第1回:歯科における接着の話

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歯質への接着については、1950年代に象牙質やエナメル質への接着が欧米で試みられたが、本格的研究を行い、現在のレベルにまで歯科接着の技術を高めたのは我が国であり、その中心になったのは、東京医科歯科大学の増原英一教授である。“象牙質と化学的に結合する高分子材料”を目指して研究を開始、 1960年の「歯科用充填材料の歯質に対する接着性能試験」と題する論文を出発点として、歯科用接着剤の研究・開発を続け、1980年代初期に象牙質に対して優れた接着性を示す画期的な、世界で始めての接着性レジンを生み出すのに成功したのである。それは、象牙質に対する信頼性の高い接着性レジンとして現在でも使われている「スーパーボンド」である。 実は、この「スーパーボンド」に先立つこと約10年前、増原教授のアイディアをもとに開発された接着性レジン(キャタリスト成分に「スーパーボンド」と同じものを含む)がドイツのKulzer社から「Palakav」として市販され、日本にも輸入されていた。それを筆者も30年ほど前に歯頸部に充填してもらったが、脱落することもなく現在でも残存している。その一方で、臼歯部に充填したアマルガムはずっと以前に脱落してしまっており、接着性レジンの有効性を 示す歴史的一例となっている。 近年、歯質や歯科用合金に対する接着剤、ボンディング剤が種々市販されているが、その根源はすべて増原教授グループにあり、増原教授の存在、アイディア、熱意なくして現在の歯科の接着技術は実現しなかったといってよい。歯科における接着技術、治療は、世界に先駆けて我が国で独自に開発され、発展し、接着歯学として定着しつつある。それには、接着歯学に関する情報交換や普及をめざし、1983年増原教授らが中心となってつくった日本接着歯学研究会や、それが発展して3年後にできた日本接着歯学会の果たした役割は大きい。 この学会は、接着歯学に関する世界で唯一の専門的な組織、学会であることを踏まえ、国際学会も開催するようになっている。このように、接着歯学は日本発の独自のものであり、さらに育て、発展させ、歯科治療に役立てていきたい ものである。 歯科における接着技術は、矯正分野に始まり、保存、補綴、小児分野などで も広く使われるようになってきており、歯科治療における基幹的技術の一つに なりつつある。前歯・臼歯・破折歯のコンポジットレジン修復、メタルインレー修復、ラミネートベニア修復、ブラケット・コンポジットレジンインレー・ジャケットクラウンの接着、硬質レジン前装、接着ブリッジ、メタルボンドクラウ ンや義歯の破折修理、レジン床や金属床義歯のリライニングなどで活用されている。 近年、Minimal Intervention (MI)という概念、言葉が歯科界で取りざたさ れるようになったが、それはまさに接着技術の進歩によりもたらされたものである。従来の歯科治療では多くの健全歯質までも犠牲にすることが前提となっていたが、最大限歯質を残して治療するとともに、二次う蝕も防止するという方向に転換しつつある。MIのみならず、従来の概念、治療法では不可能であったようなことが、接着により可能になる道も拓けつつある。しかし、接着技術、治療もまだ十分完成されたものではない。市販されてい る接着剤、接着システムはさまざまであり、良好な結果を得るには、その使用者、術者がそれらの性質、特性をよく理解することが欠かせない。接着についてはメーカー主導であり、利用者に必ずしもよく理解されているとは思えないところがある。接着のことをよく理解したうえで積極的に治療に応用し、取り入れていってほしいと願っている。その一助となるよう、本コラムでは、歯科接着にかかわる最新の情報、話題を提供するとともに、基礎的事項の解説もしていきたいと考えている。
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