公益社団法人 日本口腔インプラント学会 第38回 関東甲信越支部学術大会 特別講演2「インプラント治療を通して歯科医療の未来を考える」 ~長期安定性を目指す~

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座長:東京歯科大学口腔インプラント学講座 臨床教授 飯島 俊一 氏
演者:ブローネマルク・オッセオインテグレイション・センター 院長 小宮山 彌太郎 氏

2019年2月10日(日)~11日(月)の2日間、公益社団法人 日本口腔インプラント学会 第38回 関東甲信越支部学術大会が京王プラザホテルで開催された。本大会のテーマは、『インプラント治療を通して歯科医療の未来を考える』を設定し、参加者数は1379名であった。
 今回は、幅広いテーマの中から特に下記の講演内容に着目し、第2弾として特別講演2「インプラント治療を通して歯科医療の未来を考える」の講演内容について報告する。

はじめに
歯科領域における有効な修復の一選択肢として認知されてきたインプラントは、振り返れば今日のオッセオインテグレーションを礎とするかたちで臨床応用されてから半世紀以上が経過している。
 このような現状を踏まえてわが国におけるインプラント領域の第一人者である小宮山氏は、インプラント治療を通じた歯科医療の現状を踏まえた未来像を見据える姿勢を示しながら綿密な診療記録を残すことの重要性と共に歯科の領域に留まらない歴史的変遷を踏まえた内容から語り始めた。
インプラントの歴史の変遷におけるProf. Brånemarkの果たした役割
患者にはQOLの改善、歯科医師には有効な治療法、研究者には莫大なテーマ、業者には夢のような利潤を与えたPer-Ingar Brånemark M.D., Ph.D.は、1929年5月3日に生まれ、2014年12月20日に生涯を閉じた。
 初期段階でProf. Brånemarkを支えた故Prof. Richard SkalakとViktor Kuikka氏の二人が存在しなければ、今日のインプラントの発展は10年、20年は遅れたかもしれない。
Prof. Brånemarkによるosseointegrationの発見は、1962年にイェーテボリ大学におけるベルジアン・ラビット脛骨を用いた微小循環に関する研究過程で遭遇し、発見から3年後の1965年9月29日に故Gösta Larsson氏へのヒト臨床応用が実施された。第2症例の適用は1967年3月17日となり、約1年半を要している。
長期安定的にみた力学的な考察の重要性について
今日、早期加重・即時加重が重視される傾向にあることから、初期固定能力の高さが求められている。かつて、わが国で開発された形状記憶合金、あるいは石膏ボードにネジを埋め込むようなインプラントが世の中に存在したが、これらは初期固定能という力学的観点からは非常に優れていたものかもしれないが、生体組織の治癒機転を理解していない結果で、生物学的観点からは決して薦められるものではなく、市場から消え去った。
 われわれが対象としているのは生きた組織であり、Brånemark教授は骨組織への変形を避ける重要性を力説していた。
インプラント療法でも長期安定的には力学的な考察を重視していただきたい。場合によってはフィクスチャーの本数・位置・直径も要素となる。全てが力による影響を受けることを踏まえ、設計の時点から上構造の適合精度・強度・咬合状態の各要素を考慮に入れていただきたい。
 工業製品は完成時の強度が最も強い。実際に使っていると、人造物は壊れることを前提にすべきである。
 インプラント療法における最も大切なコンポーネント、それはオッセオインテグレーションを呈しているインプラント本体であり、他の部品が壊れても交換すれば済む。
埋入手術に関連した骨吸収および感染におけるリスクについて
Brånemarkは些細なことであってもネガティブと考えられる因子の排除をプロトコールに盛り込んだ。それは器具類の完全な洗浄、滅菌や外科術式における組織に対する最小限の侵襲はもちろんのこと、術前の口腔内環境にまでおよんだ。皮膚面を消毒しても手術中の菌の増殖は避けられないことから手術用のフィルムを貼り付ける。Brånemarkは鼻から出る患者の呼気にもバクテリアが含まれており、それが口腔内に持ち込まれたらネガティブなファクターになるため、遮断するようにすら指導していた。のちの1990年にリューベン大学で行われた実験では、空気中に置いた培地と患者の呼気を集めた培地とでは、培養すると明らかにバクテリアの数が違うという報告もある。
埋入手術に関連した骨吸収の事例では、狭小な残遺骸骨の埋入などがみられる。その後の力による骨吸収も含めてインプラント周囲炎の契機となる骨縁吸収の90%以上が歯科医師に起因するため、いずれも特に注意しておくべき項目となるため、図1をご参照いただきたい。
 不適切な切開線・縫合・抜糸に伴う感染に関連して相談を受ける機会が多い。いかに丁寧な形成をしても、埋入後1〜3週間ほどインプラントに隣接する骨組織が一過性に吸収する。前述のような原因で汚染が存在するならば、増殖した細菌はその間隙に押し込まれるであろう。しかしながら、深部から徐々に骨が形成されてくるために逃げ場を失い瘻孔を形成するが、この時点ではインプラントのネック部に感染がおよび、その部分には骨が形成されないことで吸収の要因となる。

