高齢者のための新たな医療制度等について

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平成22年7月23日

第8回高齢者医療制度改革会議資料

高齢者のための新たな医療制度等について(中間とりまとめ)

<案>

Ⅰ 現行制度の問題点

○ 現行の高齢者医療制度は、75歳以上の方は、独立した都道府県単位の後期高齢者医療制度に加入し、その医療給付費を高齢者の保険料(約1割)、現役世代からの支援金(約4割)、公費(約5割)により支える仕組みとなっている。また、65歳から74歳までの方については、これらの方の偏在に伴い保険者間で医療費の負担に不均衡が生じないよう、これを保険者間で財政調整する仕組みとなっている。

○ 現行の後期高齢者医療制度は、かつての老人保健制度が抱えていた問題点を改善し、高齢者の医療費に関する負担の明確化が図られたことや、都道府県単位の運営とすることにより財政運営の安定化と保険料負担の公平化が図られたことは、一定の利点があったと評価できる。

○ 一方、後期高齢者医療制度の最大の問題点は、家族関係や医療保険の連続性等を考慮することなく、75歳に到達した途端に、これまでの制度から区分された独立型の制度に加入させることにあり、これが多くの国民から差別的な制度と受け止められた。また、高齢者の方々の心情に全く配慮することなく、「後期高齢者」という名称が用いられた。さらに、高齢者の医療費の増加に比例して高齢者の保険料が増加するため、将来に不安を抱かせるものともなっている。運営主体についても、市町村が共同で設立した広域連合としたことに対して、様々な問題点が指摘されている。

○ また、国民皆保険の最後の砦である国保は、市町村が運営主体であるため、小規模な市町村の国保は、保険財政が不安定になりやすく、運営の広域化を図ることが長年の課題となっている。

 

Ⅱ 新たな制度の基本骨格

1.制度の基本的枠組み

○ 現在、地域保険としては、広域連合を保険者とする「後期高齢者医療」と、市町村を保険者とする「国保」が並立しているが、後期高齢者医療制度を廃止し、地域保険は国保に一本化する。

○ 加入する制度を年齢で区分することなく、何歳になっても、サラリーマンである高齢者の方や被扶養者は被用者保険に、これら以外の地域で生活している方は国保に、それぞれ現役世代と同じ制度に加入するものとする。

○ 高齢者も現役世代と同じ制度に加入することにより、年齢によって保険証が変わるようなことはなくなり、保険料・高額療養費等の面でもメリットが生じることとなる。

○ 具体的には、

① 現在はすべての高齢者に保険料の納付義務が課せられているが、市町村国保では世帯主が納付義務を負うこととなるため、世帯主以外の高齢者の方は保険料の納付義務がなくなる

② 現行の独立した制度では、保険料の軽減判定が国保の加入者とは別に行われ、保険料負担が増加した方は、世帯全体で軽減判定が行われることにより、負担の増加が解消される

③ 高額療養費の自己負担限度額の適用は制度ごとに行われているため、同一世帯内の高齢者と現役世代が同じ制度に加入することにより自己負担が軽減される

等のメリットが生じる。

○ また、働いている高齢者の方は、若いサラリーマンと同様に、被用者保険に加入することにより、傷病手当金等を受けることができるようになるとともに、保険料については事業主と原則折半で負担することとなり、被扶養者の保険料負担はなくなるといったメリットが生じる。

 

○ 新制度への移行に際して、後期高齢者医療制度から市町村国保に移行する方は特段の手続は不要であるが、被用者保険に移行する方は一定の手続が必要になることから、混乱を招かないようにするための丁寧な周知等の対応が必要である。

○ なお、国保組合については、被用者保険と同様、高齢者であっても加入要件を満たす組合員及び組合員の世帯に属する方は当該組合に加入するものとする。また、特定健保(厚生労働大臣の認可を受けて、一定の要件を満たす退職者及びその被扶養者に対する保険給付、保険料の徴収等を行う健保組合をいう。)については、加入する高齢者の保険給付に係る費用負担を含め、そのあり方を引き続き検討する。

2.国保の運営のあり方

(1)財政運営単位

○ 現在、75歳以上の方々が加入している後期高齢者医療制度は、都道府県単位による財政運営が行われている。

○ 新たな仕組みの下では、多くの高齢者が国保に加入することとなるが、単純に市町村国保に戻ることとなれば、多くの高齢者の保険料が増加し、保険料格差も復活する(国保から後期高齢者医療制度への移行により、約7割の世帯で保険料は減?し、格差は5倍から2倍に縮小したが、この逆のことが起きる)。また、市町村国保の財政基盤を考えれば、再び市町村国保が高齢者医療の財政運営を担うことは不適当である。

