「法科学と歯科—最新の個別識別法について」
櫻田宏一さん(科学警察研究所)
歯科とは若干、かけ離れた科学警察研究所で仕事をしている。
科学捜査研究所の方が、みなさんには馴染みがあると思うが、これは警視庁はじめ各都道府県の警察本部に所属している。
科学警察研究所は警察庁に所属している。
品質管理、鑑定技術の導入に努めおり、大きな事件、特殊な鑑定事例、新たな研究をして鑑定技術の開発、技術指導も行っている。
<参考>(科学警察研究所は、科学捜査についての研究・実験及びこれらを応用する鑑定・検査、犯罪の防止及び少年非行防止についての研究・実験並びに交通事故の防止その他交通警察についての研究・実験を行っている。
これらの業務対象は広汎にわたるため、生物学、医学、化学、薬学、物理学、農学、工学、社会学、教育学、心理学等の専門的知識・技術を有する研究職員が、それぞれの専門に応じた部門に配置され活動している。
鑑定技術の確立、鑑定機材の開発、少年非行の解明、犯罪防止対策、交通の安全・円滑に関する研究を行っている)
法医学の犯罪捜査への応用は19世紀からだ。
犯罪に関するすべての物体が対象となる。
殺人事件を例にとると、包丁で被害者を刺せば、被疑者の洋服にも血痕が飛び散る。
写真の包丁は殺人に実際に使われたもので、これで3人の方を殺している。
長さが40センチ、刃渡り25センチくらいだ。
人を殺す時の力はすごく、出刃包丁がこのように曲がってしまう。
当然、被疑者の指紋が柄に着いている。
包丁には被害者の血液は着いている。
しかし、刃には意外と血液が着いていない。
柄の木の部分、あるいは刃が入っている金具を外すと意外と柄のもとに血液が染み込んでいる。
それが被害者の血液であることを、証明しなければならない。
血液は2万倍に希釈しても反応が出る。
買ってきた包丁ならいいが、家にあった包丁だと、魚や肉を切っている。
当然、豚の血液にも検査で反応する。
そこで、人の血だと証明しなければならない。
現在は、200万倍に反応する検査をしている。
手を洗面所で洗って流したつもりでも、意外と血液は残っているので、証拠を隠滅しようとしてもバレル。
実は、最近は犯罪も高度化してきた。
千葉の女子大生の殺人では、部屋に火を点けて死体を焼いてしまう。
また、毛髪についてであるが、毛は海苔巻きのようは構造をしている。
中にキュウリがあり、外側にご飯があり、さらに外が海苔で巻かれている。
毛髪も縦断切片は3層構造となっている。
被疑者の毛髪から、血液も分かる。
メスで切ると板わさのように剥がれるが、ここに髄があり血液型が分かる。
5ミリくらいの毛髪でも分かる。
殺人事件で死体を車で遺棄する。
車の車体やタイヤには土のほか、植物の花粉、葉も着いているので、現場のものと同一かどうかを調べる。
交通事故の轢き逃げではフロントガラス、車の塗料を調べる。
しかし、轢き逃げされて可哀想なのは、必ず被害者は司法解剖されることだ。
亡くなられた方は二重の苦しみだ。
また、ATM以外、繁華街にもビデオカメラが設置されており、犯罪が起これば一般の方にも警察から声がかかることもある時代だ。
ATMの映像では顔の角度が違うが、被疑者を連れてきて、3次元の映像を取り込み、コンピュータ上で色々角度を変えることができる。
ちょうどATMに映っている角度に合わせて、確認をする。
日本のこの技術は世界的にも進んでいる。
日本では薬の犯罪には、非常に厳しい。
いったん手を出すとなかなか抜け出せない。
薬にはほとんど暴力団が絡んでいるので、いったんはまると抜け切れない。
お金がなくなると、ご家族のところへ行く。
今後は親戚のとことへ行く。
結局、家族まで破滅をしてしまう。
一番怖いのが薬の犯罪である。
そこで、薬にだけは手を出してはいけない、というのが一般的だ。
その他、拳銃であるが、科学警察研究所に毎月、何十丁という数の鑑定の依頼がくる。
ほとんどが暴力団からみで話題性はない。
次に偽札(偽造)の鑑定であるが、毎月、何百もある。
500円玉の鑑定も1個、1個やっている。
また、声紋の鑑定であり、被疑者を同定する。
ウソ発見器もやっている。
1994年の松本サリン事件、1995年の東京地下鉄のサリン事件の作業をした。
最近は、白い粉問題となったバイオテロもある。
あらゆうものが、対象となる。
(以下、法科学における歯科の役割)
日本法歯科医学会では、行方不明者の身元確認のほか、医療政策とくに、医事法学を中心として、歯科医師法、医療過誤もんだい、歯学教育カリキュラム /国家試験に関する問題など幅広くやっている。
警察歯科活動(組織、マニュアル、制度、研修など)、歯科法医学/法歯学研究(歯科所見、血液型・DNA型など)、生命倫理、医療関連死などの医療全般の問題をやっている。
2004年スマトラ沖で大きな津波が発生したが、マグニチュード9の地震であった。
津波の高さが最大で11メートル。
こなすごい津波が来たらまず、そばにいた人は助からない。
5000人がなくなり、タイ側では300人弱が亡くなった。
この時、身元確認で活躍したのが歯科医師たちで、歯科所見が一番であった。
身元の確認で、大きなウェートを占めていたのが法歯学である。
動物の肉が腐ったのと同じで、ものすごい臭いがする現場で身元の確認をした。
1985年、日本航空123便は群馬県上野村・御巣鷹の尾根に墜落、炎上したが、
この時も歯科の多くの先生が活躍をした。
この墜落事故を契機に、法歯学をやられる先生が増えてきた。
臨床のかたわら、警察歯科医をされている先生が増えた。
大災害のときの身元確認のほか、殺人でのバラバラ死体。
歯型であるが、これは長い経験でお分かりになると思うが、何となく口蓋が深いので、日本人らしくはない。
歯列球も三角形に近い。
このケースでは外国人。
死後に撮ったパノラマX線写真。
前は警察の鑑識で、見よう見まねでやっていたので、間違うことも多かった。
素人なのでカルテが読めない。
カルテから生前を読み取る。
歯はエナメル質で人間の体の中では、一番硬い。
歯は無機質が95%、骨は無機質が50%くらいだ。
焼いても骨はなくなって、歯が残ることが多い。
硬い組織であることから、歯の中の情報は意外と守られている。
歯(歯髄)からDNAも採れる。
歯の磨耗度から年齢の推定をする。
アミノ酸から判断をする。
L体とB体があり、ほとんど人間の体はL体で出来ているが、年齢とともにB体に変わる。
L体とB体の比で年齢を推定する。
歯からDNAを用いて個人識別ができる。
日本では年間1000体の身元不明遺体が出ている。
指紋、所持品で身元は分かるが、分からない時はどうするかで、歯科的所見で何とかならないか、と依頼される。
DNAは対象者がいれば有効であるが、いない時にはどうするのか。
歯科的所見となる。
経費的にも歯科的所見の方が、経費がかからない。
(以下略)
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