nishiyama
歯科大学歯科衛生士学科卒業後、小児患者や障害者の歯科診療体制や、歯科恐怖症患者について学ぶため歯科大学付属の専攻科へ進学し口腔保健学学士を取得。その後は小児歯科専門歯科医院にて勤務。歯科衛生士ライターは「歯科に苦手意識を持っている人が媒体を通して理解し、歯科を身近に感じることで歯医者に行ってみよう」という気持ちになることを後押ししたいという思いから学生時代に始めた。
歯科恐怖症は多くの人々にとって深刻な問題です。
歯科治療に対し恐怖心を持っている人は全世界で5〜20%(*1)と報告されており、牛山らは500万人前後(*2)の国民が歯科受診を回避していると報告しています。
恐怖心から歯科診療を避けることで、口腔内状況だけでなく、全身の健康状態までも悪化する可能性があります。
特に、嘔吐反射や精神疾患を抱える患者様にとって、歯科治療は非常にストレスを感じる経験となり得ます。
そこで、静脈内鎮静法を用いた治療が有効なアプローチとなることが多いです。
本記事では、歯科恐怖症の研究を3年間行った歯科衛生士が、静脈内鎮静法の概要と歯科恐怖症患者に対して行えるサポートについて詳しく説明します。
(*1)臨床講座・歯科恐怖症患者への対応 参考
(*2)牛山 崇 歯科治療恐怖症に関する臨床研究(1)
歯科治療に対する恐怖心や不安、緊張感を最小限に抑え、快適かつ安全に治療を行うために、薬物を使用して治療、患者様管理を行う方法を精神鎮静法といいます。全身麻酔は麻酔薬の強力な中枢神経抑制作用により、意識消失、無痛、筋弛緩、自律神経反射や呼吸・循環の抑制を引き起こしますが、精神鎮静法は意識があり、生体の防御反応や反射が維持されているため安全性が高いです。
精神鎮静法には、薬物の投与経路によって吸入鎮静法と静脈内鎮静法の2種類があります。吸入鎮静法は亜酸化窒素を吸入する方法で、静脈内鎮静法は鎮静薬を経静脈的に投与する方法です。静脈内鎮静法は目標とする鎮静レベルによって、意識下鎮静法と深鎮静法に分けられます。
*歯科診療における静脈内鎮静法ガイドライン
-改訂第 2 版(2017)-参考
歯科診療下において静脈内鎮静法を行う場合、ミダゾラムなどのベンゾジアゼピン系薬物とプロポフォールが単独または併用されることが多いです。これらの薬物は全身麻酔の導入や維持にも使われますが、投与方法と投与量を調整することで、静脈内鎮静法の目的に応じた鎮静状態を維持できます。
ベンゾジアゼピン系薬物には抗不安、鎮静、抗痙攣、中枢性筋弛緩、前向性健忘作用などがあります。ジアゼパムは半減期が長く静注時に疼痛が見られますが、ミダゾラムは作用時間が短く血管痛もなく、少量で健忘作用があるためよく使われます。
ミダゾラムは呼吸抑制を引き起こしやすく、急速投与により無呼吸になることもあるため注意が必要です。特に高齢者や慢性閉塞性肺疾患、睡眠時無呼吸症候群の患者様では呼吸状態の確認が重要です。循環系に対しては血圧低下を引き起こすことがあり、オピオイドと併用すると心機能抑制が強まることがあります。
プロポフォールは全身麻酔だけでなく静脈内鎮静法にも頻用され、中枢神経系に対して鎮静・催眠作用をもたらします。健忘効果はベンゾジアゼピン系薬物より少ないですが、ミダゾラムを併用すると強い健忘効果が期待できます。作用発現が迅速で回復も速く、多幸感や制吐作用もあります。ただし、注入時に血管痛があるのが欠点です。
プロポフォールは用量依存性の循環抑制があり、特にオピオイドを併用すると血圧低下が顕著になることがあります。また、用量依存性に強い呼吸抑制を引き起こし、一過性の無呼吸を引き起こすこともあります。
* 歯科診療における静脈内鎮静法ガイドライン
-改訂第 2 版(2017)-参考
歯科恐怖症の原因は過去の痛みを伴う歯科治療や治療中の予測不能な状況、または幼少期の恐怖体験の影響など多岐にわたります。症状としては、心拍数の増加、過呼吸、発汗、震え、嘔吐反射の強化などが挙げられます。特に精神疾患を抱える患者様にとっては、歯科治療の不安がさらに増大することがあります。
患者様の不安や恐怖心を理解し、共感することが大切です。初めに治療内容や手順をわかりやすく説明し、患者様が感じる不快感や痛みを最小限に抑えるために、適切な薬剤の使用や鎮静法を用いることも重要です。
そして治療後もフォローアップを行い、最終的な目標として、クリーニングなど心身に負担のかからない治療は、意識下で行えるようにサポートしていければ良いでしょう。
歯科大学歯科衛生士学科卒業後、小児患者や障害者の歯科診療体制や、歯科恐怖症患者について学ぶため歯科大学付属の専攻科へ進学し口腔保健学学士を取得。その後は小児歯科専門歯科医院にて勤務。歯科衛生士ライターは「歯科に苦手意識を持っている人が媒体を通して理解し、歯科を身近に感じることで歯医者に行ってみよう」という気持ちになることを後押ししたいという思いから学生時代に始めた。