○ したがって、市町村国保の中の、?なくとも75歳以上の高齢者医療については、都道府県単位の財政運営とすることが不可欠となる。

○ この場合の都道府県単位の財政運営とする高齢者医療の対象年齢は、75歳以上とする場合と、退職年齢・年金受給開始年齢・一般的な高齢者の概念等を考慮して65歳以上とする場合が考えられるが、個々の高齢者の保険料に与える影響や個々の保険者に与える財政影響を含め、引き続き検討する。

 

○ なお、見直し後における市町村国保の加入者は、65歳未満2500万人、65歳以上75歳未満1100万人、75歳以上1200万人であり、高齢者医療の対象年齢を65歳以上とすれば加入者のほぼ半分、75歳以上とすれば加入者の約4分の1が都道府県単位による財政運営の対象となる。いずれにせよ、65歳又は75歳という年齢区分は、国保の財政運営の安定化を図り、高齢者の負担の増加等を生じさせないようにするための財政運営上の区分にとどまるものである。

○ また、市町村国保の財政基盤を考えると、高齢者のみならず全年齢を対象に、国保の広域化を図ることが不可欠であり、今回の法改正で導入した都道府県が策定する「広域化等支援方針」に基づき、保険料算定方式の統一や保険財政共同安定化事業の拡大など、都道府県単位の財政運営に向けた環境整備を進めた上で、全年齢を対象に都道府県単位化を図る。

○ その移行手順については、平成25年度以降のある時期までと期限を定めて全国一律に都道府県単位化すべきという意見と、合意された都道府県から順次、都道府県単位化すべきという意見があり、引き続き検討する。

(2)運営の仕組み

○ 市町村国保を都道府県単位の財政運営とする場合においても、すべての事務が「都道府県単位の運営主体」で行われるものではない。被保険者の利便性や保険者機能の発揮といった視点から、窓口サービスや保険料の徴収、健康づくりなどの保健事業は、市町村が行うことが必要である。

○ また、現行の後期高齢者医療制度の利点の一つとして、保険料の算定方式が統一され、都道府県単位で保険料負担の公平が図られた点がある一方で、問題点の一つとして、市町村が徴収できた額を広域連合に納めるだけの仕組みとなっている点がある。

○ このため、収納率の向上が大きな課題となっている市町村国保の現役世代も含めた広域化の実現も視野に入れ、都道府県単位の保険料という考え方は維持しつつ、保険料の収納対策に市町村が積極的に取り組むことを促す仕組みに改めることが必要である。

 

○ 具体的には次のような仕組みとすることが適当である。

・ 「都道府県単位の運営主体」は、高齢者の給付に要する費用から、均等割と所得割の2方式で標準保険料率を算出し、それを基に、市町村ごとに「都道府県単位の運営主体」に納付すべき額を算定する。

・ これを受け、市町村は、当該市町村の収納状況等を勘案し、当該市町村における高齢者の保険料率を定める。

・ 市町村は、現役世代の被保険者の保険料率を従来どおりの方法で定める。

・ 市町村は、高齢者の保険料と同一世帯の他の現役世代の被保険者の保険料を合算し、世帯主に賦課し、世帯主から徴収する。

○ このような仕組みとすることにより、市町村は収納率を高めるほど当該市町村の被保険者の保険料を安く設定することができ、一般会計からの多額の繰入れを行っている市町村における保険料の急激な増加を回避することもできる。

○ 以上を踏まえ、市町村国保については、新たな制度においては、まずは、①「都道府県単位の運営主体」は、都道府県単位の標準保険料率の算出・会計の処理等の事務を行い、②市町村は、保険料の賦課・徴収、資格管理、保健事業等の事務を行うといった形で、分担と責任を明確にしつつ、国保を地域の総合力により共同運営する仕組みとすることが考えられるが、全年齢を対象とした都道府県単位化の実現までの段階を考慮しつつ、より具体的な設計について引き続き検討する。

(3)運営主体

○ 現行の後期高齢者医療広域連合については、①都道府県や市町村と比べ、住民から十分に認知されていない、②広域連合長は住民から直接選ばれていないので、責任が明確でない、③市町村に対する調整機能が十分に働いていない、④市町村からの派遣職員を中心に運営しており、組織としてのノウハウの承継が困難である、といった問題点が指摘されている。

 

○ このような中、「都道府県単位の運営主体」を具体的にどこにすべきかについては、都道府県が担うべきとする意見が多数であったが、慎重な意見もあり、今回の中間とりまとめにより明らかになる新制度の全体像を踏まえ、また、将来的な財政試算等を明らかにしつつ、引き続き検討する。

