「摂食・嚥下までわかる歯科医師であらねばならぬ」

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プロメテウス解剖学アトラス 口腔・頭頸部

 坂井 建雄,天野 修 監訳

《評 者》熊木 克治(新潟大名誉教授・肉眼解剖学/日歯大新潟客員教授/新潟リハ大教授)

歯学に,STに,外科に,そして一般に火のごとく世に広がる

 世の中にいわゆる"解剖学書"があふれるように出版されている。

『プロメテウス解剖学アトラス 口腔・頭頸部』が出版され,じかに拝見,拝読の機会があった。日歯大で解剖学実習に参加し,新潟リハ大(PT,ST)で解剖学の講義を受け持っている立場と経験から,人体解剖学を学ぶに当たっての困難や問題点,教えるに当たっての重要性を考えながら,このプロメテウスを読み返してみた。

まだまだ新しいことを学ばせてもらい,考えさせられる点もたくさんあり新鮮な印象だった。

 

 歯学部の学生たちは解剖学実習に臨み,登場する多くの学名(ノミナ)になじみが薄く,大きな壁にぶつかる。実物と教科書の間を行ったり来たりして,それらを使いこなせるように努力すると,このプロメテウスはいつの間にか筋肉や関節,さらには脈管系までも上手にくっつけてその機能まで知りたいという気にさせてしまうところが驚きである。

特に,神経系については,知覚と運動の伝導経路を示し,中枢と末梢の知識を一体化して構築できるように工夫されている点がユニークといえる。

 

 解剖の勉強には広い机が必要であると冗談半分に言うが,骨・筋,脈管・神経,内臓などの多くの成書を全部広げて,見比べながら,局所解剖学的な知識を組み立てていくのが常套手段である。このプロメテウスは1冊で,そのすべてをこなしている点が特筆に値する。

 

 昨今,歯学部では「歯だけ診ている歯科医師はダメ」「摂食・嚥下までわかる歯科医師であらねばならぬ」と強調されている。

年を取るにつれて,おしゃべりに夢中になっていると,危うくむせ返ったりする。献体の会・新潟白菊会の"集い"で,前新潟大歯学部生理学教授の山田好秋先生の「長生きの秘訣−楽しく食べること」というお話で,食べ物の摂食・嚥下の流れを,〈咀嚼期,咽頭期,食道期〉などリハビリの学校で行うように難しく講義しないで,平易に説明してもらった。

こんな折の参考書として,専門家にも,学生にも,また一般の人々にも,使い方はそれぞれ違っても,このプロメテウスが大いに役立つと思う。

 

 最近は外科学系の各分野で,手術手技の修練のための解剖の必要性について議論されている。コメディカルの分野での解剖学実習の必要性と合わせて重要な問題である。

しかしいずれの場合も,安易に解剖してみるというだけの考えでは不十分なので,常に科学的に観察,考察する解剖学が必要である。そのときにもこの『プロメテウス解剖学アトラス 口腔・頭頸部』は先の3巻の姉妹編ともども,大事なよりどころ,指針として役立つと確信する。

 

 安永3年(1774年),杉田玄白らによって,『ターヘル・アナトミア』の翻訳『解体新書』の出版という偉業が達成された。これを機に西洋医学が世に広がった。このプロメテウス解剖学アトラスも同様に,大きく世に貢献できるに違いないと確信している。日本人の手による解剖学教科書の誕生を後世に期待しつつ。

 

A4変型・頁384 定価14,700円(税5%込)医学書院

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