ツヤのない歯に存在する「沈着汚れ」を解明

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 花王株式会社(社長・尾崎元規)ヒューマンヘルスケア研究センターと解析科学研究所は、清浄で健康な口内環境に整えることを目的としたオーラルヘルスケア研究、歯の美しさをサポートするオーラルビューティケア研究と口腔組織の微細構造解析研究に取り組んでいます。

このたび、歯の美しさに関わる"歯のツヤ"に着目し、ツヤを低下させる原因の解明と、歯のツヤを引きだすための研究を行ないました。

 ツヤのない歯を解析した結果、歯の表面には沈着汚れ(*1)による凸凹が存在することがわかりました。沈着汚れの断面を、走査透過型電子顕微鏡(*2)で観察したところ、無機物と有機物が混在した複雑な構造であることを発見しました(資料1)。 また、無機物は低結晶性のヒドロキシアパタイトと非晶質のリン酸カルシウムであり、有機物には唾液由来と考えられるタンパク質が含まれていました。

これは、唾液分泌量の減少による口内環境の悪化などで、リン酸やカルシウムやタンパク質が歯表面に付着し、沈着汚れの形成に影響していることを示唆しています。 さらに、その沈着汚れを除去しやすくする成分について探索しました。

その結果、フィチン酸化合物とピロリン酸化合物を含むハミガキを使用することで、効率的に沈着汚れを除去し、歯のツヤを引きだすことができるとわかりました。

 本研究の一部を、第61回顕微鏡学会(2011年5月16〜18日、福岡)および第53回歯科基礎医学会(2011年9月30日〜10月2日、岐阜)で発表いたしました。 また、本成果はオーラルケア商品の開発に応用しています。

*1 沈着汚れ 歯の表面に形成したブラッシングだけでは落ちにくい汚れ

*2 走査透過型電子顕微鏡 電子線を走査させながら、試料を透過した電子線を検出して画像化する装置

<研究背景> 従来、歯の美しさに関する研究として、歯を白くすることについては、着色物の除去や歯の構造という切り口から検討されてきました。一方、ツヤについては、これまで詳細な研究があまり行なわれていません。

 また、歯やハミガキに関する最近の調査(93名 2011年 花王調べ)でも、87%の方が自分の歯の美しさに満足していないことが分かりました。

満足していない理由として、歯の着色やツヤがないことをあげており、歯のツヤへの関心も高いことがわかりました。

<研究結果> 本研究では、ツヤのある歯、ツヤのない歯を用いて、それらの表面の形態観察や構造の解析を行ない、ツヤを低下させている原因を解析しました。

また、ツヤを引きだす技術についても検討を行ないました。

歯のツヤが低下する原因を解明(資料2) ヒトの歯を走査型電子顕微鏡(*3)、原子間力顕微鏡(*4)により観察したところ、ツヤのある歯の表面は平滑だったのに対し、ツヤのない歯は、数10nm〜数μmの凸凹が存在していました。

つまり、歯の表面に存在する凸凹が、光を乱反射し、歯のツヤを低下させる原因と考えられました。

*3 走査型電子顕微鏡電子線を走査させながら試料の表面近傍から放出された電子を検出して画像化する装置

*4 原子間力顕微鏡試料と探針の原子の間にはたらく力を検出して画像化し、試料の表面形状を観察できる装置

歯のツヤを低下させる凸凹は、沈着汚れであることを発見(資料3) ツヤのない歯の凸凹部分の断面部の薄片サンプルを集束イオンビーム装置(*5)により作製し、走査透過型電子顕微鏡(*2)で観察しました。 その結果、歯の表面に、無機物と有機物が混在した複雑な構造をしている沈着汚れが付着していることがわかりました。

つまり、ツヤのない歯に存在した凸凹は、この沈着汚れが付着したことによって生じていました。

また、沈着汚れの中の無機物は、走査透過型電子顕微鏡、さらに高分解能透過型電子顕微鏡観察(*6)による結晶構造解析により、エナメル質よりも結晶性が低いヒドロキシアパタイトと、非晶質のリン酸カルシウムであることがわかりました。

有機物は、全反射赤外分光法(*7)でアミドの吸収が確認されたことから、タンパク質を含むと考えられました。 さらに、沈着汚れを電気泳動させてタンパク質の分離を行ない、唾液に含まれるタンパク質と比較したところ、沈着汚れの中には、唾液成分に含まれるタンパク質と同じ成分が存在することがわかりました。

*5 集束イオンビーム装置 集束した細いイオンビームを利用して、試料の加工や観察を行う装置

*6 透過型電子顕微鏡 電子線を試料に照射し、透過した電子を画像化する装置。試料中の原子の並び方を観察でき、結晶性など構造の解析に適している

*7 全反射赤外分光法 赤外線を試料と装置の間で全反射させた時に得られるスペクトルより、分子の化学構造を調べる手法

沈着汚れを落としやすくする成分の探索(資料4) ツヤのない歯に形成された沈着汚れは、ブラッシングだけでは除去しにくいため、本研究で得られた沈着汚れの解析結果をもとに、除去しやすくする成分について探索しました。 その結果、無機物と有機物から構成される沈着汚れの無機物部分にフィチン酸化合物、有機物部分にピロリン酸化合物がそれぞれ作用することを見いだしました。

また、フィチン酸化合物とピロリン酸化合物を含むハミガキを使用することで、沈着汚れが落ちやすくなり、歯のツヤを引きだすことができるとわかりました。

※下記資料は、添付の関連資料を参照

 資料1:沈着汚れの構造 資料2:歯のツヤと表面形状観察 資料3:沈着汚れの解析 資料4:沈着汚れの除去検討● 関連リンク

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● 関連資料

資料1

資料2

資料3

資料4

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