医学部新設で医師不足加速、壊滅的な状況に

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中川・日医副会長、新設推進派の理由の変化も指摘

m3.com 2013年10月3日

 

日本医師会副会長の中川俊男氏は10月3日、同会主催の記者懇話会で、「国家戦略特区」などで提案されている医学部新設に対し、改めて反対することを表明した。(橋本佳子:m3.com編集長)  

中川氏は、「国家戦略特区の内容は、刺激的なものが多く、危機感を持っている」と挨拶。「医学部新設に対しては、日医は一貫して反対してきた」と説明、「喫緊の課題は、医師の偏在解消であり、東日本大震災の被災地をはじめ、東北地方の医師確保は急務。医師養成には、長期間かかるにもかかわらず、医学部新設への要望が先行し、緊急的に対応すべき医師確保、医師偏在解消対策が進まないことは遺憾」と語気を強めた。

「文部科学省と厚生労働省も、医学部新設に関しては、我々と同じスタンス。文科省と厚労省は共同して昨年、(「地域の医師確保対策2012」で)医師不足に対しては、医学部新設ではなく、定員増で対応するとしていた。その時に決着をみたはずだが、最近また議論が蒸し返されてきた」。こう語る中川氏は、医学部新設を求める立場の理由が、「医師不足の解消」が次第に薄れ、「国際的に通用する医師の養成」「国際医療拠点を作る、医療自体を輸出する」などの観点に変わってきたとし、「最終的にはこの問題はもっと上のレベルが決めること」と述べ、政治決着に向けた攻防が展開されていることを示唆した。

日医が医学部新設に反対する理由は、従来からの主張の通り。特に強調したのは、医学部教員を確保するために、地域の医療現場からの医師の引き揚げが生じる点。「医師不足が加速し、壊滅的な状況になる」(中川氏)。宮城県の復興特区でも医学部新設を求める声があるが、2013年2月には、東北医師会連合会や宮城県医師会が、同じく2月には被災地3大学が新設への反対声明を出したほか(『医学部新設は被災地の地域医療崩壊もたらす」』を参照)、直近では9月26日に千葉県医師会、9月28日には関東甲信越医師会連合会がそれぞれ医学部新設に対する反対決議をし、9月30日には全国医学部長病院長会議が反対声明を公表している(『「国家戦略特区」の医学部新設反対、80大学総意』を参照)。

「国家戦略特区」は、2013年6月14日に閣議決定された「日本再興戦略」で創設が打ち出された。「国・自治体・民間の各主体が、三者一体となって取り組む案件であって、世界からの投資をひきつける程度にインパクトのあるものに限って対象とする」とされている。第1次募集提案は今年8月から9月にかけて実施され、成田市・国際医療福祉大学と、静岡県から医学部新設要望が上がっている.(『「医師淘汰で過剰回避」論に不快感、日医』を参照)。この10月にプロジェクト候補を絞り込みの後、第一弾として数カ所が指定される見通し。

「混合診療」から「選定療養の拡大」に変化

「国家戦略特区」の第1次募集提案に対し、「これらの提案の多くは、医療の営利産業化につながるもの。今の非営利の公的医療保険制度を維持することが必要」と中川氏。

医学部新設以外の医療関連の第1次募集提案を見ると、日本における外国人医師の診療解禁を挙げたものが多い。中川氏は、「クロスライセンスによって、外国人医師を受け入れた場合、医療の教育水準の違いから、日本の医療水準が低下する危険がある。日本の医療は、高い医療水準が確保されている日本の医師免許の下で提供させるべきである」と指摘。

保険外併用療養の拡大の提案も目立つ。「混合診療の全面解禁という言葉はさすがに言われなくなったが、どうも腑に落ちない。『混合診療が認められず、抗癌剤が使えずに困っている』などの意見も聞くが、今、どんな品目が使えなくて困っているのかを聞いても、具体的な薬が出てこない。さらなる保険外併用療養の拡大とは、いったい何を言っているのか」(中川氏)。

保険外併用療養には、将来の保険収載を想定した「評価療養」と、想定していない、差額ベッド代などの「選定療養」がある。「遠隔医療のICTのコストは選定療養でみてはどうか」という提案があるため、中川氏は、「保険外併用療養の拡大と言っているのは、評価療養ではなく、選定療養の拡大ではないか。選定療養の形で先進医療が組み込まれると、将来の保険収載の可能性はほとんど失われる」との懸念を呈した。「一定の有効性と安全性が確認されたものが、早い段階で評価療養に取り入れられていると思っている。評価療養はすばらしい仕組みなので、これを守っていきたい」(中川氏)。

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