虫歯菌の増殖抑制やアンチエイジングに効く

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ブドウのまわりの白い粉をつくる遺伝子を発見

歯周病予防やアンチエイジングに効くオレアノール酸を酵母で合成することに成功

 大阪大学大学院工学研究科の村中俊哉教授(公立大学法人横浜市立大学客員教授および独立行政法人理化学研究所客員主管研究員兼任)、關 光(せき ひかる)准教授(公立大学法人横浜市立大学共同研究員および独立行政法人理化学研究所客員研究員兼任)は、公立大学法人横浜市立大学(本多常高 理事長)、独立行政法人理化学研究所(野依良治 理事長)、国立大学法人東京工業大学(伊賀健一 学長)、キリンホールディングス株式会社フロンティア技術研究所(水谷悟 所長)、サントリービジネスエキスパート株式会社植物科学研究所(田中良和 所長)、国立大学法人神戸大学(福田秀樹 学長)と共同で、ブドウ果実の表面につく白い粉「ブルーム」の主要成分で、虫歯菌の増殖抑制、アンチエイジングなどの生理活性を持つ機能性成分として近年注目されている「オレアノール酸(注1)」生合成の鍵となる酵素遺伝子を明らかにし、本遺伝子を導入した組換え酵母でオレアノール酸を合成することに成功しました。

今後、化粧料・機能性食品素材や医薬品等の原材料として期待されている本物質を植物材料からの抽出に頼らず組換え酵母を用いて工業生産できる期待が高まります。

<研究の概要>

 ブルームと呼ばれるブドウ果実表面に見られる白い粉(図1)はしばしば農薬やカビと勘違いされることがあります。ところが、ブルームはブドウ自身が作り出す物質で、病原菌に感染するのを予防し、同時に鮮度を保つ働きがあるワックス成分です。

ブルームの主成分は、オレアノール酸というトリテルペン(注2)の一種で、ブドウだけでなく、オリーブ、シソなど多くの植物に含まれています。オレアノール酸は、虫歯菌の増殖抑制、アンチエイジングなど多様な生理活性を持つことが報告されています。

 炭素数30を基本骨格とするトリテルペンは、β−アミリン、α−アミリン、ルペオールなどの環状化合物から、酸化反応、糖転移反応などによりさまざまな種類の化学物質となります。オレアノール酸は、β−アミリンから酸化反応によって生合成されると推定されていましたが、この酸化反応に関わる酵素遺伝子はこれまで単離されていませんでした。

研究グループは、β−アミリンを合成する酵素(β−アミリン合成酵素)遺伝子と同じような遺伝子発現パターンを示す酸化酵素(シトクロムP450 モノオキシゲナーゼ)遺伝子を絞り込むことによって、ブドウおよびマメ科植物のタルウマゴヤシから、オレアノール酸生合成に関わる酵素(CYP716A サブファミリー)遺伝子を単離しました。続いて、β−アミリン合成酵素遺伝子と、今回単離したCYP716A サブファミリー遺伝子を酵母に導入することで、酵母でオレアノール酸を合成することに成功しました。

 さらに、CYP716A サブファミリーはβ−アミリン以外にも、α−アミリンならびにルペオールを基質とすることにより、オレアノール酸と併せ「三大機能性トリテルペン」と呼ばれる、ウルソール酸、ベツリン酸の生合成にも関わることがわかりました。

 今回単離した遺伝子群を利用することによって、近い将来、低コストで有用トリテルペンの大量生産が可能になると考えています。

 本研究成果の一部は、文部科学省科学研究費補助金「生合成マシナリー、生物活性物質構造多様性創出システムの解明と制御(平成22年度〜)」、(財)加藤記念バイオサイエンス研究振興財団研究助成(平成22年度〜)、戦略的国際科学技術協力推進事業「日本−南アフリカ研究交流 平成21〜23年度」により行われました。

成果は、日本植物生理学会が発行する国際学術誌「Plant and Cell Physiology」誌12月号の表紙を飾るとともに、近日掲載されます。

<研究の背景>

 ブルームと呼ばれているブドウのまわりの白い粉は、よく農薬やカビと勘違いされます(図1)。ところが、ブルームはブドウ自身が作り出す物質で、ブドウの病気を予防し、鮮度を保つ働きがあります。