(4)財政リスクの軽減

○ 保険料の収納不足や給付の増加といった財政リスクを軽減するため、公費と保険料を財源とする財政安定化基金を設置し、安定的な運営を図ることができる仕組みとする。

3.費用負担

(1)支え合いの仕組みの必要性

○ 新たな仕組みの下では、高齢者も、国保や被用者保険にそれぞれ加入することとなるが、65歳以上の方については、一人当たり医療費が高く、国保・被用者保険の制度間で加入者数に大きな偏在が生じることから、引き続き、高齢者の医療費を国民全体で公平に分担する仕組みを設けることが不可欠である。

○ 高齢者が偏在して加入することに対する保険者間の調整の仕組みとしては、

① 現行の後期高齢者医療制度のように、高齢者の保険料と公費を高齢者の医療給付費に充て、これら以外の分を各保険者が現役世代の加入者数等に応じて支援する方法

② 老人保健制度や現行の前期高齢者に係る財政調整のように、充当される公費以外の分を各保険者がその加入者数等に応じて費用負担を行う方法(高齢者の保険料は、加入する各保険者にそれぞれ納められる)

③ 両者を組み合わせる方法

があるが、どのような仕組みが適切か、財政試算を明らかにしつつ、引き続き検討する。

○ また、新たな制度への移行に伴い、高齢者の保険料負担・患者負担や、市町村国保・協会けんぽ・健保組合・共済組合等の各保険者の負担が大幅に増加することのないようにする。

 

(2)公費

○ 現行の高齢者医療制度は、75歳以上の方の医療給付費に約5割の公費(平成22年度予算ベース;5.5兆円)を投入するとともに、市町村国保・協会けんぽ等が負担する後期高齢者支援金及び前期高齢者納付金等に一定割合の公費(同;2.0兆円)を投入している。

○ 公費については、高齢者や現役世代の保険料負担の増加を抑制するために、効果的な投入を図りつつ、充実させていくことが必要であり、今後の高齢化の進行等に応じた公費の投入のあり方について引き続き検討する。

(3)高齢者の保険料

○ 国保に加入する75歳以上の方の保険料水準については、現行の後期高齢者医療制度より増加することのないよう、引き続き、医療給付費の1割相当を保険料で賄うこととする。

○ また、都道府県単位の財政運営とする対象年齢を65歳以上とした場合、65歳から74歳までの方にも75歳以上の方と同じ保険料率の水準を適用すべきか、現行の保険料水準を維持すべきか、引き続き検討する。

○ 前者の場合には、65歳から74歳までの方の保険料は、総額としては減?するが、個々の保険料は変化することから、あらかじめ、高齢者の保険料の変化に関する調査を行うことが必要となる。また、急激な負担増が生じないよう、緩和措置を講じることが必要となる。

○ さらに、現行制度では、現役世代の人口の減?による現役世代の保険料の増加分を高齢者と現役世代で折半し、高齢者の保険料の負担割合(後期高齢者負担率)を段階的に引き上げる仕組みになっているが、高齢者と現役世代の保険料規模は大きく異なるため、基本的に高齢者の保険料の伸びが現役世代の保険料の伸びを上回る構造となっている。このため、高齢者人口の増加と現役世代人口の減?に伴う現役世代の保険料の増加分を、高齢者と現役世代とで適切に分担する仕組みを設ける。

 

○ これにより、高齢者と現役世代の1人当たり医療費の伸びが同じであれば、高齢者と現役世代の保険料の伸びはほぼ均衡することとなるが、1人当たり医療費の伸びに差があった場合に、高齢者の保険料の伸びが現役世代の保険料の伸びよりも大きく乖離することとならないよう、財政安定化基金を活用して高齢者の保険料の伸びを抑制できる仕組みを設けることとし、その具体的なあり方については引き続き検討する。

○ 高齢者の保険料については、同一世帯の他の現役世代の保険料と合算し、世帯主が納付する。

○ これにより、世帯主以外の高齢者は保険料の納付義務が無くなり、こうした高齢者においては年金からの天引きは必要ないものとなるが、高齢者世帯の世帯主で希望される方は、引き続き、年金からの天引きも実施できるようにする。

○ 保険料の上限については、現在、後期高齢者医療制度は50万円(個人単位)、国保63万円(世帯単位)となっているが、国保の世帯単位の上限に一本化した上で、被用者保険の上限額(93万円;協会けんぽの本人負担分)も勘案しつつ、段階的に引き上げる。

