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2018/02/28

もう一つの奇跡

もう一つの奇跡

前回のこのコラムでは、3年前の猪苗代湖畔で起きた「奇跡の出会い」について書きましたが、今回はその2ヵ月後に起きたもう一つに奇跡についてお話しいたします。
平成27年5月の土曜日、本学同窓会四国連合会総会に学長が突然出席できなくなったため、急遽私が代理として行くことになり、朝一番の高知空港に向かう機内に乗り込んだ時でした。自分の席をみつけて窓側に座るため、すでに座席についている隣の方を確認すると、なんと○○厚生労働大臣でした。
「これはチャンス!」
名刺を交換しようと思ったのですが、隣の席だというだけで、書類に目を通している大臣に話しかけることを躊躇しておりました。その時です。最後に機内に乗り込んできた私の医局の後輩だった現職の衆議院議員が、私達二人をみて、突然「どうして二人で並んで座っているんですか!」と大声をあげてくれたので、私は大臣と名刺交換ができ、高知空港までの小1時間、ずっとお話するチャンスに恵まれました。
現在の歯科界の閉塞感や数年前にメディアで叩かれたインプラント治療の問題等を話題に挙げたのですが、残念なことに大臣は歯科に関することをあまりご存知無い様でした。私はこのままでは会話が続かず、せっかくの機会を逃してしまうと焦り、背中に冷や汗が流れているのを感じていました。しばらくの沈黙の後、当時の厚生労働省の保険局長が私の高校の1年後輩であることを思い出し、苦し紛れに
「保険局長の○○君は私の高校の1年後輩なのです」と告げた途端、大臣の顔色がパッと明るくなり、そこから堰を切ったように話し始めました。
「それでは先生も松本○○高校のご出身ですね」
「先生の数年先輩になると思うのですが、集団登山の西穂高岳で十数名が落雷事故で亡くなられていますよね。大変な事故でしたね」
「先生の高校では、職員室に住んでいる犬も職員名簿に載っていたそうですね」
大臣は笑顔でわたくしの高校の話をしてくださいました。高校時代の話で盛り上がっているうちに、飛行機はあっという間に高知空港に到着してしまいました。四国は大臣の地元で、当日は高知で講演と視察があり、その後陸路で地元に戻るという強行軍の予定だとお聞きしました。お忙しい大臣の貴重な時間を奪ってしまった非礼をお詫びし、SPに囲まれ先に降りて行かれる厚生労働大臣の背中を見ながらお話ができた感動と、歯科界に身を置いている自分自身に情けない思いがこみ上げました。
大臣が歯科の実態やそれぞれの診療所の閉塞感については、あまりご存じなく、しかし私の高校についての情報を充分に把握しておられたということは、まさしく私の後輩の局長が大臣と頻繁にお会いし、多くの重要案件の報告とともに、出身高校も覚えていただけるほど個人的な話をたくさんしている結果なのだと思います。一方、悲しいかな、現状では歯科の事情を詳細に大臣に伝えられる厚生官僚はいないのでしょう。少なくとも、個人的な話ができるほど頻繁に大臣に会うことが可能な歯科医師出身の官僚は皆無なのでしょう。もし、次官や局長を狙えるような歯科医師の官僚が誕生すれば、もっと歯科界の事情は、正確にリアリティを持って印象深く厚生労働大臣に伝わり、歯科医療に対する理解を深めていただけるのだろうと思いました。現実の歯科界の閉塞感を改善する一つの計画が見えてきた気がしました。
学長の都合が悪くなり、私が代理で高知空港に向かわなければ、偶然知り合いの衆議院議員が同じ飛行機に乗り合わせなければ、私の高校の後輩が現役の局長となっていなければ、厚生労働大臣との貴重な1時間は生まれず、歯科界のための次の一手も思いつかなかっただろうと考えます。偶然がいくつも重なった、まさに奇跡の出会いだと思います。
日本歯科医師会が、各歯科大学が、歯科医療に関係している多くの企業が、歯科界全体が小異を捨て大同に就き、協力し合って長期計画で、臨床経験のある歯科医師を、局長クラスを狙うことのできる優秀な厚生官僚を作り上げることが、歯科界の明るい未来を約束してくれる一つの道であろうと思っています。
矢島 安朝(やじま・やすとも)
  • 東京歯科大学水道橋病院 病院長

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