ブルームの主成分は、オレアノール酸というトリテルペンの一つです。トリテルペン(注3)には、多様な生理活性物質が含まれ、新しい医薬品の重要な化学構造プールになっています。

特に、28位にカルボキシ基を有する五環性トリテルペン(注2)化合物の代表で、植物における「三大機能性トリテルペン」とも呼ばれるオレアノール酸、ウルソール酸、ベツリン酸は、抗ガン作用、抗炎症作用、抗酸化作用、抗高脂血症効果などの生理活性を有し、特許文献としては、これらの関連化合物としてエイジング対応用の皮膚外用剤、ヒアルロニダーゼ阻害剤、メタボリックシンドロームを予防および改善する作用を持つ組成物、抗掻痒剤等が報告されています。

 このように「三大機能性トリテルペン」の重要性が脚光を浴びる一方、このような化合物は、植物でしか生産されず、天然物(植物の根や果皮)から抽出して利用されています。

また、β−アミリン等からの有機合成による変換も極めて困難なため、オレアノール酸などの28位にカルボキシ基を有する五環性トリテルペン化合物を効率的に合成する手法が求められていました。

<研究手法と成果>

 オレアノール酸は、多くの植物に共通に存在しているβ−アミリンが基本骨格となり、その28位の炭素に対する3段階酸化反応により生合成されると考えられます。これらの反応ステップには、酸化酵素が関与すると推定されます。酸化テルペノイドを含む多様な植物二次代謝産物の生合成においては、シトクロムP450 モノオキシゲナーゼ(注3)(以下P450と省略)と呼ばれる一群の酸化酵素が関与することが知られています。

 今回、研究チームはまず、マメ科植物タルウマゴヤシの遺伝子共発現解析(注4)ツールを用いて、オレアノール酸の基本骨格であるβ−アミリンを合成する酵素(β−アミリン合成酵素)の遺伝子と類似した発現パターンを示すP450として、CYP716A12を見出しました。続いて、CYP716A12の機能を解明するため、バキュロウイルス/昆虫細胞系(注5)を用いてタンパク質を発現させ、CYP716A12を含むミクロソーム画分(注6)を用いた試験管内での酵素反応実験を行いました。その結果、CYP716A12が、β−アミリンの28位の3段階の酸化反応を触媒し、オレアノール酸に変換する活性を持つことが判明しました(図2)。

 研究チームは次に、ミヤコグサから単離していたβ−アミリン合成酵素遺伝子を導入してβ−アミリンを生産するように改変した組換え酵母(参考文献)に、さらにCYP716A12遺伝子を導入した結果、この酵母は、オレアノール酸を生産することを見出しました。同様に、ブドウから単離したCYP716A サブファミリー遺伝子(CYP716A15とCYP716A17)を導入した酵母も、CYP716A12と同じくオレアノール酸を生産することを見出しました(図3)。

 さらに、β−アミリン合成酵素遺伝子の替わりに、α−アミリン合成酵素(aAS)遺伝子とCYP716A サブファミリー遺伝子を導入した酵母ではα−アミリンの28位カルボン酸であるウルソール酸を生産すること、また、ルペオール合成酵素(LUS)遺伝子とCYP716A サブファミリー遺伝子を導入した酵母はルペオールの28位カルボン酸であるベツリン酸を生産することを確認しました(図2)。

 これにより、オレアノール酸、ウルソール酸およびベツリン酸生合成に関わる酸化酵素を特定することに成功し、28位にカルボキシ基を有する五環性トリテルペン化合物のバイオテクノロジー生産への道筋を示しました。

<今後の期待>

 今回、植物特異的な成分であり様々な生理活性を有するオレアノール酸の生合成の鍵となる酵素遺伝子を同定し、さらに、生合成遺伝子を導入した組換え酵母でオレアノール酸、ウルソール酸、ベツリン酸を生産することに成功しました。オレアノール酸等、トリテルペンは今後、化粧料・機能性食品素材や医薬品等の原材料として期待されている物質です。しかしながら、植物体中では様々なトリテルペンが混在しており、個々の含有量が低く純粋なものとして精製するには大幅なコストをかけなければいけませんでした。そのため、今後、組換え酵母における生産性の向上を進めることにより、発酵工業的手法によるオレアノール酸等、トリテルペンの生産への応用が期待されます。

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