歯科領域における顕微鏡手術

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難治性根尖性歯周炎に対するEndodontic Microsurgery
医療法人豊永会きのもと歯科/大阪大学大学院歯学研究科 木ノ本 喜史 氏
歯根端切除術は、嚢胞を除去することだけが目的ではなく、根尖性歯周炎の原因となる根管に存在する感染源の除去が重要で歯内療法ではMicrosurgery が主流になってきている。
 日本歯内療法会の理事、西日本歯内療法会会長、そして2018年4月に開催された第15回日本顕微鏡歯科学会学術大会・総会において大会長をされた、関連領域の第一人者である木ノ本氏が語る『難治性根尖性歯周炎に対するEndodontic Microsurgery』の講演内容から、この潮流を感じることができた。
根尖性歯周炎の分類および歯根端切除術
難治性根尖性歯周炎の治療を行う場合、歯根肉芽腫・歯根嚢胞に対しては歯根端切除術が適応となる場合がある。歯内療法の領域では、歯根肉芽腫・歯根嚢胞は根管内に侵入した細菌が原因と考え(表)、腫瘍とは違い、それ自体が増殖していくものではないと考えて歯根端切除術を行っている。
歯科領域における顕微鏡手術
▲表 根尖性歯周炎の分類
したがって、どこに感染源があるかを理解して手術を行うことが重要である。通常、根尖部3mmを切除する(3mmルール)が、これだけでは根管内に残っている感染源は取り切れず、単に根尖を切除するだけでは、感染源となる細菌が漏れ続けることになってしまう。基本的に歯根端切除術という名称にはなっているが、根尖の切除と逆根管充填をセットで考えた上で初めて成功率が上がると考えていくべきである。
しばしば大学病院において、保存科で根管治療を行なっているので、歯根端切除術のときには根尖を切除したままで大丈夫だろうと言われることあるが、根管治療をしても除去できない場所に感染源が残っているので歯根端切除術が必要になるのである。根管治療で届かないところは術中に対応する必要があると考えていただけたら良いと思う。
歯内療法の変遷、そして歯内療法を取り巻く現状について
歯内療法における歯根端切除術は1980年代後半から大きく変化してきた。
まず始めは逆窩洞形成で、演者が学生であった1987年当時には、ラウンドバーで逆窩洞形成を行うと習ったが、最近は超音波を使いレトロチップで根管に沿った逆窩洞形成をするようになった。このようにすることで術後の漏洩あるいは感染源の取り残しが少なくなるという利点がある。
もう一つの変化が逆根管充填材料である。アマルガムが使えなくなり、最近はMTAなどをはじめとするバイオセラミックスと呼ばれる、生体親和性があり、水硬性で封鎖性が良い材料が出現しているため、このような材料を使うことによって成功率が上がっている。
そして、1990年代から米国における歯内療法では、マイクロスコープの使用が一般的になってきた。米国では体育館の中でボランティア診療をする場合でも、歯内療法専門医はマイクロスコープを使用して治療をしており、マイクロスコープがないと歯内療法の診療はできない程に一般化している。日本においても最近では、2018年4月に開催した日本顕微鏡歯科学会では、国内で11社がマイクロスコープを展示していた。そこで、歯根端切除術においてもマイクロスコープの使用が当然となり、切断面のイスムスなどの形態やクラックの確認を行なっている。
 このようにしてEndodontic Microsurgeryが体系化されてきた。
Endodontic Microsurgeryの成功率は
以上のように、歯根端切除術において達成された3つの改良の中では、年代順ではマイクロスコープが最後であり、1990年代後半からであるが、米国、日本いずれにおいても診療経験の初期段階からマイクロスコープを使っている世代が出現し始めており、マイクロスコープを使って歯根端切除術を行うことが歯内療法の分野では当然という認識になりつつある。
歯根端切除術の成功率のメタアナリシスを行なった論文においては、従来のconventionalな方法で行うと59%であったが、Endodontic Microsurgeryで行うと94%と高い成功率であると報告されている。
 私自身の診療における実感では、根に破折がなければまず治ると感じている。歯根端切除術を使った2症例の紹介があったが、いずれの症例においても感染源を取り切りしっかりと根尖を封鎖していることが治癒に至るポイントといえる。
歯根端切除術は、嚢胞を除去することだけが目的ではなく、根尖性歯周炎の原因となる根管に存在する感染源の除去が重要で、そのために根尖部の切断方向や逆窩洞の形成方向、充填材料の選択、拡大視野による確認などの配慮がEndodontic Microsurgeryでは実施されている。歯内療法ではMicrosurgery が主流になりつつあり、4年前から保険診療においてもCBCTを用いることができるようになってきたため、適応範囲がさらに拡大していると木ノ本氏は締め括った。
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