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記事

2018/11/29

医療コミュニケーションを考える -その2-

適切な医療コミュニケーション能力を養うために



前回は、「医療コミュニケーションと接遇コミュニケーションの決定的な違い」をお話ししました。前者の目的は、「患者―医療者間の信頼関係の確立」であり、後者の目的は「会社の利益の向上(そのために行う行為)」です。両者の目的が大きく異なるのですから、医療コミュニケーションの手法が、接遇コミュニケーションのそれと同じはずはありません。しかし現実の教育現場では、この部分を混同している大学教員が多く、学生・歯科衛生士・研修医・若手医局員等への医療コミュニケーション教育に大きな不安を抱いていることを記載いたしました。
今回は、どのようにしたら「医療コミュニケーション能力」を養うことができるのかを主題として考えてみたいと思います。前回も述べましたが、医療コミュニケーションの要は、「患者の心に自分の心を沿わせてみて、患者の心情を察し心の機微にふれること」だといわれています。つまり、私たちは患者の言葉や態度から、患者の心の中を察し、理解し、これをもとに自分の伝えるべき医療内容を的確に、わかりやすく、納得できるように説明しなくてはなりません。これがコミュニケーションであり、医療コミュニケーションの最も基本的な事項でありましょう。
文部科学省文化審議会は、「論理的思考力の育成」こそが、現在の日本の教育において喫緊の課題であり、社会が最も必要としている事柄であるという答申書を提出しています。「論理」とは何でしょうか。琉球大学の道田先生によれば、人間は生きて行くうえで自分以外の人間とコミュニケーションを図っていかなければならない。自分の考えを伝え、自分の考えをわかってもらおうとする時、人はそのことを説明しようとする。よりわかりやすく、筋道を立てて説明することは、自分の主張にわかりやすく、妥当な理由を付けて説明することである。これを論理と呼ぶ。つまり、論理とは、主張と理由の適切な繋がりのことであり、論理的とは、あることが適切な理由に基づいて主張されていることと考えてよいでしょう(図1)。
図2は、論理的思考力とコミュニケーションの関係をシェーマとしたものです。他人とコミュニケーションをとるには、自らの考えを相手に伝え、相手の考えを理解しなければ成り立ちません。これがコミュニケーションの基本です。自分の主張を伝えるためには、相手が理解し、納得できる理由を付けることになります。この主張と理由の繋がりをより妥当性の高いものとするためには、繋がりを考える力、つまり論理的な思考力をフル回転させなければ、妥当性の高い強固な論理は形作られないわけです。
自分の考えを相手に伝えるための手段は「話す、書く」です。相手の論理を知るための手段は「聞く、読む」です。論理的思考力を使って、患者の心情を察し、さらにこちらの考えを理解しやすく説明し納得してもらうことが、患者―医療者間の良好な信頼関係に繋がるのだと考えます。したがって、論理的思考力を身に付けることが、医療コミュニケーション能力の向上に繋がるのです。
では、どのようにしたら論理的思考力を身につけることができるのでしょう(図3)。言語は情報や思想を運ぶ重要なコミュニケーションの道具であると同時に、思考の形成に密接に関与しています。思考は誰でも母国語を用いて行い、我々日本人は日本語で思考します。逆にいえば、言葉を用いないで物事を考えることはできないのです。論理的思考力の育成には、日本語が大きな役割を担っています。たとえば、語彙に乏しい人は、半径30cmの範囲の中でしか思考できません。ところが語彙が豊かな人は、半径30mの豊富な日本語の中に浸りながら自由に思考できるのです。半径30mを持っている方が、より強い主張と理由の繋がりを作り上げ、強い論理を持ち、高い論理的思考力を身に付け、はるかに高いコミュニケーション能力を持っていることになります。「書く」行為は、自分の考えを整理し作り上げることができます。つまり、書くことは考えることです。「読む」行為は、相手の気持ちを察することに繋がります。つまり、読むことによって語彙を増やし、思考の範囲や深さを拡大できるのです。論理的思考力の育成には、日本語が大きな役割を担っていることがすでにお分かりになったと思います。日常生活の論理は言葉の論理でもあるので、言葉を通して論理的思考力を身につけることが最も合理的であると考えます。私たち、医療コミュニケーション能力の向上を願う者は、まず、多くの本を読んで語彙を増やし、小説のなかの人物の心情を察することが可能となり、さらに、日記や手紙を書くことによって、自分の考えを整理し作り上げる習慣が身に付くでしょう。つまり、医療コミュニケ―ション能力の向上のためには、笑顔の作り方やお辞儀の仕方などではなく、論理的な思考力を養うために、愚直に日本語を正しく学ぶことなのです。しかし、多くの日本人は、日本語など毎日使っていてすべてを知っている、今更学ぶ必要はないと考えていることでしょう。本当に知っているのでしょうか。自信過剰なのではないでしょうか。実は、ある会議に出席した各歯科大学の教授10名に、たった一つ、以下の言葉の意味を質問しました。全員、不正解でした。
「流れに掉(さお)さす」
あなたは正しい意味を解答できましたか。日本人であるからこそ、さらに日本語を学び、教養を身に付け、高い品格を得て、論理的な思考力も向上させるために、最終的には医療コミュニケ―ション能力を高め、患者―医療者間の高い信頼関係の確立を目指して、日本語を極めなければならないのではないでしょうか。
「流れに掉さす」の意味:
棹を操って流れに乗って船を進めること。機会をつかんで時流に乗る。物事が順調にはかどる。
「流れを止める。船を流れに逆らって操作する。時流に逆らう。」と答える方が多いですが、全く逆の意味です。
矢島 安朝(やじま・やすとも)
  • 東京歯科大学水道橋病院 病院長

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