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医歯薬出版

多種多様な研磨ペースト
 口腔のケアを行ううえで歯石除去後や,着色を除去するときに専用の研磨ぺーストを用いてPMTC を行うことが推奨されています.多くのメーカーがPMTC ペーストを開発し,美しいパンフレットも用意されていてどれを使うか迷います.研磨ペーストを親指と人差し指でこすり合わせると,ほとんど粒子を感じないものからザラザラする製品までさまざまで,今回当院のスタッフと話すなかで,PMTC ペーストの研磨粒子はどのような形をしているかを実際にみてみようということになりました.
 観察に用いた研磨ペーストは,当院で使用しているプロフィペースト PRO(クロスフィールド)のRDA40,120,170,250 とパープル(RDA197-50)の5 種.そのほかにPTC ペースト(ジーシー)のファイン(仕上げ研磨用)とレギュラー(粗研磨用)2種を加えて,7種類のペーストを観察してみました(図1)
今回の観察は最初に工夫が必要でした.ベトベトしたペーストをそのままみることはできないので,研磨粒子をペーストの中から取り出すことから始めました.研磨ペーストに水を加えて撹かく拌はん,遠心分離器で沈殿を繰り返し比重の重い粒子のみを集めました.その後アルコール脱水系列で脱水し,凍結乾燥を行いました.したがってこの稿でいう研磨粒子とは,研磨ペーストのなかで比重の重い粒子と同じ意味です.

丸い小さい粒子
 最初にプロフィペースト PRO のRDA40 からみてみます.RDA という表記ですがこれは相対的象牙質摩耗性という単位で1)研磨性を表しています.RDA40 というのは研磨性が小さい製品で,RDA250 は強く研磨できる製品ということになります.
 RDA40の粒子ですが,このペーストを指につけて触ると,かすかに指紋のところに引っかかるような感触があります.SEM では,角のない丸い粒子が多くみられ,大きな粒子でも20μm 前後で,小さな粒子では5 μm の大きさです(図2).エネルギー分散型X 線分析(EDS)で含まれる元素を分析すると,重量%でSi(ケイ素)が多く検出され,ほかの元素はほとんど検出できませんでした(図3).さらに確認するためにフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR・KBr 法)で調べてみると1,104.05 cm-1に大きなピークがみられ,成分としては珪けい藻そう土どとして矛盾はないと考えました.
 RDA120の粒子もやはり角のない粒子なので,大きさが10μm 前後の粒子が含まれていました.このサンプルでは粒子の大きさがRDA40 と比べて均一で小さいことが観察されました.RDA120 はRDA40より研磨性が大きいので,粒子の大きさがRDA40より大きいのではないかと想像していたのですが,この製造ロットに特有なのか,むしろRDA40 よりすこし小さめな均一の粒子が観察されました(図4).成分をみるとやはり珪藻土と考えられる分析結果でした.


角のある粒子
 RDA170 はRDA 40,120 とは違い,粒子に角がついていました.低倍率でみると大小さまざまな大きさの粒子がありますが,小さな粒子でも角がついていました(図5 - 左).2,000倍の倍率でみると,大きなものでは30 μm ほどの平らな面をもつ粒子が混ざっていました. このような平らな面をもつ粒子があることから,研磨中に粒子が割れた場合でもつねに角ができて,着色物を削り取るような作用があるのではないかと考えました(図5 - 右).EDS で元素分析を行うと,Si の他にAl(アルミニウム)が含まれていました(図6).この素材をFT-IR・KBr 法で調べると1,052 cm-1に幅の広いピークがみられたことによりゼオライトという物質として矛盾はないと考えました.
 RDA250 は指先につけて円を描くとザラザラした感触が伝わります.500倍の倍率でみると研磨粒子がとがっていることがわかります.2,000倍まで拡大すると粒子の特徴がわかり,大きさは25μmで粒子の角のところでそぎ落とすような作用があることが理解できます(図7).元素分析よりRDA170 と同様にゼオライトと考えました.


混在した大きさの異なる粒子
 プロフィペーストPROのパープルをみてみます.このパープルはRDA が変化することにより,1本でポリッシングまで可能ということで市販されているペーストです.この粒子は大きさがさまざまですが角がない丸い形をしています.小さな粒子は7~8μm の大きさですが,大きなものは30μm の粒子もありました(図8).プロフィペーストPROの5種類を観察した結果では,このパープルの粒子が一番大きく,この大きな粒子が研磨時に壊れることによりRDAが198-50に変化するメカニズムではないかと考えました.
 このパープルを水で溶解して回収しているときに2 色の構成物がみられました.比重により青い粒子が重く,白い粒子が上になり,きれいに2つの層に沈殿しましたが,そこから取り出すときに色の違う2 層を正確に分離するところまでは行っていません.FT-IR ・KBr 法により調べると1,103.08cm-1にピークがあり,珪藻土と考えました.


天然素材由来の粒子
 次にジーシーのPTC ペーストファインとレギュラーをみてみました.ファイン(仕上げ研磨用)は指先に着けて触ってみてもほとんど粒子を感じられないペーストです.SEM で小さな粒子が多数みられ,大きさも7~8μmで同じようなサイズでの角のない丸い粒子でした(図9).非常になめらかな感触は,この粒がそろっていることによると考えました.同じようにEDS とFT-IR・KBr 法で調べた結果素材は珪藻土と考えました.
 PTC ペーストレギュラー(粗研磨用)は今回の観察でもっとも興味深い観察ができました.この製品のロットに特有なのかもしれませんが,珪藻の構造が残っていました.他の製品でも使用されていますが,形態が残っているというのはとても興味深く,歯にやさしい天然素材が使われているのがわかりました(図10)
2つのメーカーのPMTC ペーストの粒子をみました.観察前にはRDA の違いは,粒子の大きさによるものと考えていたのですが,結果からは大きさより,材質と粒子の形態,角があるか丸いかという違いが大きいと考えられました.これらの一連の観察から,PMTC ペーストは人間の目ではわからないミクロの世界で,目的に応じて形態や大きさをそろえるなどの,さまざまな工夫がされていることがわかりました2). PMTC の際には,今回の観察結果を参考にペーストを選択していただけたら幸いです.


参考文献はこちら
※原則として著者の所属は雑誌掲載当時のものです。
<掲載号はこちら>
デンタルハイジーン 42巻1号 先生,教えてください! 私たちが悩んだ症例相談/医歯薬出版株式会社 (ishiyaku.co.jp)
https://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=094201
<関連書籍はこちら>
走査電子顕微鏡で旅する口腔のミクロな世界/医歯薬出版株式会社 (ishiyaku.co.jp)
https://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=463190