従事する医師を補うための「地域枠」を設けるなどして入学定員を増やした結果、13年度の定員はついに9000人を超えました。
この6年間で1400人増加しており、1校の入学定員が約100人とすると14校分が増えている計算になります。
医療の需要がどれぐらいあるとみるかは、裏返せば、どこまでを「医療」でカバーするのか、介護や自立支援の役割をどう位置づけるのか、などの考え方によります。医学部新設が必要かどうかという議論には、この視点が欠かせないのではないでしょうか。
(田村良彦)
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