スウェーデンのeHealth 戦略

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新時代の医療制度を展望する

電子情報通信学会・研究専門委員会合同の研究会「新時代の医療制度展望」が12月21日、東京大学駒場の生産技術研究所内のセミナー室で開かれた。モバイル技術を中心に展開されるユビキタスサービス(その時々の状況や個人の要求にあわせて、グローバルに様々なサービスを安心して手元で利用できる、そんなユビキタスサービスが実現している)が普及する中、医療への要求や仕組みが大きく変わろうとしている。この分野で先行する欧米の事情を踏まえ、 テーマ「スウェーデンのeHealth 戦略」の講演が行われた。講師は社団法人スウェーデン社会研究所の須永昌博所長。以下が講演要旨。

 講演「スウェーデンのeHealth 戦略」スウェーデン社会研究所の須永昌博所長

  

 私は40年間、スウェーデン社会にコミットしてきた。現在は、コンサルタントとしてスウェーデン社会の情報提供、スウェーデン大使館を借りて毎月、講演会を開いている。戦略の前には、その社会の仕組、環境の問題、女性問題、ジェンダー(生物学的性の概念を含み、また文化的な差異)、少子化の問題、福祉の問題などをテーマに話をしてきた。仕組が分かると、その国がどのようなシステムをとって、戦略も立て、その技術開発をプロモートし、それを行政にどのように履行させているかが、割合分かりやすいと思う。今日のテーマは、eHealth であるが、その背後にあるスウェーデンは、何故、このようeHealth 戦略を立ててきたか? それをどのように履行させているか? を伝えたい。スウェーデンは、医療、福祉の専門家が比較的多く訪れる国であるが、一般の方には他の欧州諸国と比べると縁がないかもしれない。12月31日(2009年)まで、EU27か国の議長国となっている。議長国は半年に1回変わるが、その間大きな発言力を持っている。スウェーデンに40年間コミットしてきたが、「すごい国」であるというのが実感である。例えば、国際競争力6位、日本17位。女性国会議員の数は3位、半分は女性議員、日本は133位。IT競争力1位、統計によっては2位の場合もあるが、上位にいることがスウェーデンの誇りだ。日本はまだ後進国と言わざるをえない。世界をリードするPKO活動にもスウェーデンはとても力を入れている。日本の自衛隊は毎年、PKO活動で17人ほどがスウェーデンで訓練を受けている。自衛隊は20年近くスウェーデンに行っているが、このことが日本では、ほとんど知られていない。潜在競争力はスウェーデン6位、日本12位。2007年、1年間のイラク難民の受け入れ、1万8000人。日本は長い年月でも、イラク難民の受け入れ40数人。これは何を意味するのか?これは国のプライドであり、政策であり、国際活動であり、国はどのようにあるべきかを示唆していると思う。eHealth 戦略にも関連する問題である。 以上のことを統合して、みなさんいは理解していただきたいと思う。 マッチ、ベアリング、ファスナー、石油ストーブ、電話機、テトラパック、シートベルト、冷蔵庫、コンピュータのマウス、心臓のペースメーカーなどの発明国である。これらはスウェーデンの特徴であるが、一人の人が考えだして、周りの人が資金を出して製品化し、世界的な企業にしてきた。eHealthを支えているのもほとんどが、ベンチャービジネスだ。また、人口は900万人で国内の市場規模は小さいので、自ずと外国へ出て行かなければならない。国際を市場としなければならない、という宿命がある。人権意識、社会の平等があり、外交予算の93%はODAである。日本は外交予算のODAは60%であるが、スウェーデンは貧困国を救うため無償供与での活動をしている。eHealthの核となっているのが、人権意識である。日本はなかなか法律をつくらない国だ。スウェーデンはじめ北欧諸国は、何かをする時は必ず真っ先に法律をつくる。人間は生まれた時は、身障者である、と考えている。育つにつれて健常者になっていく。たまたまあなたは、今は健常である。身障者は日常動作が、自分ではできない。赤ん坊、病人、老人、妊産婦、酒に酔った人などだ。スウェーデンに行って、「あなたは、スウェーデン語が話せますか?」と聞かれる。「話せません」と答えると、「まともな、日常生活ができないので、あなたを身障者扱いにします」と言われる。そこで一生懸命、スウェーデン語を教えようとする。それが便宜であり、基本的なスウェーデンの考え方だ。人間が動くことが、我々が生存していること自体環境破壊行為だとする。では、環境破壊行為をどこでストップさせ、持続可能な環境とするかを基本に法律をつくった。私は分かりやすい、もっともな考え方だと思っている。その考えをコンセプトにして、法体系ができている。当たりまえのことが、当たりまえである。例えば有権者が、投票して代表を選ぶ。スウェーデンは、投票率が90%である。日本は、投票率が30%、よくて50%〜60%。平均すると、30%〜40%だ。スウェーデンは90%の人が、地方議員、国会議員を選んでいる。つまり、議員には『90%の国民にサポートされている』という意識とプライドがある。我々はともすると、知事を30%の投票率で選んでいる。そのような知事は、県民の代表だという顔をするな、と私は言いたい。せめて議員は60%で選ばれなければ、有権者の代表を言えない。日本人は、投票率に関心をもたない。投票率こそ、民主社会の原点だ。その意味で、スウェーデンは民主社会だと思う。女性議員が半分なので、法律には女性の意見が必ず反映される。480日、子どもを育てるための休暇が、スウェーデンでは与えられている。政治家は、法律をつくる人とされている。その法律で行政が動いている。また、国会議員が上で、地方議員が下ではなく、横並びの関係であり、調整役。日本に例えれば、スウェーデンの医療関係は県レベルで扱う。介護関係、高齢者問題は市町村レベルで扱う。国はタッチしない。選挙権は18歳からで、外国の人でも3年間スウェーデンに滞在すると、選挙権もあるし、議員に立候補もできる。比例代表制であり、政権政党が地方の首長を送り込む。また、労働組合の組織率は80%である。日本は労働組合が機能していないに等しい状態であるので、派遣労働の切り捨て問題も起きている。スウェーデンの社会保健省は、戦略、政策を決めている。実際に行うのは、地方レベルである。何のための行政かが明確である。社会保健省のスタッフは80名余である。日本のように何千人いるわけではない。その下には3つの出先機関しかない。社会保健庁は、政策を具体化して実施する機関である。また、医療責任委員会があり、国民の意見を聞く機能をもっている。患者からの苦情処理も行う。医療技術評価委員会は、新しい医療技術ができた時に、実際にそれが効果があるのか、副作用はないのか、などを検証している。ほかに薬品庁があり、薬の許認可を行っている。薬剤給付委員会が薬価を決めている。それにともなう補助金の配布もしている。医療は県レベル、介護は市町村レベルと色分けされている。患者は病院に直接行けない。1000軒くらいのクリニックへ行き、医療の相談をする。専門的な治療は必要と診断されたら、約70軒の病院へ行く。大学附属病院は8軒である。研究、教育機関であり、難病などを扱っている。eHealth 戦略であるが、これはシナリオではなく、eHealth法律である。2006年からスタートしたが、国を挙げて立法化した。その核は以下だ。