図1 埋入手術に関連した骨吸収およびその他の力による骨吸収について



埋入手術に関連する骨吸収
 ・狭小な残遺顎骨への埋入
 ・埋入時の過大な締め付けトルク
 ・不適切な切開線、縫合、抜糸に関連した感染
 ・浅すぎる埋入

その後の力による骨吸収
 ・アバットメント連結時の過大なトルクおよび長期間にわたる咬合力の累積によるネック部の
  マイクロ・クラック(バット・ジョイントを備えていない場合)
 ・適合性に劣る上部構造
   周縁骨への持続的な応力集中
   骨細管の変形にともなう骨細胞間物質の交換阻害
 ・咬合に関する悪習癖
   周縁骨への単発的あるいは準持続的な応力集中

インプラント周囲炎の契機となる骨縁の吸収の90%以上 が、歯科医師に起因する
患者を失望させないために歯科医師に求められる判断とは何か
例えばインプラント周囲炎が起こったとき、“もう少し様子を見よう”、 “そのうちに収まるであろう”という期待を抱くのが歯科医師の心理だが、インプラントのように異物となり得るものが組織内に存在する場合では特に注意が必要となり、早い決断が被害を最低限にできる。
 Brånemark教授は、“患者を失望させない。そのためには、少しでもネガティブとなる因子は排除する。”ことを大切にしていた。
そして材質の劣化、設計の不備など、歯科医師が関与する因子もある。いずれも経年的な変化は不可避。あらゆる見地から患者およびわれわれの負担をいかに軽減できるのかを治療計画立案時から考えていただきたい(図2)。

図2 “長期維持”を念頭におく場合での注意点



口腔および全身状態、患者の要望、収入の変化、介護条件など 患者側の因子
材質の劣化、設計の不備など 歯科医師が関与する因子
いずれも経年的な変化は、不可避

患者のおよび医療従事者の負担をいかに軽減できるのか?
治療計画立案時からそれを考慮する

インプラント療法において、一番大切なものは何か?
「オッセオインテグレーションを示すインプラント本体」
安全弁を備えたシステムか

修理あるいは改造が容易か?
術者可撤性を備えているか?

インプラント療法がめざすべきものとは何か
短期的な観点からは生物学的配慮、長期的な観点からは補綴的な配慮が求められる(図3)。オッセオインテグレーションの永続、それは生体力学的な配慮に基づいて構造・状況が変わったとき、どのように容易に対処できるかということが問われる。
 設計も同様で上部構造が容易に外せる場合、後に機能は変化させないで、清掃性を高めるような条件を耐えることが可能となる。

図3 インプラント療法における要点



短期的な観点からは、外科的配慮が求められる
オッセオインテグレーションの獲得
 ⇒生物学的配慮

長期的な観点からは、補綴的配慮が求められる
オッセオインテグレーションの永続
 ⇒生体力学的配慮
   構造(将来の状況変化に容易に対処できるか)
   設計
   上部構造の精度
 ⇒生物学的配慮
   清掃が可能な形態

インプラント療法では、外科をより重要視する歯科医師は多い。
歯科医師だけではなく業者も、もっと先を見ようではないか。 
患者さんの長期的なQOL維持に貢献できる歯科医の役割
定期診査はきわめて大切で、訪問による検診の機会はますます増えると思われるが、歯科医師自身が伺えないときには、SkypeあるいはFacetimeを使って遠隔の患者に対して直接、コミュニケーションを取るようにしており、これだけで患者の安心感は増す。先生方には、ぜひ参考にしていただきたい。
私がスウェーデンを離れる直前(1983年5月)にBrånemark教授は、『インプラント療法とは、患者が先に亡くなるか、君が仕事を止めるときか、どちらかまで関係が続くものです。そのつもりで患者に接しなさい。』と諭してくださった。
 その後、自身が気づいた言葉として「生体組織は人間よりも賢いということ。生体組織をいかにだますか、いかに協調できるか、それによって患者さんの長きにわたるQOLの維持に私たちの仕事は貢献できる。」と小宮山氏は締め括った。

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