高齢者ハイリスク患者の在宅診療時の注意点

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1.はじめに 高齢者の訪問歯科治療の場合、一般の健常者に比べ治療時のリスクが高いと考えられる。寝たきり者の大多数はいくつかの重篤な疾患を重複して抱え、身体の機能障害が多く、明らかな基礎疾患が認められなくても、各臓器の生理機能の低下が見られ、治療姿勢や歯科治療の制限が生じる。

2.安全な治療のために 治療前に現在の疾患の進行程度、合併症の有無、服用薬剤の種類、バイタルサインの把握を行う。

これらのことから事前に想定される歯科治療前後の全身状態の評価を、担当医療者自身が問題を抽出し、考察を行うことが安全な治療のための全身管理の基本となる。 しかし、患者本人からは全てを聞くことはできないため、主治医、保健婦、歯科衛生士、介護支援専門員、直接の介護者等との密接な協力や連携が患者の詳細な情報を得るために不可欠です。

3.どのような点に注意し、治療を行うべきか①主治医からの情報提供 患者の主治医に対して、歯科治療を行うことによる患者に与える侵襲度をなるべく具体的な情報として提示し(例えばば抜歯の難易度や本数など、浸潤麻酔剤のエピネフリン添加の有無及び使用量など)、主治医から正確な情報提供を歯科医側に行えるようにする。②患者の全身状態の把握 全身疾患を有している患者に対して歯科治療を行う上で、事前に既往歴、寝たきりになった直接の原因、現在の状態、内服薬の名称・種類・効能・副作用などについて、詳細に問診を行うことが重要である。 また、バイタルサインは、臨床的には呼吸、脈拍、体温、血圧の各項目を患者の生きている証として、手で感じ目で見ることができ、いついかなる時でもバイタルサインをとることが望ましい。③患者の口腔内の把握 口腔内診査の段階で歯科治療を行う上での問題を整理し、これからの治療計画を準備する。

義歯の新製・修理などの非観血的処置だけか、もしくは観血的処置が存在し、全身疾患との関係から問題が起きないかを注意する必要がある。④感染対策 糖尿病や体腔内にカテーテル、ドレーン等の異物を留置している患者の場合には、できるだけ患者ごとにディスポーザブルの器材を用いることにより、感染の防止に対応する。⑤診療姿勢 誤嚥、医療事故を防止するために、治療時の患者の姿勢に絶えず注意を払う。⑥モニタリング 全身疾患を持つ患者に対して観血的処置を行う場合は、モニタリングを常時行うことにより、バイタルサインの確認を行う。

用いる器材として血圧計、パルスオキシメーター(経皮的酸素飽和度計)、聴診器などが必要となる。⑦緊急事態 担当主治医、2次・3次医療機関等との連絡を絶えず密にとり、治療を行う。

4.患者と医療者側が抱える様々な問題①脳梗塞発症後:脳梗塞は失語症の頻度も高い。言語中枢は左大脳半球に存在し、右型麻痺に比較的多くの失語症が見られる。②左半身麻痺:脳血管障害が発生した反対側の上下肢の片麻痺が生じることが多い。歯科治療は発病後6ヶ月以降に行うことが望ましい。③高齢者の肺炎では咳や痰などの典型的な症状が出難く、元気がない、せん妄、起立歩行困難、失禁などの非定型的な症状が特徴。④痴呆:向精神薬などが処方されていれば、副作用(ふらつき、過度の鎮静、嚥下障害等)、介護の負担となる問題行動(暴力、興奮、徘徊等)が出ていないかをよく問診する。⑤高血圧症:他臓器に器質的な合併症がないか、必ず問診する。血圧は日内変動があり朝は夕方より低くなり、臥位は座位よりも低くなる傾向がある。⑥誤嚥性肺炎:食物や唾液が誤って気管に入る誤嚥によって生じる肺炎。誤嚥量、誤嚥物の内容、口腔内細菌の繁殖、全身抵抗力の欠如が関係する。⑦痴呆:脳血管性痴呆、アルツハイマー型痴呆とによって占められており、症状として記憶障害、見当識障害、失語などが見られる。⑧部分介助:摂食、嚥下機能が十分に機能しない場合は、嚥下動作、捕食行動、水分摂取行動、自食行動の介助が必要である。⑨食事の様子、介助の有無、時間等を問診する。また患者本人の介護状況を把握しておく。⑩体温:高齢者の体温は成人より低い傾向にあり、脳出血など体温調節中枢に異常が生じると、体温が環境温度に左右され易くなる。⑪呼吸:成人の安静時の呼吸数は14〜18回/分であり、発熱、肺炎初期には頻回になる。⑫SpO2:SpO2が90%以下では低酸素状態、80%以下ではチアノーゼが出てくる。⑬血圧:局所麻酔薬はエピネフリンが添加されていないものを使用し、血圧が180mmHg以上の場合や脈拍数が100回以上なら治療を中止する。⑭脈拍:高齢者の脈拍数は50〜80回/分を正常値として、これより多い場合を頻脈、少ない場合を徐脈と言う。⑮舌苔:舌苔は最も観察し易い場所にあり、全身の健康状態を推測できる。⑯服用薬剤 ペルジピンン:高血圧症を合併している場合に処方し、降圧作用のある塩酸ニカルジピン(脳循環代謝改善薬)である。 バファリン:抗血小板薬(アスピリン、パナルジン、)、抗凝固薬(ワーファリン)の服用時は出血に注意する。⑰どのような問題点(原因、誘因等)が考えられ、診断していったのかを記載する。⑱義歯の清掃指導 清掃不良の義歯は、義歯性口内炎の原因、口臭の発生、誤嚥性肺炎の起炎菌の細菌繁殖の温床となる。義歯の新製:エーカース鉤等の鉤尖の位置、方向を変えて、口唇の損傷を防ぐ着脱用に床の外側に突起をつけたり、クラスプを太くして、取り外し易いように設計する。 義歯の清掃指導:クラスプ、レスト等の維持装置、人工歯の歯頚部、裂溝部分は食べかすがつきやすい。 残存歯の清掃指導:歯のブラッシングとともに舌清掃は口腔内清掃、口臭予防、味覚の保持・回復、歯周病予防に有効である。⑲訪問診療時に患者の体調等について本人、直接の介護者等から問診を行う。特に食欲の状態、元気があるか無いかはよく観察することが必要。⑳高血圧症、狭心症の治療薬として用いられるカルシウム拮抗薬のニフェジピン(アダラート等)は歯肉肥大を起こす副作用がある。

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