1)ICT(情報通信技術)である。これを全面活用する。それを整理し医療の行政をコンバインする。ICTのフル活用。2)情報管理。どのような構造で、どのようなシステムにするのか。どのようなベースにするのか。3)それを活用する技術をどうするかを、法律で裏付ける。4)患者の医療情報をどのように統合するのか。5)医薬品処方情報の管理。6)医療情報の公開とそのチェック機能。行政側に立つのか、行政サービスの受けて側に立つのか。

本人が情報にアクセスできることと、その情報が悪用されないか。ICT(情報通信技術)には、患者側が参画できることだ。ICTは、知らない間に、使われない。クリニックの初期診療は100%の患者情報がリストアップされた。病院病院は80%で、そろそろ100%に近づいている。個人のデータであるので、あくまで個人の人権がある。当然、第三者には知られたくない情報も入ってくる。本人が嫌がらない、本人が迷惑でない形にするために法律をつく。中央で戦略を練って、具体化して実行するのが地方のレベルである。eHealthの目的、目標に必要な分析を行う。医療用語の統一もしている。こっちの医師はこう言い、別の医師はこう言う。こちらの文献ではこうではなく、全部を統一する。eHealthはEU27か国でもあるので、2011年までにすべてスウェーデンに翻訳する。医療情報と税務署の個人データの統合。スウェーデンは子どもが生まれると税務署に届ける。国民は全員出生届出で、税務番号を持つ。患者の処方薬情報、どの医師がどのような処方をしているのか、をデータベース化している。情報の安全、不正アクセスの防止策、悪用の防止策。情報の標準化。全国データ通信(SUNET)で、医療会議を行うなど、コミュニケーションが通信でできる。インフラがなければeHealthできないので、ICT戦略・法律の両輪が機能している。SUNETは、全国患者情報(分散した)の統合、患者情報の追跡も行っている。治療の結果、どうなのか、薬を飲んだ結果はどうなのか。患者は生きているのかどうか。自分の情報がどのように使われているのか。誰が自分の情報にアクセスしているのか。インターネットを使って、必要な情報を患者は得ることができる。これは日本にもあるが、使いがってがいいかどうかである。あるいは、信用できるか情報であるかどうかどうかである。(以下省略)

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