読売新聞 2013年12月11日(水)
がん患者向けの雑誌に掲載された記事が、薬事法で禁じられた抗がん剤の広告にあたる可能性があるとして、厚生労働省が調査を始めた。
特定の商品をPRする内容の記事が多いことに加え、製薬会社が出版社に金銭を支払っていたことが判明したためで、厚労省は製薬業界に自主ルールの策定と再発防止を求める方針だ。
◆タイアップ
厚労省が問題視しているのは、一般書店で販売されているがん患者向け月刊誌(公称7万部)に掲載された抗がん剤の紹介記事。
その多くは、医師らが特定の商品名を挙げて有効性を説明する内容になっている。
発行元の出版社の関係者らによると、記事を掲載する際、抗がん剤を販売する製薬会社から1ページあたり47万-57万円を受け取っていた。
関係者の一人は取材に「紹介記事はタイアップ記事と呼ばれていた。部数が伸び悩み、毎号2本程度のタイアップがなければ収支が合わなかった」と明かした。出版社が記事の企画を作り、製薬会社に持ち掛けるのが基本だったという。
読売新聞が製薬会社側に取材したところ、5社が2010-11年の記事に190万-550万円以上を出版社に支払ったことを認めた。
5社の支払額は少なくとも計1300万円。
うち1社は「医療用医薬品も含む27回の記事で4000万円以上を支払った」と話し、少なくとも9件が抗がん剤に関する記事だという。
一方、出版社の取材に応じた医師や大学教授らは数万円から10万円程度の謝礼を受け取っていたが、多くが「製薬会社から資金が提供されていたとは知らなかった」と話している。
◆温度差
薬事法が抗がん剤の広告を罰則付きで禁じているのは、抗がん剤は副作用が特に強いため、患者が本来必要な薬ではなく、広告の薬を選べば、健康被害を受ける恐れが強いためだ。薬は医師の判断で投与するのが原則だが、がん治療の現場では近年、患者の意思を尊重する傾向が強まり、治療法や薬の選択を患者に委ねるケースが増えている。
厚労省は「金銭の支払いは、記事掲載に宣伝の意図があった可能性が高いことを示している」として調査を開始。
自主的に報告してきた製薬会社に詳細な調査と報告を指示し、未報告の会社や出版社からも事情を聞くことを検討している。
一方、製薬会社側の認識には温度差がある。
3社は「薬事法に抵触する可能性が高い」「広告と疑われかねない」「倫理的に問題」として、いずれも「今後はやめる」と話した。
これに対し、2社は「患者向けの啓発で、違法性はない」「広告ではなく、編集方針に賛同して制作費を負担しただけ」と主張している。
◆「罪深い」
専門家や患者らの中にはタイアップ記事に厳しい視線を注ぐ人もいる。
記事の内容について、複数のがん専門医が「医学的な事実関係に間違いはないが、一部に大げさな表現もある」と指摘。
日本医科大武蔵小杉病院の勝俣範之教授(腫瘍内科)は「医師らが薬を客観的に評価しているように見えるが、裏に金のやりとりがあるなら客観性に疑いが生じる」と話す。
患者団体「卵巣がん体験者の会スマイリー」の片木美穂代表は「患者が薬の選択を誤る引き金になりかねず、非常に罪深い。
『治った人が何人いる』などの情報に飛びついて、その治療を受けられる病院に駆け込み、亡くなった患者を知っている。
宣伝なら、読んだ人がわかるようにすべきだ」と指摘する。
一方、出版社は取材に「商品名を記載したのは患者への情報提供の一環で分かりやすさを追求したに過ぎず、違法性はない」と文書で回答。
金銭のやりとりについては回答しなかった。
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