○ 現在、75歳以上の方に適用されている低所得者の保険料軽減の特例措置(均等割の9割・8.5割軽減、所得割の5割軽減)については、後期高齢者医療制度施行時の追加的な措置として導入されたものであることや、介護保険との整合性を踏まえつつ、新たな制度の下で合理的な仕組みに改めることとし、その具体的なあり方については引き続き検討する。

○ 一方、被用者保険に加入する高齢者の保険料は、各被用者保険者の算定方法・徴収方法を適用する。

(4)現役世代の保険料による支援

○ 高齢者の医療給付費については、公費と高齢者の保険料に加え、国民全体で支えるという社会連帯の考え方に基づき、国保・被用者保険の現役世代の保険料で支えることが必要である。

 

○ その際、国保と被用者保険者間は加入者数による按分となるが、被用者保険者間では、財政力の弱い保険者の負担が過重なものとならないよう、負担能力に応じた支え合いにすべきであり、その具体的な按分方法については、引き続き検討する。

(5)高齢者の患者負担

○ 高齢者の医療費の増加に伴い、公費、高齢者の保険料、現役世代の保険料はいずれも増加せざるを得ないが、高齢者の患者負担については、負担能力に応じた適切な負担にとどめることを基本とする。

○ 特に、70歳から74歳までの方の患者負担については、現在、2割負担と法定されている中で、予算措置により1割負担に凍結しているが、個々の患者の負担の増加と各保険者の負担の増加の両面に配慮しつつ、そのあり方について引き続き検討する。

○ 高額療養費については、所得再分配機能を強化する観点から、所得の高い方の限度額は引き上げ、所得の低い方の限度額は引き下げる方向で見直すべきであり、現役世代を含む高額療養費全体の見直しの中で引き続き検討する。

4.医療サービス

○ 今般の診療報酬改定によって、平成22年度より、75歳という年齢に着目した診療報酬体系は廃止された。

○ 今後の高齢者に対する医療サービス等の具体的なあり方については、平成24年度の診療報酬・介護報酬の同時改定に向けて、別途の場において議論が進められるが、以下の基本的な視点に立って取り組むことが必要である。

・ それぞれの地域において、入院に頼りすぎることなく、リハビリも含めた必要な医療・介護が切れ目なく受けられる体制を構築する。

・ かかりつけ医等の普及を図ることや、必要な医療費は拡充しつつ効率化できる部分は効率化すること等を通じて、真に高齢者の立場に立った医療提供体制を構築する。

・ 様々な高齢者のニーズに応じた多様なケアの提供体制の充実や医

 

療・福祉の人材育成をはじめとする長期的・総合的な構想を策定し、モニタリングを行いながら実行する。

5.保健事業等

○ 75歳以上の方の健康診査の実施について、現行制度前は市町村に実施義務が課せられていたが、広域連合の努力義務となった中で受診率が低下した。

○ 新たな仕組みの下では、75歳以上の方も、国保や被用者保険にそれぞれ加入することとなり、健康診査等についても、国保・被用者保険の下で各保険者の義務として行うこととする。

○ 特定健診・特定保健指導については、生活習慣病を予防し、高齢期等の医療費の効率化できる部分を効率化する取組であり、保険者機能の強化の点からも、引き続き、取組を進めていくが、今後の具体的なあり方については、高齢者への対応を含め、別途、技術的な検討を進めることが必要である。

○ 一方、現在、特定健診・特定保健指導の達成状況による後期高齢者支援金の加算・減算の仕組みが設けられているが、新たな制度の下でも、特定健診等をより円滑に推進するための方策を講じる。

○ また、国保における都道府県単位の財政運営の導入に際し、都道府県の健康増進計画・医療計画・介護保険事業支援計画などとも整合性の取れた、都道府県単位での健康増進や医療費の効率化に向けた取組を一層推進するための体制や具体的仕組みについて検討を進める。

○ 併せて、後発医薬品の使用促進、レセプト点検、医療費通知、重複・頻回受診者への訪問指導、適正受診の普及・啓発など、各保険者における医療費効率化の取組の更なる充実を図る。

 

Ⅲ 今後の検討等の進め方

○ 上記のうち、引き続き検討することとした事項については、更に議論を深め、年末までに結論を得る。

○ 今後、医療費等の将来推計などを行いつつ、地方自治体、保険者等の関係者や高齢者を始め広く国民の御意見を聞きながら、細部を含めた検討を更に進め、年末までに、新たな制度の具体的な内容をとりまとめる。

○ 本改革会議のとりまとめを踏まえ、平成25年4月を目途に新たな制度が施行される予定であるが、後期高齢者医療制度導入時の反省に立ち、現時点から、地方自治体等の意見を十分に聞きながら、着実にシステム改修や広報等の諸準備を進めることが必要である。

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